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カレカノの関係性 (公開キスの顛末)
しおりを挟む*ちょっと頑張って甘めにしてみました。これから徐々に糖度を高めて行く予定ですので、お楽しみいただければ幸いです。
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「え~っ、 先日の全国中学生剣道大会におきまして、 我が校3年生の天野虎太朗くんが見事優勝を果たしまして……」
夏休み明け最初の全校集会。
校長の長い長い挨拶の後で、 俺は盛大な拍手のなか、 ゆっくりと壇上に上がって行った。
8月に行われた剣道の全国大会で俺はとうとう優勝を果たし、自分で言うところの『世界一強い中学生剣士』の座と、ハナの彼氏の座を手に入れた。
本当なら思いっきり浮かれてもいいところなんだけど、いや、正直言うとハナと付き合える事になってめちゃくちゃ浮かれてるんだけど、せめて表面上は……剣道に関する部分では浮かれているわけにいかないんだ。
俺はこの後、担任と剣道部の顧問と共に私立滝山高校に挨拶に行く。
挨拶と言うよりかは、謝罪に行くと言った方が正しいだろう。
全国大会の会場で俺が公開キスを披露したことは剣道界で大きな話題となり、議論を引き起こした。
『神聖な武道場で不謹慎だ』
『剣道には礼節も大切』
『優勝者には相応しくない行為だ』
一部の重鎮の間で否定的な意見が出ると、
『文句なしの素晴らしい試合だった』
『あれだけの厳しい試合を勝ち抜いたんだから、嬉しい気持ちが溢れてしまうのは仕方がない』
『彼女の励ましのお陰で立ち上がれたんだ』
『今時キスくらいで大袈裟な』
今度はマスコミを中心に俺の行動を擁護する意見が沸き起こり、『優勝剥奪だ』、『いや、文句なしの優勝だ』と対立意見の応酬が繰り広げられた。
それでもやはりマスコミの発信力は絶大で、試合内容は文句なしだった。キスくらいいいだろうと言う世間の論調が大勢を占めるにあたり、俺はどうにか優勝剥奪を間逃れる事ができたのだった。
「「「本当に申し訳ありませんでした!」」」
滝山高校の武道場で俺と担任と剣道部の顧問が揃って頭を下げると、滝山高校剣道部の顧問、 香取先生が苦笑しながら俺を見つめた。
「いやぁ、ビビったよ。もしも優勝取り消しとかになったら推薦もあげられなくなるだろ? 俺としては絶対に天野くんに来て欲しいからさ、頼むからもうこれ以上は問題を起こさないでくれよ」
俺の成績と剣道の実績があれば、推薦入試の合格はほぼ間違いない。とにかく1月末の合格発表までは絶対に問題を起こさないようにと釘を刺されて、俺は家に帰った。
玄関のドアを開けようとしたところで、頭の上から声が降って来た。
「コタロー、どうだった? 大丈夫だった?」
見上げると隣の家の2階の部屋から俺の可愛い彼女、ハナが心配そうな顔を出している。
ーーそうか、心配して俺の帰りを待っていてくれたんだな。
途端にさっきまでの疲れが吹き飛んでテンションが急上昇する。
頭の上で大きな輪っかを作って「大丈夫!」と2階に向かって叫ぶと、ハナはパアッと顔を明るくして、「待ってて、今行く!」と顔を引っ込めた。
ソワソワしながら待ってたら隣の玄関から小さい身体が飛び出して来て、「良かったね」と見上げて来る。
首元がダボっとした白いTシャツにショート丈のデニムパンツ。
ーーうわっ、露出高めだな、エロいな、可愛いな。
「とりあえず話を聞かせてよ。コタローの部屋に行こっ」
俺の袖口を掴むと当然のように先に立って行く。
コイツ絶対に分かってない。彼氏になった俺の危険度ってやつを。
俺たちの関係はもう変わったんだぞ。もうチョコレートの対価抜きでキスしたっていいんだぞ。もっと言わせてもらえば、キスのレベルだって俺的にはもうワンランクアップを目指して待機中なんだぞ。
だけどそんな事はおくびにも出さず、俺はハナに好きなように袖口を引っ張られたまま自分の部屋に入っていった。
「推薦取り消しにはならない? 顧問の先生怖かった? 思いっきり叱られた? 」
柴犬抱き枕の『柴くん』をギュッと抱きしめながら、早口で矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。
コイツめちゃくちゃ心配してんじゃん。そしてかなり緊張してるよな。だって柴くんを握る手に凄く力が入っている。
「心配させてごめんな。でも今のペースで出席日数と成績を維持していればほぼほぼ大丈夫だって言われてるからさ、安心してよ」
「そっか~、良かった~!私のせいでコタローの推薦が取り消しになったら、天野家の皆様に顔向けできないと思ってビビってたよ~」
「そっか、もう大丈夫だ。ありがとな」
「それにさ、私がせっかく滝高に合格してもコタローがいないんじゃ意味ないでしょ? お弁当だってせっかく作れるようになったのにさ」
ーーえっ?
「ハナが……デレ……た……」
俺が右手で口を覆って顔を赤くすると、それを見たハナがハッとして目を泳がせて、斜め上を見ながら呟いた。
「コタローさ……この前からちょいちょい私がデレたとか言うけどさ……付き合ったらこういう会話って普通なんじゃないの? 」
「えっ……」
「コタローは分かってないんだよ。コタローは私が今も幼馴染のハナみたいな感覚でいるけどさ、カレカノになった以上、私だって彼女っぽい事をしてみたいし、コタローに喜んで欲しいなって思ってるんだよ。滝高入学はそのための第一歩なんだよ」
一気に捲し立ててから『柴くん』にボフッと顔を埋めて黙り込んだ。
ポニーテールの尻尾で少し隠れた首筋が真っ赤っかだ。
ーーそっか~。
そうだったのか。
急に態度を変えてビビらせないようにって俺が今までと変わらずに接していたら、コイツはコイツで俺たちの関係性について悩んでくれてたってことなのか。
そうか~……。
俺は早鐘のようにリンゴン鳴り響く心臓の音をそのままに、ズイッとハナの前まで膝を寄せた。
震える手を必死で落ち着かせて、華奢な両肩にポンと乗せる。
「ハナ……ごめん、俺が根性なしだった」
顔を上げて……と囁いたら、ハナは柴くんからゆっくりと顔を離して、不安そうに見つめてくる。
「ハナは俺の彼女だ」
「……うん」
「俺はハナが大好きだし、めちゃくちゃキスしたいと思ってるんだけど……その……キスしてもいいでしょうか?」
最後は小声になってゴニョゴニョと口の中で呟いたら、
「ヘタレだ……」
口元をちょっとだけ緩ませて、恥じらうようにチロッと上目遣いで見上げて来た。
くっそ~、なんだコレ、可愛いな。
お前、もう知らないからな。世界一の剣士の決断力と行動力を思い知れっ!
顔を近づけたら、つぶらな瞳が閉じられた。
そっと触れた唇は、チョコレートを食べた後でもないのに、それ以上にめちゃくちゃ甘かった。
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