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2.お父さんのお気に入りはおいくらですか?
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市場に向かって走る。
急いでいるのもあるけれど、本当は何も考えたくないから。
一度でも足を止めてしまうと、恐怖に呑み込まれてしまいそうで、ひたすら走り続けた。
「おじさん!」
お目当ての店にたどり着き、勢い良く飛び込む。
「おお、フェリシアじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ」
厳つい顔だが、本当は優しい店主が声をかけてくれる。
「王都に行きたいの。この髪、いくらで買ってくれる?」
本当はきれいに洗って香油でも付けたほうがよかったのだろうけど、時間がないし、香油なんてそもそも持っていない。でも、金髪は高く売れると聞いたことがあるわ。
「待て待て待て! 本気で言っているのか⁉」
「本気よ。このままだとのたれ死ぬか、一生両親に搾取されて生きることになる」
そんな人生を変えるためなら、髪くらい安いものだ。
「……髪は女性にとって大切なものだろうが」
「生きていればまた伸びるわ!」
「そんなに生活が苦しいのか」
「うん。また、赤ちゃんが産まれるんですって」
私の言葉に、店主が大きく溜息を吐いた。
それから私の髪を一房すくい、手触りを確かめた。
「……うん。きれいな色だ」
「でしょ? お父さんのお気に入りよ」
でも、ちょっとパサついていると文句を言われた。だから少し値が下がるのですって。
だけど、王都に行くには十分な金額になるようでほっとした。
それから店主が無言で鋏を持ってきた。
「本当にいいんだな?」
「……はい。お願いします」
──シャキ。
一度確認したあとは、戸惑うことなく髪が切られていく。
思わず息を詰めてしまったが、あっという間に切り終わり、パサリと頬に髪が触れた。
「……短い」
「そうだな」
自分で決めたことなのに、何だか鼻の奥がツンとしてしまう。
「サービスだ。これに着替えていけ」
そう言って差し出されたのは、男の子用の服だ。
「女のひとり旅は危険だ。まだ、小僧のほうが安全だろう」
「……ありがとうございます」
生成りのシャツに焦げ茶色のベストと長ズボン。靴はもともとヒールのないブーツだからそのままで。
「ほら、帽子を深くかぶって顔も隠せ」
もともと痩せぎすで貧相な体つきだったから、たぶん、ちゃんと男の子に見えるだろう。
「……また、返しに来ますね」
「どうせ息子のお古だ。たいしたものじゃないから気にすんな」
そう言って頭をグリグリと撫でられた。
「気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます!」
……赤の他人である店主はこんなに優しいのに。
なんとなく卑屈になりそうな気持ちを振り払うように、また走り出した。
髪を切った分だけ、早く走れるようになった気がした。
急いでいるのもあるけれど、本当は何も考えたくないから。
一度でも足を止めてしまうと、恐怖に呑み込まれてしまいそうで、ひたすら走り続けた。
「おじさん!」
お目当ての店にたどり着き、勢い良く飛び込む。
「おお、フェリシアじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ」
厳つい顔だが、本当は優しい店主が声をかけてくれる。
「王都に行きたいの。この髪、いくらで買ってくれる?」
本当はきれいに洗って香油でも付けたほうがよかったのだろうけど、時間がないし、香油なんてそもそも持っていない。でも、金髪は高く売れると聞いたことがあるわ。
「待て待て待て! 本気で言っているのか⁉」
「本気よ。このままだとのたれ死ぬか、一生両親に搾取されて生きることになる」
そんな人生を変えるためなら、髪くらい安いものだ。
「……髪は女性にとって大切なものだろうが」
「生きていればまた伸びるわ!」
「そんなに生活が苦しいのか」
「うん。また、赤ちゃんが産まれるんですって」
私の言葉に、店主が大きく溜息を吐いた。
それから私の髪を一房すくい、手触りを確かめた。
「……うん。きれいな色だ」
「でしょ? お父さんのお気に入りよ」
でも、ちょっとパサついていると文句を言われた。だから少し値が下がるのですって。
だけど、王都に行くには十分な金額になるようでほっとした。
それから店主が無言で鋏を持ってきた。
「本当にいいんだな?」
「……はい。お願いします」
──シャキ。
一度確認したあとは、戸惑うことなく髪が切られていく。
思わず息を詰めてしまったが、あっという間に切り終わり、パサリと頬に髪が触れた。
「……短い」
「そうだな」
自分で決めたことなのに、何だか鼻の奥がツンとしてしまう。
「サービスだ。これに着替えていけ」
そう言って差し出されたのは、男の子用の服だ。
「女のひとり旅は危険だ。まだ、小僧のほうが安全だろう」
「……ありがとうございます」
生成りのシャツに焦げ茶色のベストと長ズボン。靴はもともとヒールのないブーツだからそのままで。
「ほら、帽子を深くかぶって顔も隠せ」
もともと痩せぎすで貧相な体つきだったから、たぶん、ちゃんと男の子に見えるだろう。
「……また、返しに来ますね」
「どうせ息子のお古だ。たいしたものじゃないから気にすんな」
そう言って頭をグリグリと撫でられた。
「気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます!」
……赤の他人である店主はこんなに優しいのに。
なんとなく卑屈になりそうな気持ちを振り払うように、また走り出した。
髪を切った分だけ、早く走れるようになった気がした。
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