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12.ラウラ(4)
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王都にきて2ヶ月以上がたった。
相変わらずの軟禁生活が続いている。
最初は本当に気が狂うかと思った。
私はもともとよく動く方だ。たぶん王都のご令嬢とはだいぶ生活習慣が違う。
まず早起きだ。身支度など自分でできることはさっさとやってしまい、よくマリィに叱られる。
軽く朝食を済ませると教会に行き、清掃奉仕や隣接されている孤児院のお手伝いなどをする。子供たちに文字を教え、ともに遊び、簡単なお菓子を一緒に作ったり。
教会に訪れる領民との交流も大好きだ。世間話をしたり、奥様達と一緒に持ち寄った刺繍や縫い物をしながら会話を楽しんだり、時には畑仕事を手伝ったりもした。
もちろん貴族としての勉強やマナー、ダンスなどもしっかり学んでいる。
以前王都の学園で教師をしていたという夫人が、退職して田舎に戻ってきたから暇なのよと、ほとんど無償で引き受けてくれていた。
他にも領地の役に立ちたかったから、水害対策を担当している親方達に無理を言って教えを請い、知識を得ていった。ようやく成人を迎えたからと次の対策会議には参加してもいいと許可をもらえたところだったのだ。
「もしかして対策会議に参加していたら、あの事故がなくてもアデルバート様に出会ってしまっていたのかしら」
思わず独りごつ。
よかった。
あんな恥ずかしい姿を親方やブランディス領の皆様に晒していたら世を儚んでいたかもしれない。
そうだ、先生や親方達、シスターや子供たちにも手紙を送ろうかな。お別れの挨拶もいままでの感謝の気持ちも言えなかったもの。
とにかく、私はいままでじっと部屋に籠っていることなどしてこなかった人間なのだ。
それが広いとはいえ寝室に閉じ込められ基本移動は抱っこ。本当にありえない。
縫い物ひとつ指先を傷つけるかもしれないからと許可が出なかった。
最初はお人形のような扱いに嘆いていた。
だがだんだんと腹が立ってきたのだ。
なぜ私だけこんなに生活を変えられなくてはいけないの?少しの歩み寄りもないのはなぜ?
確かに高額な支援はしてもらっている。借金返済だけでなく、河川工事に入って下さるそうだ。
でも、水害対策は私との縁ができる前から行う予定だったはず。だから視察にみえたのだもの。
ならば少し私の不自由が過ぎるのではないか。
この不自由で怠惰な生活をあと何年も送っていたら本当に死んでしまうわ。
私を守れるのは私だけよ。
なんとか突破口を見つけないと。
まず、やんわりとした拒絶はまったく響かない。子猫が少し爪を立ててじゃれたくらいの扱いで逆に喜ばれる。
……性癖は変態かしら。
でも、あまりに強い態度で拒否してはいけない。
番を大切にしているのは分かる。しかし、彼の公爵としてのプライドを傷つけるとどうなるのか読めないからだ。
もし、怒りの方が勝った場合、男爵家に迷惑がかかる。
やっぱり婚姻を結んでからね。
式が終わって二人きりになれたら、まず夫婦として対等な立場であること、私のすることに対して男爵家は責任を負わないことの言質を取らなくては。
間違っても初夜になだれ込む前!
そこでなし崩しになったら一週間は解放してもらえない気がする。
竜の末裔に残ったものは、番の本能だけじゃなくて体力もだと思う。今だって、毎朝絶対に寝不足だと思うのに、逆に艶々になって仕事に向かうもの。私から何かを吸収しているのではと疑う程だ。私は昼まで起きれない時があるのに!
彼の本気に一週間も付き合わされたら話なんてできなくなってしまうわ。
冷静に事実を伝える。感情論は後よ。
いえ……最初に一発ドカンっと感情の爆弾を落としてからのほうが効くかも?
許せません、は弱いわね。変態、は下手すると違う方面に刺激してベッドに直行しそうだから駄目。
辛かった悲しかったは喜んで慰めにくるから無し。
やっぱり“嫌い”かしら。
どうなんだろう。私は彼のことが嫌いなのかな。
自由に行動できないのは嫌、話を聞いてくれないことは嫌、名前を呼んでくれないことは本当に嫌。
されて嫌なことはたくさんある。
でも、嫌いとは思えない…
なんでかなぁ。あんな熱い眼差しを受けたのは初めてだから?
確かに愛は感じるのだ。
私という人間を全く知りもしないで、番だから愛してるという酷い人。
でも、キスされてもそれ以上の触れ合いをされても、恥ずかしくてとても困るけど不快ではない。
……番だから?
だったら嫌ね。
うん、美形で美声に産んでくださった前国王夫妻に感謝したらいいのかもしれない。
格好いいから、声が素敵だから、お金持ちだから。
そんな上辺に絆されたと考える方が楽だ。
……こんな風に考えさせるあの人がイヤ
決めた。最初の爆撃は「大嫌い」よ。
相変わらずの軟禁生活が続いている。
最初は本当に気が狂うかと思った。
私はもともとよく動く方だ。たぶん王都のご令嬢とはだいぶ生活習慣が違う。
まず早起きだ。身支度など自分でできることはさっさとやってしまい、よくマリィに叱られる。
軽く朝食を済ませると教会に行き、清掃奉仕や隣接されている孤児院のお手伝いなどをする。子供たちに文字を教え、ともに遊び、簡単なお菓子を一緒に作ったり。
教会に訪れる領民との交流も大好きだ。世間話をしたり、奥様達と一緒に持ち寄った刺繍や縫い物をしながら会話を楽しんだり、時には畑仕事を手伝ったりもした。
もちろん貴族としての勉強やマナー、ダンスなどもしっかり学んでいる。
以前王都の学園で教師をしていたという夫人が、退職して田舎に戻ってきたから暇なのよと、ほとんど無償で引き受けてくれていた。
他にも領地の役に立ちたかったから、水害対策を担当している親方達に無理を言って教えを請い、知識を得ていった。ようやく成人を迎えたからと次の対策会議には参加してもいいと許可をもらえたところだったのだ。
「もしかして対策会議に参加していたら、あの事故がなくてもアデルバート様に出会ってしまっていたのかしら」
思わず独りごつ。
よかった。
あんな恥ずかしい姿を親方やブランディス領の皆様に晒していたら世を儚んでいたかもしれない。
そうだ、先生や親方達、シスターや子供たちにも手紙を送ろうかな。お別れの挨拶もいままでの感謝の気持ちも言えなかったもの。
とにかく、私はいままでじっと部屋に籠っていることなどしてこなかった人間なのだ。
それが広いとはいえ寝室に閉じ込められ基本移動は抱っこ。本当にありえない。
縫い物ひとつ指先を傷つけるかもしれないからと許可が出なかった。
最初はお人形のような扱いに嘆いていた。
だがだんだんと腹が立ってきたのだ。
なぜ私だけこんなに生活を変えられなくてはいけないの?少しの歩み寄りもないのはなぜ?
確かに高額な支援はしてもらっている。借金返済だけでなく、河川工事に入って下さるそうだ。
でも、水害対策は私との縁ができる前から行う予定だったはず。だから視察にみえたのだもの。
ならば少し私の不自由が過ぎるのではないか。
この不自由で怠惰な生活をあと何年も送っていたら本当に死んでしまうわ。
私を守れるのは私だけよ。
なんとか突破口を見つけないと。
まず、やんわりとした拒絶はまったく響かない。子猫が少し爪を立ててじゃれたくらいの扱いで逆に喜ばれる。
……性癖は変態かしら。
でも、あまりに強い態度で拒否してはいけない。
番を大切にしているのは分かる。しかし、彼の公爵としてのプライドを傷つけるとどうなるのか読めないからだ。
もし、怒りの方が勝った場合、男爵家に迷惑がかかる。
やっぱり婚姻を結んでからね。
式が終わって二人きりになれたら、まず夫婦として対等な立場であること、私のすることに対して男爵家は責任を負わないことの言質を取らなくては。
間違っても初夜になだれ込む前!
そこでなし崩しになったら一週間は解放してもらえない気がする。
竜の末裔に残ったものは、番の本能だけじゃなくて体力もだと思う。今だって、毎朝絶対に寝不足だと思うのに、逆に艶々になって仕事に向かうもの。私から何かを吸収しているのではと疑う程だ。私は昼まで起きれない時があるのに!
彼の本気に一週間も付き合わされたら話なんてできなくなってしまうわ。
冷静に事実を伝える。感情論は後よ。
いえ……最初に一発ドカンっと感情の爆弾を落としてからのほうが効くかも?
許せません、は弱いわね。変態、は下手すると違う方面に刺激してベッドに直行しそうだから駄目。
辛かった悲しかったは喜んで慰めにくるから無し。
やっぱり“嫌い”かしら。
どうなんだろう。私は彼のことが嫌いなのかな。
自由に行動できないのは嫌、話を聞いてくれないことは嫌、名前を呼んでくれないことは本当に嫌。
されて嫌なことはたくさんある。
でも、嫌いとは思えない…
なんでかなぁ。あんな熱い眼差しを受けたのは初めてだから?
確かに愛は感じるのだ。
私という人間を全く知りもしないで、番だから愛してるという酷い人。
でも、キスされてもそれ以上の触れ合いをされても、恥ずかしくてとても困るけど不快ではない。
……番だから?
だったら嫌ね。
うん、美形で美声に産んでくださった前国王夫妻に感謝したらいいのかもしれない。
格好いいから、声が素敵だから、お金持ちだから。
そんな上辺に絆されたと考える方が楽だ。
……こんな風に考えさせるあの人がイヤ
決めた。最初の爆撃は「大嫌い」よ。
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