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第4話 婚姻届と、湯けむりと、勲章のキス
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「ねぇ、まだなの?このシーツ、ホントもう勘弁してくれる?」
騎士団の砦を出た馬車の中、美咲は文句たらたらだった。と言っても、それも無理はない。全身をシーツでぐるぐる巻きにされ、しかもレインに横抱きされたままという、なかなかに屈辱的なスタイルでの移動だったからだ。
「ハナ、我慢してくれ。婚姻届を出すまでの辛抱だ」
「何その文化。意味わかんない……」
行き先は神殿か教会だろうと思っていた美咲だったが、馬車が到着したのは、石造りの立派な門と重厚な造りの屋敷だった。
「え、なんで屋敷?」と困惑する間もなく、レインはそのままシーツハナを抱えたまま屋敷の中へ。
「花嫁を連れて来た」
玄関で執事らしき人物にそう言い放つレイン。その堂々っぷりに、美咲は思わず噴き出しそうになった。
「ねぇ、別にこのままでも良くない?私、ドレスとかいいし、周囲に迷惑かける方が嫌だし」
ぼそっと言ったつもりだったが、執事の目がカッと見開かれた。え?何?そんな変なこと言った?
「レイン、もう下ろして。マジで。自力で歩くから」
「ダメだ。このまま部屋に連れていく」
そのまま階段を昇っていくレインに、美咲はそっとため息を吐いた。
案内された部屋は、シンプルながらも上品な雰囲気を漂わせていた。余計な装飾がなく、でも一つ一つの家具に品がある。
「……ここ、俺の部屋だ」
レインが呟きながらようやく美咲を下ろす。レインのシャツに、昨日履いていたスキニーパンツというスタイルのまま、美咲はベッドに腰を下ろし、周囲をきょろきょろ見回した。
「レイン、この屋敷ってことは……お風呂とかあるよね?」
「……あるにはあるが、先に婚姻届を出す。順番がある」
「え~、お風呂入りたい……。昨日あんな所で寝かされたんだから、汗とか泥とか、いろいろヤバいのよ」
「ダメだ。お風呂に入ったら、きっと結婚しないとか言い出すだろう?」
「……うっ」図星すぎて言い返せない。
そのとき、ノックの音が響いた。
「坊っちゃま。お母上のドレス、お持ちしました」
銀髪オールバック、まさに“ザ・執事”といった風格のナイスミドルがドアを開けた。美咲は目を輝かせて見惚れてしまい、レインに見つかった。
「……ハリス、ドレスだけ置いて出てくれ」
「坊っちゃま、どなたがご令嬢にドレスをお召し替えさせるのですか?失礼ですが、坊っちゃまにそのような技術があるとは……」
「出てくれって言ってるだろ」
押し問答が始まりそうな空気に、美咲が口を挟んだ。
「ハリスさん、初めまして。ヤマダハナコと申します。ハナって呼んでください。できれば、お風呂に案内していただけないかしら?」
丁寧に挨拶をすると、ハリスはにっこりと微笑み、深くお辞儀した。
「かしこまりました、お嬢様。どうぞ、浴室へご案内いたします」
「ダメだ!」
横からレインの声が飛ぶ。
「昨日あんな場所で寝かされたんだから、せめて汗くらい流したいの!お風呂入りたい!」
「……分かった。ただし、風呂から出たらすぐに神殿へ行くぞ。婚姻届は絶対だ」
「はいはい、分かった分かった」
仕方ないと、またもレインに横抱きにされて、今度は屋敷内を移動。せっかく執事さんいるのに、なぜあなたが運ぶ。
ようやく着いた浴室は……予想以上だった。
「何これ、温泉!?え、広っ!」
壁には蒸気が立ち込め、巨大な湯船がゆらゆらと波打っている。美咲は即座にシャツとパンツを脱ぎ捨てて裸に。振り返ると、そこにレインだけがいた。
「ちょっと、出て行ってよ!」
「いや、俺も一緒に入る」
「はぁ!?1人で入れるわよ!!」
「何かあったらどうする。危険があるかもしれない」
「その“危険”があんたよ!」
「大丈夫。夫だから」
「まだ籍入れてませんけど!?」
「こちらでは、夫婦は一緒に入るのが当然なんだ」
もういい……そう言って、美咲は湯船に身体を滑らせた。
お湯が肌に絡みついて、ふぅっと息が漏れる。
「はーっ、極楽極楽……」
まったりと浸かっていたところに、レインが入ってきた。顔は真っ赤で、でもチラチラこっちを見るその目が、ちょっと可笑しい。
「ハナ……頭、洗おうか?」
「自分で洗えるってば。それよりさ――」
美咲はゆっくりと立ち上がり、レインをまっすぐに見据えた。
「……レインは、私の“全部”見たのよ。だから、あんたも見せなさい」
言い終わらぬうちに、レインもすっと立ち上がった。そこには、引き締まった筋肉、そして無数の傷跡が刻まれていた。
「……傷だらけで、醜い身体だろう?幻滅したか?」
レインの声が、かすかに揺れていた。
美咲は何も言わず、その身体にそっと歩み寄り、両腕を伸ばして抱きしめた。
胸の傷に、優しく口づけを落としながら言った。
「何言ってんの。男の勲章じゃない。レインがこの国を、誰かを守った証でしょ?それって、最高に誇っていいことでしょ?」
目を伏せたまま頷くレイン。その瞳は潤み、感情をこらえきれないように見えた。
「……ありがとう、ハナ」
ぎゅっと抱きしめられた美咲は、レインの背中をぽんぽんと叩いた。
「さ、頭洗いなさい。さっさと身体を洗って、婚姻届出すわよ。――ねぇ、旦那様?」
そう言って、にこりと笑いながら、レインの頭を優しく撫でた。
騎士団の砦を出た馬車の中、美咲は文句たらたらだった。と言っても、それも無理はない。全身をシーツでぐるぐる巻きにされ、しかもレインに横抱きされたままという、なかなかに屈辱的なスタイルでの移動だったからだ。
「ハナ、我慢してくれ。婚姻届を出すまでの辛抱だ」
「何その文化。意味わかんない……」
行き先は神殿か教会だろうと思っていた美咲だったが、馬車が到着したのは、石造りの立派な門と重厚な造りの屋敷だった。
「え、なんで屋敷?」と困惑する間もなく、レインはそのままシーツハナを抱えたまま屋敷の中へ。
「花嫁を連れて来た」
玄関で執事らしき人物にそう言い放つレイン。その堂々っぷりに、美咲は思わず噴き出しそうになった。
「ねぇ、別にこのままでも良くない?私、ドレスとかいいし、周囲に迷惑かける方が嫌だし」
ぼそっと言ったつもりだったが、執事の目がカッと見開かれた。え?何?そんな変なこと言った?
「レイン、もう下ろして。マジで。自力で歩くから」
「ダメだ。このまま部屋に連れていく」
そのまま階段を昇っていくレインに、美咲はそっとため息を吐いた。
案内された部屋は、シンプルながらも上品な雰囲気を漂わせていた。余計な装飾がなく、でも一つ一つの家具に品がある。
「……ここ、俺の部屋だ」
レインが呟きながらようやく美咲を下ろす。レインのシャツに、昨日履いていたスキニーパンツというスタイルのまま、美咲はベッドに腰を下ろし、周囲をきょろきょろ見回した。
「レイン、この屋敷ってことは……お風呂とかあるよね?」
「……あるにはあるが、先に婚姻届を出す。順番がある」
「え~、お風呂入りたい……。昨日あんな所で寝かされたんだから、汗とか泥とか、いろいろヤバいのよ」
「ダメだ。お風呂に入ったら、きっと結婚しないとか言い出すだろう?」
「……うっ」図星すぎて言い返せない。
そのとき、ノックの音が響いた。
「坊っちゃま。お母上のドレス、お持ちしました」
銀髪オールバック、まさに“ザ・執事”といった風格のナイスミドルがドアを開けた。美咲は目を輝かせて見惚れてしまい、レインに見つかった。
「……ハリス、ドレスだけ置いて出てくれ」
「坊っちゃま、どなたがご令嬢にドレスをお召し替えさせるのですか?失礼ですが、坊っちゃまにそのような技術があるとは……」
「出てくれって言ってるだろ」
押し問答が始まりそうな空気に、美咲が口を挟んだ。
「ハリスさん、初めまして。ヤマダハナコと申します。ハナって呼んでください。できれば、お風呂に案内していただけないかしら?」
丁寧に挨拶をすると、ハリスはにっこりと微笑み、深くお辞儀した。
「かしこまりました、お嬢様。どうぞ、浴室へご案内いたします」
「ダメだ!」
横からレインの声が飛ぶ。
「昨日あんな場所で寝かされたんだから、せめて汗くらい流したいの!お風呂入りたい!」
「……分かった。ただし、風呂から出たらすぐに神殿へ行くぞ。婚姻届は絶対だ」
「はいはい、分かった分かった」
仕方ないと、またもレインに横抱きにされて、今度は屋敷内を移動。せっかく執事さんいるのに、なぜあなたが運ぶ。
ようやく着いた浴室は……予想以上だった。
「何これ、温泉!?え、広っ!」
壁には蒸気が立ち込め、巨大な湯船がゆらゆらと波打っている。美咲は即座にシャツとパンツを脱ぎ捨てて裸に。振り返ると、そこにレインだけがいた。
「ちょっと、出て行ってよ!」
「いや、俺も一緒に入る」
「はぁ!?1人で入れるわよ!!」
「何かあったらどうする。危険があるかもしれない」
「その“危険”があんたよ!」
「大丈夫。夫だから」
「まだ籍入れてませんけど!?」
「こちらでは、夫婦は一緒に入るのが当然なんだ」
もういい……そう言って、美咲は湯船に身体を滑らせた。
お湯が肌に絡みついて、ふぅっと息が漏れる。
「はーっ、極楽極楽……」
まったりと浸かっていたところに、レインが入ってきた。顔は真っ赤で、でもチラチラこっちを見るその目が、ちょっと可笑しい。
「ハナ……頭、洗おうか?」
「自分で洗えるってば。それよりさ――」
美咲はゆっくりと立ち上がり、レインをまっすぐに見据えた。
「……レインは、私の“全部”見たのよ。だから、あんたも見せなさい」
言い終わらぬうちに、レインもすっと立ち上がった。そこには、引き締まった筋肉、そして無数の傷跡が刻まれていた。
「……傷だらけで、醜い身体だろう?幻滅したか?」
レインの声が、かすかに揺れていた。
美咲は何も言わず、その身体にそっと歩み寄り、両腕を伸ばして抱きしめた。
胸の傷に、優しく口づけを落としながら言った。
「何言ってんの。男の勲章じゃない。レインがこの国を、誰かを守った証でしょ?それって、最高に誇っていいことでしょ?」
目を伏せたまま頷くレイン。その瞳は潤み、感情をこらえきれないように見えた。
「……ありがとう、ハナ」
ぎゅっと抱きしめられた美咲は、レインの背中をぽんぽんと叩いた。
「さ、頭洗いなさい。さっさと身体を洗って、婚姻届出すわよ。――ねぇ、旦那様?」
そう言って、にこりと笑いながら、レインの頭を優しく撫でた。
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