想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと

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第21話 誓いと別れと、変わる想い

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王都で第一王子が暗殺された――その報せは、瞬く間に国内を駆け巡った。誰が、なぜ、何のために。人々の間では様々な憶測が飛び交い、中でも一番疑われたのは、遠く辺境に身を置いていた第三王子だった。

“都落ち”という屈辱を受けた彼が、その恨みから手を下したのではないか――そんな声すら上がった。

次に名が挙がったのは第二王子だった。王太子の座を巡る目に見えぬ水面下の駆け引きは、常に火種を孕んでいる。だが、意外にも真相はあっさりと明らかになった。

犯人は、なんと王太子妃だったのだ。

第二王子に秘かに想いを寄せていた王太子妃は、第一王子がいなくなれば、自分が自然と第二王子の婚約者になれるのではと考え、暗殺を指示した。妄執とも言える思い込みが、国を揺るがす悲劇を招いたのだった。

暗殺事件は、あまりにも手がかりがなく、ついには辺境にいる第三王子にまで疑いの目が向けられ、王都から呼び戻されようとしていた。だがその直前――王太子妃の“第二の行動”が、すべてを露呈させた。

なんと、第一王子の婚約者が、第二王子の婚約者を密かに呼び出し、毒入りのクッキーを手渡したのだ。苦しむ彼女の叫びを聞きつけた護衛騎士が部屋に駆け込み、未遂で済んだものの、毒の影響で妊娠が難しくなると診断された。

その知らせにより、婚約は白紙となり、絶望した彼女は――自宅で命を絶った。

第一王子の婚約者、つまり犯人は、即日処刑された。

そして、無関係であったはずの第三王子にも、王都への帰還命令が下ることとなった。



その知らせの後、サンダーボルトから美咲の元へ一通の文が届いた。

「都へ戻る前に、どうしても会いたい。神殿に来てほしい」

今は事情があって神殿から出られないらしい。美咲は、彼の言葉を無視できず、神殿へ向かった。

案内をしてくれたアイザックとレイモンドの顔が、なぜか苦い。まるで梅干しでも噛んだような顔だった。

「何かあったの?」

そう尋ねても、アイザックは黙したまま。代わりにレイモンドが、短く「いや……なんでもないよ」とだけ答えた。

不審に思いつつ、来賓室へ入ると、そこにはサンダーボルトがいた。そして、その背後には見知らぬ男性が三人。

「サンちゃん……これって?」

「うん、王城から来た者たちさ。昔の側近と、乳兄弟だよ。……お別れの場に、どうしても立ち会いたいって言うから、連れてきた」

彼はどこか照れ臭そうに微笑んだ。昔、彼を裏切った相手だというのに、恨みの色はない。少しだけ苦笑いが浮かんでいる。

「そう。じゃあ、私から挨拶する必要もないわね」

「ああ。しなくていい。今日は……ミサキに伝えたいことがあって」

彼の瞳が、美咲を真正面から捉えた。

「ミサキ。初めて君を見たときから……一目惚れだった。何度か言葉を交わすうちに、どんどん惹かれていった。でも俺には、言えない理由がたくさんあった。……王都に戻れば、またあの厄介な立場に戻る。それでも、後悔だけはしたくないから、今、伝えるよ」

少し息を吸って、彼は頭を深く下げた。

「ミサキ……君を愛してる。他に夫がいても構わない。俺を、その一人に加えてくれないか」

その言葉に、美咲は少し目を丸くしたが、すぐに、柔らかな笑みを浮かべて答えた。

「いいわよ。サンちゃん、変わったもの。前とは全然違う。……がんばり屋のサンちゃんを、1人にしてはおけないわ」

顔を上げたサンダーボルトの目が見開かれる。

「ほ、ほんとうに……!?」

「でも、条件があるの。王様や王妃様が認めてくれなくても、私はサンちゃんを認めてる。だから、安心して都に戻って。……夫の枠は、ちゃんと空けておくわ」

その言葉を聞いた瞬間、彼の目に涙が溢れた。

「……ミサキ、お願いだ。今すぐ婚姻届を出してくれ。俺には……時間がないんだ。都に戻れば、きっとまた、適当な婚約者を押しつけられる。お願いだ。君の夫として、正式になりたいんだ」

静かに考え込んだ美咲は、やがて頷いた。

「いいわ。出しましょう、婚姻届。でも、初夜は認めてくれてからね?」

その答えに、サンダーボルトは涙をこぼしながら、嬉しそうに何度も頷いた。彼の昔を知る元側近たちも、その変わり様にただ驚き、口を噤むしかなかった。

礼拝堂で二人は静かに誓いを立て、初めてのキスを交わした。

そのあと、サンダーボルトが言った感想がまた、彼らしくて。

「ミサキが……可愛すぎて、死ぬかと思った」

少し物騒な表現に、美咲は笑ってしまった。



出発の時が来た。

「ミサキ、俺は……本当に、君の夫なんだよな?」

「ふふ。そうよ。ちゃんと婚姻届け出したでしょ?会えなくたって、忘れたりしないわ。だってサンちゃん、強烈すぎて忘れようがないもの」

「寂しくないか?」

「少しは、ね。でも……お互い、元気でいましょうね」

「ミサキ、キスがしたい。……抱き締めてもいいか?」

そのわがままに、美咲はそっと彼を抱き締め、そして唇を重ねた。何度も、何度も。

「離れたくない……」

そう呟いた彼の目には、また涙が浮かんでいた。

馬車に乗り込んだサンダーボルトが遠ざかるのを、ただ黙って見送った。

その帰り道。ようやく、先ほどのアイザックとレイモンドの苦い表情の理由が分かった。

――どうやら、サンちゃんが美咲に告白するって、前もって聞かされていたらしい。

そりゃあ、嫉妬もするわよね。
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