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美味しん坊将軍の話 (2)
しおりを挟むそれは1年半ほど前、中1の終わりの春だった。
ハナの誕生日は4月3日で、俺は3月に入ってもまだ誕生日プレゼントが決まらずに、どうしたものかと頭を悩ませていた。
アイツが好きなのは、甘いものに可愛いもの。
だけど甘いものは禁止だから、残るは可愛いもの……と言ったって、既にアイツが欲しそうな物は、プレゼントし尽くした感がある。
可愛いペンにぬいぐるみ、モコモコしたソックスに、苺の香りのリップクリーム……。
ーーアクセサリー、あげたいな……。
出来るなら、オモチャじゃなくて、ちゃんとした本物のやつ。
指輪は意味があるものを来たるべき時に渡したい。
あげるとしたらネックレス……駄目だ。それもちゃんとカレカノになってから、俺が首につけてあげたい。
「やっぱり無難にぬいぐるみにするか……」
そう考えながら階段を下りてリビングに向かうと、テレビの画面では『美味しん坊将軍』様が、何故かテレビ局のガラス窓を背景にして、色紙を片手に微笑んでいた。
ーーおいおい、時代劇の将軍様がそんなとこに立ってちゃ世界観ぶち壊しだろっ!
そう思いながらも、ハナが好きな将軍様なので、一応ソファーに座って見てみる。
『俺の直筆サインを10名様にプレゼントだ。奮って応募してくれよっ!』
ウインクしながらそう言う将軍様を見て、『コレだっ!』と思った。
コレならハナを思い切りビックリさせて、最高に喜ばせることが出来るに違いない。
そう思っていたら、隣から父親の呟き。
「たった10名って……こんなの当選するわけないよなぁ~」
そうか、応募したって当選しなきゃ意味が無いんだ。しかもたった10名って、何倍の確率なんだろう……。
ーーやっぱり危ない橋を渡るより、確実なとこを攻めておくか。
プレゼントはぬいぐるみにしよう……と決めた。
翌日学校に着いて下駄箱で靴を履き替えていると、ちょうど玄関に入って来た京ちゃんを見て、ハナが開口一番に言った。
「昨日の将軍様を見た? 直筆のサイン色紙プレゼントだって!」
「見た見た! 絶対にハナが欲しがるだろうな~ってお母さんと喋ってたんだ。ハガキ1枚協力してあげるよ」
「本当に?! 実は私も昨日のうちにハガキ2枚書いちゃった。当たるといいな~」
「人気あるし、確率低そうだよね」
そんな会話をしながら階段を上がって行く2人を見上げて、俺は決めた。
ーー将軍様のサイン……ハナのために絶対にゲットする!
その日家に帰った俺は、貯金箱の中から小さく折り畳んであった1万円札を取り出すと財布に入れ、ダッシュで郵便局へ向かった。
「郵便はがきを100枚ください!」
郵便局の人は俺に2度ほど桁を間違えていないか確認してから、袋に入ったハガキの束を渡してくれた。
--よっしゃ! 書いて書いて、書きまくる!
その夜、仕事から帰った父親にハガキを20枚手渡して、こう言った。
「一生のお願いだ!サイン色紙の応募ハガキを書いて下さい!」
塾を終えて家のリビングに入って来た母親にもハガキ20枚を差し出しながら、こう言った。
「しばらく塾の手伝いは無報酬でいいから、ハガキを書いて欲しい!お願いします!」
夜寝る前にじいちゃんと囲碁をする前に、揃えたハガキ20枚をスッと畳に滑らせて、こう言った。
「じいちゃん、『花名さんへ』って書いた将軍様のサインがどうしても必要なんだ。協力してくれないか?!」
「おっ、花名ちゃんへのプレゼントか? それは協力しないわけには行かないな。よしっ、じいちゃんは30枚書いてやる。もっと持って来い!」
「じいちゃん、ありがとう!」
こうして天野家総出の人海戦術でハガキ100枚分を書き上げると、「当選しますように!」と手を合わせてからハガキの束をポストに投入したのだった。
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