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83、 女の闘い
しおりを挟む私たちが到着したのは、 ちょうど後半の試合が始まった時だったらしい。
『京都武道センター』の入口は、 もう殆ど人がいなかったけれど、 急いで会場に走って行く観客や、 道着姿の選手の姿がちらほら見られた。
「花名、 お前はもうここで降りろ! 父さんたちは駐車場を探して車を停めてくるから」
「うん、 分かった! 行ってくる! 」
「花名、 このお弁当はどうするの? 」
「…… 一応持ってく」
もうお昼休憩は終わっているけれど、 真夏の車に残して腐らせるのは忍びない。
私はお弁当の入ったクーラーバッグと、 化粧品を入れるバニティケースを両手に持って、 会場の中へと駆け込んだ。
荷物を抱えてハアハアと息を切らしながら階段を駆け上がると、 ワアッ! と言う大きな歓声と拍手が聞こえてきた。
今は団体戦の真っ最中なのだろう。
後ろからキョロキョロと京ちゃんを探していたら、 見覚えのある集団の最前列に、 京ちゃんの後頭部が見えた。 隣には宗次郎先生もいる。
そちらに向かって歩いて行ったら、 席に座らずに通路の真ん中で立って試合を見ている色葉先輩がいた。
隣にそっと立って荷物を下に降ろすと、 先輩と同じように手すりに掴まって会場を見渡してみる。
すると、 それに気付いた先輩がこちらを見て、 少しだけ目を細めた。
「随分遅かったのね」
「渋滞に巻き込まれちゃって」
「そのまま来なければ良かったのに」
「…… コタローと約束したので」
「…… そう、 もう付き合ってるの? 」
「付き合います、 これから」
「これからって…… ああ、 そういうこと」
色葉先輩は合点がいったのか、 前を向いてクスッと笑った。
「随分とロマンチックなのね。虎太朗くん、優勝トロフィーをあなたに捧げるって? 」
「…… はい」
「ふ~ん…… 」
色葉先輩はつまらなそうな顔をして、 手すりに前のめりに寄りかかった。
「あなた、 ウソつきよね。 あの時はただの幼馴染って言ったじゃない」
色葉先輩が言ってるのは、 私がコタローに内緒で観に行った試合の日のことだ。
コタローと色葉先輩が仲良くしてるのを見て逃げ帰った挙句、 先輩には『ただの幼馴染だから関係ない』なんて言い放った。
今思えば、 アレはどこからどう見ても立派な嫉妬でしかないのに……。
「すいませんでした。『幼馴染以上の存在だ』ってことに、 自分でも気付いてなかったんです」
「…… ずっと気付かなきゃ良かったのに…… 」
「嫌です。 私は気付いて良かったです」
「ずいぶん堂々としてるのね。 前に会った時は、 あんなにオドオドして、 戦意もへったくれも無かったのに」
「…… そうでしたね。 だけど、 変わろうと思ってます」
「変わる? 」
「……はい。 1日でも早くコタローに追いついて、 一緒に並んで歩けるように」
「そう…… 。 だけど、 ごめんなさいね。 私も彼のことを諦めてないの」
「えっ?! 」
思わず大声を出した私を、 色葉先輩は薄く微笑みながら見つめた。
「今は虎太朗くんの隣にいるのはあなただけど、 高校から彼の隣にいるのは私でありたいと思ってる。 お隣さんで幼馴染のあなたに一緒に過ごしてきた時間では敵わないけれど、 私には彼に釣り合うだけの学力と、『剣道』という共通の道がある。 私はそれに賭けるわ。 それしか無いもの」
そう言いながら、 色葉先輩は、 また会場を見つめた。
色葉先輩は本気だ。 最近ようやく恋心に気付いて狼狽えていた私なんかとは違って、 彼女はしなやかで強い。
天に向かってグンと伸びた青竹のように、 柔軟に、 だけど真っ直ぐに、 彼女の気持ちはコタローに向かっているんだ。
だから私も正直に向き合おう。
ここでの戦いは、 なにも剣道だけではない。
大好きな人を想う、 絶対に譲れない女同士の闘いだってあるんだ。
「先輩…… ごめんなさい。 私もコタローのことを諦めたくないです」
「えっ?! 」
今度は色葉先輩の方が、 驚きながらこっちを向いた。
「私…… 滝高に行きます」
ーー とうとう言ってしまった……。
色葉先輩に宣言した。
これでもう後戻りは出来ない。
いや、 この決心も、 コタローへの気持ちだって 、 もう後戻りなんてする気は無いんだ。
コタローが勝利に向かってひたすら突き進んでいるから、 私も彼を全力で追いかける。
走って走って走り切ったその先に……
「先輩、 私は滝高に入学して、 剣道部に入ります」
きっと栄光へのゴールが待っている……。
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