婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ

文字の大きさ
7 / 40

6.月明かりの中で

しおりを挟む
夜、何かが窓に当たる音がして目が覚めた。

恐る恐る窓を見ると、レースのカーテン越しに人影が見える。見覚えのあるシルエット。

「まさか……ベニー!?」

慌てて窓を開けると、ベランダには本当にベニーが立っていた。

「貴方何を…!」
「しっ、声を抑えて」

あ、確かに、こんな所を見られたら、いくら婚約者でも叱られてしまう。

「中に入れて」

どうして?貴方は私が嫌いなくせに。

「……どうぞ」
「ありがとう。明かりは点けないで」

月明かりがベンジャミンの髪を優しく煌めかせる。幻想的で、やっぱり綺麗な人だ。

「……どうしてこんな真似を?」
「どうして?それは俺が聞きたい。どうして俺を避けるんだ」

なぜ避けるか。そんなの……貴方が私を疎ましく思っているから。言える訳も無いけれど。

「……気のせいでしょう」

ベンジャミンが私の腕を掴む。大きな手のひら。男の手だ。……熱い。

「俺が気が付かないと思った?」

そのまま引き寄せられ、腰を抱かれる。

「ね、離して」

こんな寝着しか身に着けていない状態で抱き締められるなんて!

「理由は?」
「恥ずかしいからよっ」

身を捩っても全く力を弛めてくれない。それどころか更に密着してくる。ベンジャミンの体温が伝わってきて、羞恥に頬が染まる。

「違う。俺を避ける理由だ」
「…っ、だから!」
「お前は酷い女だ。昼間はあんなに嬉しそうに笑っていたくせに。キスだって受け入れたくせにっ。それなのに、家に帰った途端、俺を避ける。そんなのを見逃せというのか」

思わず振り仰ぐと、真剣な眼差しとぶつかる。
どうして?嫌いな私が避けたから何だと言うの?あんな言葉を聞いて、普通に貴方と話をしろというの?

「……なぜ泣くんだ」

貴方の言葉を聞いても涙は出なかったのに。
こうやって体温を感じて、視線を交わすだけで涙が溢れてしまう。

ああ、いつの間に──

……あなたがすき……

馬鹿みたい。私の全てを拒絶している男を好きになってしまった。
だって貴方の笑顔が嬉しかった。貴方からの口付けが嬉しかった。やっと手が届いたのだと歓喜したのに!

「……泣くな」

そっと、涙を拭われる。

「お前は、そんなに……」
「え?」

なぜ、貴方がそんな傷付いた顔をするの?

つい、涙など出ていないのに、彼の目元に触れる。その手をとられ、

「何だよ、その手練手管は。そうやって男を手玉にとって遊んでいるのか?」

そう言って、反論しようとした私に噛みつく様に口付けをしてきた。昼間のキスが子供の悪戯に思える程の、荒々しく執拗な口付け。

「っ、ん、苦しっ」
「まだっ」

部屋の中に二人の吐息だけが響く。

「あっ、駄目、駄目よ、これ以上は!」

口付けながら、ベンジャミンの手が私の体を撫でる。

「……触れたのは俺だけ?」
「当たり前でしょうっ」
「これからも守って。シェリーは俺のだ」

何を言っているの?嫌いでも、他人の手垢が付くのは許せないとか、そういう話?

「……私は私のものよ」
「ダメ。俺のだって言って」

ひっ!胸元に口付けないでっ!

「しょっ、将来は貴方の妻よ!」

貴方のものだとは悔しくて言いたくない。これが限界!

「そうだよ。忘れないで」

そこで囁かないで!擽ったいし恥ずかしいっ。
どうしよう。これでまだ15歳なの?結婚まで、あと3年もあるのに、私は無事でいられるのかしら!?

私の考えが分かったのだろう。
くすりと笑うと、

「今度俺を避けたら……抱くから」
「ひっ!」

怖い!どうして嫌いなくせに執着するの!?

「返事は?」
「……貴方だって!浮気したら許さないわ!」

どうして私だけ一方的に浮気するみたいに責められてるの?絶対に貴方の方がモテモテのはずなのに!

「俺が他の女に触れるのは嫌?」
「当たり前でしょう?」

誰かと夫を共有したい女などいるものか!

不機嫌になるかと思ったが、意外とこの言葉に満足したらしい。

「なら、俺が振らつかない様に側にいてくれ」
「……私はもうここにいるじゃない」

5年もの長い間、この家で貴方に嫁げる日を指折り数えて待つというのに。

「シェリー、来週末空けておいて」
「どうして?」
「クアーク伯爵令嬢の誕生日パーティーに招待された」
「どういう繋がりなの?」
「生徒会役員」

なるほど。……15歳の誕生日パーティーか。
ちょっと嫌だけど。

「分かったわ」
「ありがとう、じゃあそろそろ戻るよ」

いつの間にやら機嫌が戻っている。よく分からない人だわ。

「おやすみシェリー。良い夢を」

当たり前のようにキスをして帰って行く。

私を嫌うくせに、余所見をするなと身勝手なことを言うのね。

天使だったベンジャミンはすっかりと悪い男になってしまった。



しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

処理中です...