1 / 17
1.
しおりを挟む
ラフィーネ王国はかつて竜が治める国であった。
竜が人間の番を得て、愛する者の為に国を護った。
長い年月を経て竜としての姿や能力は失われていったが、愛する「番」への本能は未だ残っていた。
特に王族は番への本能を強く持っているものが生まれることがある。
逆に爵位の低いものや平民などは番を認識することはほぼできなかった。
現在の国王と王妃は番同士ではない。
少なからず番を求める思いはあったが国内では見つからず、王族としての責務を放棄してまで他国へ番を探しに行くことはできなかったからだ。
それでも賢王賢妃として賞され、仲睦まじく国をまとめている。
こうやって竜としての本能は薄れ、いずれは完全に消えていくのだろうと思われていた。
王弟であるコンラート公爵もいまだ番を見つけられずにいた。
しかし、30歳を超えてもいまだ諦めることができず、兄である国王にはもう少しだけ待ってほしいと結婚を拒んでいた。
血を絶えさせてはいけないことは分かっている。
それでも…
どうしても番への夢が消えなかった。
その館を訪れたのは本当に偶然だった。
水害対策の視察に向かう道中、普段であれば魔物のでないはずの街道に、はぐれの魔物であろうか。大型の熊型が一体現れたのだ。
なんとか倒すことは出来たが、馬車の車輪が外れ、怪我人も出たことから近くの男爵家に助けを求めた。
男爵といっても王都の裕福な平民の方がもっと豪華な屋敷に住んでいるのではないか?
そう思われるほど鄙びた館であった。
突然の王族の訪問に男爵は狼狽え青褪めていた。
多少申し訳なく思ったが、緊急事態だ。悪く思わないでほしい。
なるべく早く出立する旨を伝えようと思った。
しかし…何かを感じる?なんだ?
まるで見えない何かに導かれるように、館の主の制止を無視して建物の奥に駆け出す。
そして…
バンっ!
扉を開け放つとそこには驚きに声も出ずにいる一人の少女がいた。
柔らかいミルクティーブラウンの髪に空を写したような澄んだ瞳。
目があった瞬間心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
(見つけた!私の番!)
心が歓喜に満ち溢れた!
そのまま室内に入り少女を力いっぱい抱きしめた。
「ひっ!」
あぁ、なんて可愛らしい声なんだ。小さくて柔らかい体。甘い香り。
「は、はっ離して下さい!」
カタカタと震えている。まるで子猫のようだ。
「怯えないで、私の番」
「っ、番?なに言って…」
「おまえを愛し守る者だよ」
信じられないというような顔で私を見つめてくる。
あぁ、そんなに美しい瞳で見つめられたら…
「っんぅ⁉」
思わず口づけてしまう。
心が震える。これが番との初めての口づけ…
「~~っ!」
可愛らしい手でこぶしを握りポスポスと胸を叩いてくる。もしかして抵抗しているのか?
可愛すぎるだろう!
チュッと下唇を吸い名残惜しいが離れる。
大きな瞳に涙を浮かべて息苦しかったのか喘ぐ姿に欲望が膨れ上がる。
早く連れて帰らなければ…
「公爵様何を!」
バタバタと男爵と護衛の者が駆けつけてくる。
断りもなく屋敷に侵入し、大事な娘に手を出したんだ。
たとえ相手が公爵でも許せるものではないのだろう。
「彼女は私の探し求めていた番だ。
まさか出会えるとは思わなかった。本当に嬉しいよ!
必ず大切にすると約束する」
私の言葉に護衛達は驚き、歓声を上げた。
男爵と娘は信じられないのか呆然としている。
「あ、あの少々お待ちください!
娘は、ラウラはまだデビュタントも迎えていない子供です!
いきなりそのようなことを言われましてもっ」
「あぁ、だから出会うことができなかったのだな。
本当に幸運だったよ。
魔物に襲われなければこちらを訪れることはなかった。
きっと神の導きだったのだろう、感謝しかないな」
番を抱き上げ近くのソファーに座る。
まだ慣れないのだろうか?体を固くしている。
早く連れて帰って心も体も癒やしてあげねば。
「応急処置が済み次第王都に戻ろう。
番を連れて帰らねば。荷物は本当に大切なものだけ持っておいで。
後のことは私に任せるといい」
「そんな!まさかこのまま娘を連れて行くおつもりですか!?」
「?当たり前だろう。番だぞ?
本当は護衛の目にも触れさせたくはないのだ」
こんなに美しい娘だ。離れがたいのは分かるが、番であれば仕方のないことだろう?
田舎からあまり出ていないようだから、そういった常識を理解していないのか。
「…公爵様…
私はこのままお父様と離されるということですか?
突然のことで、…番と言われましても私には申し訳ありませんが分かりません!
何かの間違いです!」
…残念なことだ。下位のものは本当に番が分からないのだな。
あの時の衝撃を感じることができれば一瞬で理解できるのに。
「大丈夫だ。私の番で間違いない。
おまえは自信を持って愛されればいい」
大きく見開いた瞳からホロホロと涙が溢れる。
まるで宝石のようだ。
歓喜の涙か?
「ふふっ、泣く姿も美しいが他のものがいるところではダメだよ、愛しい番」
優しく涙をついばみながら、そっと抱きしめて幸せを噛みしめる。
これで兄上も安心されるだろう。
しばらくは登城も難しくなるかもしれないが、それは許してもらおう。
愛しい番のためだ…
竜が人間の番を得て、愛する者の為に国を護った。
長い年月を経て竜としての姿や能力は失われていったが、愛する「番」への本能は未だ残っていた。
特に王族は番への本能を強く持っているものが生まれることがある。
逆に爵位の低いものや平民などは番を認識することはほぼできなかった。
現在の国王と王妃は番同士ではない。
少なからず番を求める思いはあったが国内では見つからず、王族としての責務を放棄してまで他国へ番を探しに行くことはできなかったからだ。
それでも賢王賢妃として賞され、仲睦まじく国をまとめている。
こうやって竜としての本能は薄れ、いずれは完全に消えていくのだろうと思われていた。
王弟であるコンラート公爵もいまだ番を見つけられずにいた。
しかし、30歳を超えてもいまだ諦めることができず、兄である国王にはもう少しだけ待ってほしいと結婚を拒んでいた。
血を絶えさせてはいけないことは分かっている。
それでも…
どうしても番への夢が消えなかった。
その館を訪れたのは本当に偶然だった。
水害対策の視察に向かう道中、普段であれば魔物のでないはずの街道に、はぐれの魔物であろうか。大型の熊型が一体現れたのだ。
なんとか倒すことは出来たが、馬車の車輪が外れ、怪我人も出たことから近くの男爵家に助けを求めた。
男爵といっても王都の裕福な平民の方がもっと豪華な屋敷に住んでいるのではないか?
そう思われるほど鄙びた館であった。
突然の王族の訪問に男爵は狼狽え青褪めていた。
多少申し訳なく思ったが、緊急事態だ。悪く思わないでほしい。
なるべく早く出立する旨を伝えようと思った。
しかし…何かを感じる?なんだ?
まるで見えない何かに導かれるように、館の主の制止を無視して建物の奥に駆け出す。
そして…
バンっ!
扉を開け放つとそこには驚きに声も出ずにいる一人の少女がいた。
柔らかいミルクティーブラウンの髪に空を写したような澄んだ瞳。
目があった瞬間心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
(見つけた!私の番!)
心が歓喜に満ち溢れた!
そのまま室内に入り少女を力いっぱい抱きしめた。
「ひっ!」
あぁ、なんて可愛らしい声なんだ。小さくて柔らかい体。甘い香り。
「は、はっ離して下さい!」
カタカタと震えている。まるで子猫のようだ。
「怯えないで、私の番」
「っ、番?なに言って…」
「おまえを愛し守る者だよ」
信じられないというような顔で私を見つめてくる。
あぁ、そんなに美しい瞳で見つめられたら…
「っんぅ⁉」
思わず口づけてしまう。
心が震える。これが番との初めての口づけ…
「~~っ!」
可愛らしい手でこぶしを握りポスポスと胸を叩いてくる。もしかして抵抗しているのか?
可愛すぎるだろう!
チュッと下唇を吸い名残惜しいが離れる。
大きな瞳に涙を浮かべて息苦しかったのか喘ぐ姿に欲望が膨れ上がる。
早く連れて帰らなければ…
「公爵様何を!」
バタバタと男爵と護衛の者が駆けつけてくる。
断りもなく屋敷に侵入し、大事な娘に手を出したんだ。
たとえ相手が公爵でも許せるものではないのだろう。
「彼女は私の探し求めていた番だ。
まさか出会えるとは思わなかった。本当に嬉しいよ!
必ず大切にすると約束する」
私の言葉に護衛達は驚き、歓声を上げた。
男爵と娘は信じられないのか呆然としている。
「あ、あの少々お待ちください!
娘は、ラウラはまだデビュタントも迎えていない子供です!
いきなりそのようなことを言われましてもっ」
「あぁ、だから出会うことができなかったのだな。
本当に幸運だったよ。
魔物に襲われなければこちらを訪れることはなかった。
きっと神の導きだったのだろう、感謝しかないな」
番を抱き上げ近くのソファーに座る。
まだ慣れないのだろうか?体を固くしている。
早く連れて帰って心も体も癒やしてあげねば。
「応急処置が済み次第王都に戻ろう。
番を連れて帰らねば。荷物は本当に大切なものだけ持っておいで。
後のことは私に任せるといい」
「そんな!まさかこのまま娘を連れて行くおつもりですか!?」
「?当たり前だろう。番だぞ?
本当は護衛の目にも触れさせたくはないのだ」
こんなに美しい娘だ。離れがたいのは分かるが、番であれば仕方のないことだろう?
田舎からあまり出ていないようだから、そういった常識を理解していないのか。
「…公爵様…
私はこのままお父様と離されるということですか?
突然のことで、…番と言われましても私には申し訳ありませんが分かりません!
何かの間違いです!」
…残念なことだ。下位のものは本当に番が分からないのだな。
あの時の衝撃を感じることができれば一瞬で理解できるのに。
「大丈夫だ。私の番で間違いない。
おまえは自信を持って愛されればいい」
大きく見開いた瞳からホロホロと涙が溢れる。
まるで宝石のようだ。
歓喜の涙か?
「ふふっ、泣く姿も美しいが他のものがいるところではダメだよ、愛しい番」
優しく涙をついばみながら、そっと抱きしめて幸せを噛みしめる。
これで兄上も安心されるだろう。
しばらくは登城も難しくなるかもしれないが、それは許してもらおう。
愛しい番のためだ…
781
あなたにおすすめの小説
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
ヤンデレ王子に鉄槌を
ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。
……あれ、変態?
そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。
「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」
そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから!
「君は僕だけのものだ」
いやいやいやいや。私は私のものですよ!
何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。
逃げられるか、私っ!
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない
降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。
しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。
粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。
危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。
すれ違う2人の想いは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる