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13.ラウラ(5)
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「大嫌い」の威力は想像以上だった。
まさか泣くとは思わなかったわ。本当に驚いた。
でも少し嬉しかった。
自分がこんなに醜い人間だとは思わなかった。
彼に傷を付けることに成功して喜んでいる。
「私の言葉で傷付くなんて本当に好きなんだ」
言葉にしてみると少し滑稽な気もするわね。
結局彼が愛してるのは番だからなのか、私だからなのか。
今はもう彼自身にも分からないことだろう。
それでも、私の言葉で泣けるなら少し救われた気分だ。
やっと「ラウラ」と呼んでくれるようになったし。
これが一番嬉しかった。
いままでは番としか呼ばれなかった。
それが誰を指しているのか分からなくて気持ち悪かった。
私の名前を呼んで、私に向かって感情を浴びせてくれるなら、私だって応えたいと思う。
すべてを是とするわけではない。それでも、向けられた思いに答えは返せる。
そうやって少しずつ心の通じ合った夫婦になっていけるかしら。
だって、今更離婚などできないのだ。
それなら少しでも幸せになりたい。
ただ……
「ラウラ!」
……もう来たわ。
大嫌い気持ち悪い攻撃は少し強く効き過ぎたらしい。
色々反省や改善はしてくれるようになったが、私が実家に帰ることが心配なのか、暇さえあればすぐ側にいようとする。
抱きかかえ禁止、軟禁ダメ絶対!は強く言ってあるため止めてくれた。
でも、さすがに側に来るなは言えないわよね。
「旦那様どうされました?」
「…ラウラ、まだ旦那様呼びなのか?」
「はい、まだダメです」
あらあら、しょぼくれた子犬の耳が見えるようだわ。
仕方なく両手を広げてあげると、まるで幼子のように胸に飛び込んでくる。
こんなに立派な体躯のおじ様なのにねぇ。
「どうされたのですか?何かありましたか?」
「…ラウラが近くにいなかった…」
くすっ、つい可愛らしくて笑ってしまう。
婚姻を迎えたあの日からアデルバート様はとてつもなく愛らしい方になってしまった。
私の姿が見当たらないと必死に探す。
見つけたあとはしばらく抱きついて離れない。
まるで母親とはぐれた迷子の子供のようだ。
「旦那様?私は貴方が約束を破らない限り、この屋敷から出て行ったりしませんよ?」
「……出て行こうとしたじゃないか」
「?いつですか?」
「初夜の後だ」
「っ、あれはっ!
旦那様が無体なことをなさるからです!」
「なぜだ!ちゃんとラウラの言うことは聞いたし、かなり我慢して程々でやめたじゃないか!
なのにお前は実家に帰ろうとしたっ、契約違反だ!」
大嫌い宣言のあと、色々と約束事をした。
かなり私に有利な条件を認めてもらったとは思う。
一番は番と呼ぶのをやめること。
あとは軟禁は絶対にしない、私の意思で自力で行動する、自分のペースで自らの手で食事をする、人目があるときに膝の上に乗せたり愛撫をしない、女友達や身内に嫉妬しない、公爵夫人の仕事もさせる。
当たり前のことを当たり前にできるように約束させた。
そこまでが限界だったのだ。
ラウラだけを愛してる、嫌いだなんて言わないで、気持ち悪いところは全部直す、本当にお前が好きだ番だからじゃないラウラだから欲しいんだと懇願された。
もともと体を重ねることに抵抗はなかった。
ちゃんと夫婦になりたいと思っていた。
そこに怒涛の私への愛の告白が来たのだ。了承するしかなかった。
……解放されたのは3日後だった。
アデルバート様曰く、私の体力や諸々のことを考慮して、これでもかなり気を使い泣く泣く解放したとのこと。
これ以上は死ぬわ。というか死んだ!
恥ずか死ぬってこういうことを言うのだと実地で学んだ。
これまでで、閨ごとはほぼ最終局面を迎えていると思っていた。が、まったくの嘘だった。
彼の本気は本当に凄かった。
久しぶりに本気で泣いた。前回本気で泣いた時に後悔したはずなのに、どうしても我慢できず本気で泣き、アデルバート様を更に本気にさせてしまった。
うん、あの3日間は思い出したらダメなヤツ。
それだけでも恥ずかしいのに、彼は私が疲労困憊で眠っている間に国王陛下のもとに向かい、すべてを暴露してきたのだ。
目覚めると、国王陛下ならびに王妃様からの謝罪の手紙と贈り物が届けられていた。
あまりの恥ずかしさと居たたまれなさに思わず実家に帰りたいと言ってしまった。
その時の悲壮に満ちた顔といったら……とっても麗しかったわね。
「ラウラに大嫌いと言われた衝撃は、お前と初めて出会って番だと確信した時以上だった。
私はあの時、本当に分かったんだ。
ラウラを愛してる。番だからじゃない。ラウラだから側にいたい。どうか私の妻として生涯を共にしてほしい。ラウラしか欲しくないんだ」
「…本当に?」
「自分の気持ちに気づくのが遅くてごめん、でも本当の気持ちだ。
ラウラ、お前だけを愛してる」
「ありがとうございます。私もあなたが好きです。
アデルバート様、末永くよろしくお願い致します」
王弟殿下の妻は溺れるほどの愛を注がれ、妻もまた夫を愛し、いつまでも仲睦まじく幸せにくらしました。
【end.】
まさか泣くとは思わなかったわ。本当に驚いた。
でも少し嬉しかった。
自分がこんなに醜い人間だとは思わなかった。
彼に傷を付けることに成功して喜んでいる。
「私の言葉で傷付くなんて本当に好きなんだ」
言葉にしてみると少し滑稽な気もするわね。
結局彼が愛してるのは番だからなのか、私だからなのか。
今はもう彼自身にも分からないことだろう。
それでも、私の言葉で泣けるなら少し救われた気分だ。
やっと「ラウラ」と呼んでくれるようになったし。
これが一番嬉しかった。
いままでは番としか呼ばれなかった。
それが誰を指しているのか分からなくて気持ち悪かった。
私の名前を呼んで、私に向かって感情を浴びせてくれるなら、私だって応えたいと思う。
すべてを是とするわけではない。それでも、向けられた思いに答えは返せる。
そうやって少しずつ心の通じ合った夫婦になっていけるかしら。
だって、今更離婚などできないのだ。
それなら少しでも幸せになりたい。
ただ……
「ラウラ!」
……もう来たわ。
大嫌い気持ち悪い攻撃は少し強く効き過ぎたらしい。
色々反省や改善はしてくれるようになったが、私が実家に帰ることが心配なのか、暇さえあればすぐ側にいようとする。
抱きかかえ禁止、軟禁ダメ絶対!は強く言ってあるため止めてくれた。
でも、さすがに側に来るなは言えないわよね。
「旦那様どうされました?」
「…ラウラ、まだ旦那様呼びなのか?」
「はい、まだダメです」
あらあら、しょぼくれた子犬の耳が見えるようだわ。
仕方なく両手を広げてあげると、まるで幼子のように胸に飛び込んでくる。
こんなに立派な体躯のおじ様なのにねぇ。
「どうされたのですか?何かありましたか?」
「…ラウラが近くにいなかった…」
くすっ、つい可愛らしくて笑ってしまう。
婚姻を迎えたあの日からアデルバート様はとてつもなく愛らしい方になってしまった。
私の姿が見当たらないと必死に探す。
見つけたあとはしばらく抱きついて離れない。
まるで母親とはぐれた迷子の子供のようだ。
「旦那様?私は貴方が約束を破らない限り、この屋敷から出て行ったりしませんよ?」
「……出て行こうとしたじゃないか」
「?いつですか?」
「初夜の後だ」
「っ、あれはっ!
旦那様が無体なことをなさるからです!」
「なぜだ!ちゃんとラウラの言うことは聞いたし、かなり我慢して程々でやめたじゃないか!
なのにお前は実家に帰ろうとしたっ、契約違反だ!」
大嫌い宣言のあと、色々と約束事をした。
かなり私に有利な条件を認めてもらったとは思う。
一番は番と呼ぶのをやめること。
あとは軟禁は絶対にしない、私の意思で自力で行動する、自分のペースで自らの手で食事をする、人目があるときに膝の上に乗せたり愛撫をしない、女友達や身内に嫉妬しない、公爵夫人の仕事もさせる。
当たり前のことを当たり前にできるように約束させた。
そこまでが限界だったのだ。
ラウラだけを愛してる、嫌いだなんて言わないで、気持ち悪いところは全部直す、本当にお前が好きだ番だからじゃないラウラだから欲しいんだと懇願された。
もともと体を重ねることに抵抗はなかった。
ちゃんと夫婦になりたいと思っていた。
そこに怒涛の私への愛の告白が来たのだ。了承するしかなかった。
……解放されたのは3日後だった。
アデルバート様曰く、私の体力や諸々のことを考慮して、これでもかなり気を使い泣く泣く解放したとのこと。
これ以上は死ぬわ。というか死んだ!
恥ずか死ぬってこういうことを言うのだと実地で学んだ。
これまでで、閨ごとはほぼ最終局面を迎えていると思っていた。が、まったくの嘘だった。
彼の本気は本当に凄かった。
久しぶりに本気で泣いた。前回本気で泣いた時に後悔したはずなのに、どうしても我慢できず本気で泣き、アデルバート様を更に本気にさせてしまった。
うん、あの3日間は思い出したらダメなヤツ。
それだけでも恥ずかしいのに、彼は私が疲労困憊で眠っている間に国王陛下のもとに向かい、すべてを暴露してきたのだ。
目覚めると、国王陛下ならびに王妃様からの謝罪の手紙と贈り物が届けられていた。
あまりの恥ずかしさと居たたまれなさに思わず実家に帰りたいと言ってしまった。
その時の悲壮に満ちた顔といったら……とっても麗しかったわね。
「ラウラに大嫌いと言われた衝撃は、お前と初めて出会って番だと確信した時以上だった。
私はあの時、本当に分かったんだ。
ラウラを愛してる。番だからじゃない。ラウラだから側にいたい。どうか私の妻として生涯を共にしてほしい。ラウラしか欲しくないんだ」
「…本当に?」
「自分の気持ちに気づくのが遅くてごめん、でも本当の気持ちだ。
ラウラ、お前だけを愛してる」
「ありがとうございます。私もあなたが好きです。
アデルバート様、末永くよろしくお願い致します」
王弟殿下の妻は溺れるほどの愛を注がれ、妻もまた夫を愛し、いつまでも仲睦まじく幸せにくらしました。
【end.】
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