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16、俺の26歳の誕生日の思い出 (2)
しおりを挟む「私ね、なんとなく気付いてたよ」
散々泣き腫らした真っ赤な目で、彩乃が見上げて来た。
くたびれたローソファーに並んで座って。
彩乃が俺にもたれ掛かって、俺がアイツの肩を抱いて。
「誕生日当日に欲しい物を言うって言われた時に、雄大は自由が欲しいのかな……って思った」
「うん……」
「雄大が自分の作品を撮りたがってるのは分かってたし……私の写真を撮ってくれない理由も、なんとなく気付いてた」
「ハハッ、お見通しだな」
だから俺が仕事を辞めて、写真に専念したいと言い出すのでは……と思っていたのだと言う。
それでも構わないと。自分が働けばいいだけの事だと、そう言おうと思いながら帰って来たのだ……と彩乃は言った。
「それがまさか……海外に行くだなんて……」
「ごめん」
「勝手だね」
「うん……勝手だよな、ごめん」
「でも、もう決めちゃったんでしょ? ずっと長い間考えて、これまでにも散々悩んで……決めたから私に言ったんでしょ?」
「うん」
「それじゃ、仕方ないよね」
「ごめんな……彩乃」
「許せないけど……許さなきゃ、しょうがないじゃない。 だって決めちゃってるんだもん」
「ごめん」
「馬鹿……」
「うん。 大馬鹿野郎だな」
「大馬鹿だ……」
「うん……」
俺の肩に顔を押し付けて、彩乃が肩を震わせた。 Tシャツに生暖かい滲みがどんどん広がって、俺の心も震わせた。
ーーごめんな、彩乃。こんな勝手なヤツが彼氏でごめんな。 夢もお前も諦めてやれなくて、ごめんな。
夕食を食べる頃には既に夜食の時間になっていて、 俺の誕生日が終了するまで残り1時間程になっていた。
彩乃は電子レンジで温め直したオムライスに『26』の数字のロウソクを立ててくれて、あまり上手くもないハッピーバースデイの歌を歌ってくれて。
俺がロウソクの火を吹き消すと、濡れた睫毛を拭いながら、笑顔で拍手をしてくれた。
「私の好物を出してきた時点で、なんかヤバいな……って思ったんだよね」
冗談めかして言ったけれど、その時の彩乃の胸中を思うといたたまれない気持ちになった。
オムライスに旗を立てて欲しいと言われたから、メモ用紙を小さく切ってハートを書いて、爪楊枝に巻き付けて彩乃のに立ててやった。
「ありがとう、嬉しい」
泣き笑いの顔が愛しくて、ギュッと抱き締めてキスをした。
「3年待って欲しい」……俺は彩乃にそう言った。
29歳の彩乃の誕生日までには帰って来る。
それで芽が出なければ今度こそ諦める。
日本に帰って来て、ちゃんとした仕事につく。
もう2度と我が儘は言わない。
「お前が30歳になるまでには花嫁衣装を着させてやるからな」
「ふふっ……ギリギリだね」
「まだ20代だ。ギリギリセーフだろ。 だけどもし、それまでに他に好きなヤツが出来たり待ち切れなかったら、その時は……」
「待ってるよ。 絶対に待ってる」
俺の言葉を遮るように、今度は彩乃からキスをした。
そのまま抱き合って、お互いの気持ちを確かめるように何度も求めあって……
気付けば日付を跨いで誕生日は終わっていて、 夜中の1時過ぎにオムライスを食べる気分じゃなくなった俺たちは、冷凍庫から取り出してきたガリガリ君を交互に齧って食べた。
「やっぱりガリガリ君はソーダ味一択だよね」
「だな。……ってか、ガリガリ君は俺用で、お前にはダッツの抹茶味を買ってあったんだぞ」
「いいの、今日はこれで。 昔もよく2人で分けっこして食べたじゃない」
「……そうだな」
「あの頃に戻れたらな……」
「彩乃……」
そこで彩乃がパッと表情を明るくして、急に思いついたように話題を変えた。
「雄大、私の誕生日プレゼントが決まったよ」
「えっ?」
「雄大との時間。 出発まで、私といっぱい過ごしてよ。 出来る限り2人でいたい」
またしても彩乃の瞳が潤み始めた。
「……うん、一緒にいよう」
ギリギリまで、出来る限り……。
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