90 / 100
90、 愛だろっ、 愛っ!
しおりを挟む
「延長戦、 始め! 」
主審の声を合図に、 恩田選手と俺が立ち上がり、 竹刀を交える。
「ヤァーーーーッ! 」
「ウォーーーーッ! 」
鍔迫り合いをしながら、面の中からグッと睨み合う。
視線を外したら負けだ。
集中力と気迫の勝負。
「ヤーーーーッ! 」
「ハァーーーーッ! 」
大声で自分を奮い立たせながら、 チャンスを窺うが、 相手だって一歩も引かない。
そりゃあ、 そうだろう。
延長戦は、 どちらかが1本取るまで続くサドンデス。
勝敗がほんの一瞬の隙で決まってしまうことを、 俺たちは知っている……。
ーー くそっ!
相手は俺が竹刀をちょっと動かすたびに、サッと顔面の防御に入る。
俺が面しか打っていない事に気付いているんだろう。
試合は延長戦に入ってから、 既に4分以上は経過していた。
決勝戦トータルで考えると、 8分近くの激闘だ。
お互いに何度か打ちには行っているけれど、 決め手に欠けて旗が上がらない。
ーー マズイな……。
気合いは充分なのに、 気持ちに左足が付いて来ない。
腫れが酷くなってきたのか、 指先の感覚が鈍くなってきた。
このままでは全く動けなくなり、 案山子のように立ち尽くしたまま、 好き勝手に打ち込まれてしまうだけだろう。
ーー 動けるうちに仕掛けるしかない…… だけど、 いつだ?!
相手が狙ってるのは、 得意技の『面返し胴』だろう。
俺が面を打ちに行ったタイミングで胴を打つ気だ。
その証拠に、 さっきから何度も誘いをかけてきている。
だけどそんな挑発には乗ってやらない。 俺は俺のペースで、 俺のタイミングで行かせてもらうからな……。
この勝負は、 焦れた方の負けなんだ。
試合時間が5分を過ぎると、 恩田選手は完全に面のみを守るようになっていた。
小手と胴がガラ空きだ。
今なら小手と胴のどちらに打ち込んでもキマるだろう。
ーー 小手に行くか……。
そう考えて、 すぐに思い留まった。
ーー いや、 俺はあくまでも、 面で行く!
優勝が懸かっているこの局面で、 そんな事に拘るなんて馬鹿げてるのは、 自分でも承知の上だ。
だけど、 ハナに捧げる一本は、 正々堂々と、 ど真ん中で勝負したいんだ。
なあ、 じいちゃん。 じいちゃんは『無心で挑め』って言ったけどさ、 俺にはそんなの無理なんだよ。
俺の頭ん中はやっぱりいつだってハナのことでいっぱいで、 ハナの前では強くてカッコいい俺でいたいって思っちゃうんだよ。
だけどさ、 じいちゃん、 俺の目標を高く引き上げてくれるのも、 そのために頑張ろうって思わせてくれるのも、 いつだってハナなんだ。
強くなるのも賢くなるのもハナのため、 剣道でここまで来ることが出来たのも、 ハナがいてくれたから。
だからさ、 こんな時くらい、 男の見栄を張ったっていいだろう?
ハナのお陰で立っている大舞台で、 ハナのための一打を打ち込んだっていいだろう?
だってさ …… 最後に勝つのはやっぱ、 愛だろ、 愛っ!
「コタロー、 イケーーっ! 」
沢山の声援の中から、 たった1人のその声だけが聞こえた時、 アイツがテーピングしてくれた足元から、 全身に力が漲ったような気がした。
「うぉーーーーーーっ! 」
気合いを込めて、 腹の底から大声を張り上げズイッと一歩前に出ると、 相手の視線が一瞬たじろぎ、 剣先が僅かに下がった。
ーー今だっ!
「メーーーーーーン! 」
相手の面めがけて、 俺は渾身の一撃を打ち込んだ。
主審の声を合図に、 恩田選手と俺が立ち上がり、 竹刀を交える。
「ヤァーーーーッ! 」
「ウォーーーーッ! 」
鍔迫り合いをしながら、面の中からグッと睨み合う。
視線を外したら負けだ。
集中力と気迫の勝負。
「ヤーーーーッ! 」
「ハァーーーーッ! 」
大声で自分を奮い立たせながら、 チャンスを窺うが、 相手だって一歩も引かない。
そりゃあ、 そうだろう。
延長戦は、 どちらかが1本取るまで続くサドンデス。
勝敗がほんの一瞬の隙で決まってしまうことを、 俺たちは知っている……。
ーー くそっ!
相手は俺が竹刀をちょっと動かすたびに、サッと顔面の防御に入る。
俺が面しか打っていない事に気付いているんだろう。
試合は延長戦に入ってから、 既に4分以上は経過していた。
決勝戦トータルで考えると、 8分近くの激闘だ。
お互いに何度か打ちには行っているけれど、 決め手に欠けて旗が上がらない。
ーー マズイな……。
気合いは充分なのに、 気持ちに左足が付いて来ない。
腫れが酷くなってきたのか、 指先の感覚が鈍くなってきた。
このままでは全く動けなくなり、 案山子のように立ち尽くしたまま、 好き勝手に打ち込まれてしまうだけだろう。
ーー 動けるうちに仕掛けるしかない…… だけど、 いつだ?!
相手が狙ってるのは、 得意技の『面返し胴』だろう。
俺が面を打ちに行ったタイミングで胴を打つ気だ。
その証拠に、 さっきから何度も誘いをかけてきている。
だけどそんな挑発には乗ってやらない。 俺は俺のペースで、 俺のタイミングで行かせてもらうからな……。
この勝負は、 焦れた方の負けなんだ。
試合時間が5分を過ぎると、 恩田選手は完全に面のみを守るようになっていた。
小手と胴がガラ空きだ。
今なら小手と胴のどちらに打ち込んでもキマるだろう。
ーー 小手に行くか……。
そう考えて、 すぐに思い留まった。
ーー いや、 俺はあくまでも、 面で行く!
優勝が懸かっているこの局面で、 そんな事に拘るなんて馬鹿げてるのは、 自分でも承知の上だ。
だけど、 ハナに捧げる一本は、 正々堂々と、 ど真ん中で勝負したいんだ。
なあ、 じいちゃん。 じいちゃんは『無心で挑め』って言ったけどさ、 俺にはそんなの無理なんだよ。
俺の頭ん中はやっぱりいつだってハナのことでいっぱいで、 ハナの前では強くてカッコいい俺でいたいって思っちゃうんだよ。
だけどさ、 じいちゃん、 俺の目標を高く引き上げてくれるのも、 そのために頑張ろうって思わせてくれるのも、 いつだってハナなんだ。
強くなるのも賢くなるのもハナのため、 剣道でここまで来ることが出来たのも、 ハナがいてくれたから。
だからさ、 こんな時くらい、 男の見栄を張ったっていいだろう?
ハナのお陰で立っている大舞台で、 ハナのための一打を打ち込んだっていいだろう?
だってさ …… 最後に勝つのはやっぱ、 愛だろ、 愛っ!
「コタロー、 イケーーっ! 」
沢山の声援の中から、 たった1人のその声だけが聞こえた時、 アイツがテーピングしてくれた足元から、 全身に力が漲ったような気がした。
「うぉーーーーーーっ! 」
気合いを込めて、 腹の底から大声を張り上げズイッと一歩前に出ると、 相手の視線が一瞬たじろぎ、 剣先が僅かに下がった。
ーー今だっ!
「メーーーーーーン! 」
相手の面めがけて、 俺は渾身の一撃を打ち込んだ。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる