俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ

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 現れた壁様は確かに立派だった。

 縦190cm、横は60cmくらいあるだろうか。厚みもしっかりとある重量級。だが、淡いグレーに白金と空色のアクセントで目にやさしい色彩だ。
 確かに、この壁様を間に置けば殿下は視界から隠れるだろう。でもこれって───

「……壁様……なのか?」

 謁見の間がざわめいた。だって。

「あらあらまあまあ。本当にモーリス殿下が送ってくださったのね! ようこそいらっしゃいました。長旅は大変だったでしょう? でも、どのように梱包されてきたのかしら」

 え? 梱包するの? この壁様を?

「突然の訪問をお許しくださり感謝申し上げます」

 低くてずっしりとした安定感のあるバリトンボイスはさすが壁様。というか、

「壁様は人間だったのか⁉」
「フェーン国、第三王子側近のイザーク・マウアーと申します」

 室内のざわめきの理由を尋ねることなく、壁様が名乗った。
 そう。現れた壁様は成人男性だった!
 年齢は20代半ばくらいだろうか。体は大きいが、穏やかな顔立ちをしている。柔らかなプラチナブロンドに空色の瞳、そして控えめな淡いグレーのスーツ。キラキラ眩しい殿下と違ってなんだか落ち着いた風貌だ。
 マウアーといえばフェーン国の辺境伯。だが、どうして彼が壁様なんだ?

「「「あ」」」

 マウアー 意味 壁⁉

「マウアー卿、ごきげんよう」
「……ナディージュ嬢。なぜここでも私は壁扱いされているのですか」
「だって、殿下と結婚させられるなら貴方が必要でしょう? 絶対に毎日ストレスが溜まって愚痴を言いたくなるもの」
「私はこれでもモーリス王子殿下の側近なのですが」
「ええ、そうね? でも、あの方もそろそろ婿入りなさるではありませんか。ちょうどいいので鞍替えしませんか? どうやら私はあなたのことがす「ちょっと待ったあぁぁあっ!!!」

 皆が呆然としている間にサクッと告白しようとしているナディージュを殿下が慌てて止めに入った。

「……殿下。乙女の一世一代の告白を邪魔するとは言語道断ですよ?」

 笑っているのに完全に怒っているのが分かるという、凄まじい笑みを浮かべながらナディージュ嬢が殿下を詰る。

「いや! 違うだろう⁉ 俺が先に妻になってほしいと頼んでいたじゃないか‼」
「お断りしましたよね? 私個人への恋愛感情での打診ならば即お断り。シャリエ伯爵家への打診ならば、それもまた、我が家程度では荷が重過ぎるからお断り。国として考えるならバイヤール国がイチ押しで、次はカルノー公爵家、リサジュー侯爵家が控えていますから我が家など論外。
 ね? どのルートを選んでも私と殿下が結ばれる道などありませんよ?」

 ニッコリと笑顔でグサグサと正論というやいばで殿下を切り伏せると、次は国王陛下に向き直り、

「まさか、たかだか殿下の恋心のために王命など出すはずありませんよね? だって、国のためにならないのですから。それでも強引に私と殿下を結婚させるなら、いつでもどこでも壁様マウアー卿付きですよ? 先ほど、結婚できるのなら何でもすると殿下が宣言しましたもの」

 いつでも間にマウアー卿? とりあえず、台座はいらないのでは。だって自力で移動できるし。

「そうなったらごめんなさいね? マウアー卿には殿下と誓いの口付けをしてもらうことになってしまうわ」
「私を殺す気ですか」
「それくらい嫌なの」

 これは無理。絶対に無理だろう。諦めよう、殿下! さすがに壁様マウアー卿が可哀想ですって!
 こんな無理難題を突然押し付けられて、怒鳴るでもなく、泣くでもなく、淡々と返事をしている諦めきったあの目! 可哀想が過ぎる! というか、想像した絵面が可笑しすぎるから‼

「……なぜだ。どうしてこんなぽっと出の男に君を奪われなくてはいけないんだ!」
「そうですわね。すべては殿下のせいだと思いますよ?」

 それから、ナディージュ嬢はどうしてマウアー卿が壁様になったのかを語り始めた。




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