王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ

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番外編

1.

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「兄上、どうしましょう。ラウラが素晴らし過ぎます」


相変わらず弟の頭に花が咲いている。

あんなにも有能で理性的だったアデルバートは、番を、いや、ラウラ夫人を娶ってから幸せオーラが溢れまくりだ。

結婚当初はこいつの暴走のせいで彼女を怒らせ、離婚の危機かと心配したが、夫人は賢い女性だった。
囚われの篭の鳥だと思われていたのに、気がつけばアデルバートの方がうまく操縦されてしまっている。

多くの女性に秋波を送られながらもまったく靡かず、「氷の微笑の王弟殿下」というよく分からない呼び名で人気が高かったが、今では妻を語るたびに溶けそうな笑顔になるため世の女性達が嘆いている。

こいつは31歳になるのにいつまでも若々しく美貌を保ち、体も鍛えあげている。さらに王家の血を持つ公爵だ。
多少の年齢差などと、若い高位貴族令嬢からも狙われていたのだ。
それがまさかの番として男爵令嬢を連れてきたのだ。
デビュタントも迎えていない、王都の学院にも通っていない田舎の令嬢。
そんなどこの誰とも分からない小娘を王家の血を持つ公爵の正妻として迎えるなど!とかなりの抗議の声が上がった。
番は番としてだけ迎え入れ、妻は公爵家を担う能力の高い女性にするべきだと言うのだ。
ようするに自分の娘を正妻にすれば、番を囲っても大目に見ますよ、と言いたいらしい。

どうするか、と頭を悩ます。アデルバートに伝えるなど以ての外だ。竜の宝玉を貶すなどありえない。

王妃の案で、市民達に「王弟殿下の恋愛物語」の噂を流すことにした。
平民にとって、王族と平民に近い苦しい生活を送る下位貴族の令嬢との恋は、まさに夢物語だ。さらにもう見つからないと思われていた番。
こんな奇跡があるなんて!と、多くの祝福とともに凄い勢いで純愛物語として王都をめぐった。
王宮内でも、特に侍女や下働きの女性達に好意的に噂が広がり、あっという間に国中が祝福するという事態になった。
こうなると貴族達も手に負えない。
なにせ番なのだ。大っぴらに非難などできるわけがない。
こうして、王族としては異例の早さでの結婚は、無事皆に祝福されながら行われた。

こんなに王として兄として頑張ったのに、その噂が夫人を追い詰める一因だと責められた。解せない。


そんな色々を乗り越え、ようやく妻から許しと愛の言葉を貰えた弟は、更に溺愛が止まらなくなっている。


「そうだな、ラウラ夫人はますます美しくなったな」

「兄上は王妃だけ褒めていればいいんですよ。ラウラを見ないで下さい」

「相変わらずの独占欲だな、嫌われるぞ」

「これくらいなら許されます」

「で?美しさのことじゃないなら何が素晴らしかったんだ?」

「ラウラが公爵夫人としての仕事がしたいというので帳簿を見せました」

「いきなり難易度が高いな」

「私も無理だとは思ったんですが、早く諦めてもらって二人の時間を楽しみたかったので」


悪魔だな、こいつ。どうせ難しくて涙目になったところを可愛がりたいとか気持ち悪いことを考えていたんだろう。


「そうしたら、難なくまとめ上げてしまいました。もちろん確認しましたが正確で、スピードも早い」

「彼女は学院に通っていないよな?」

「はい、近くに住むご婦人から学んだと言っていました。
ダンスも上手ですし、お菓子作りもできます。刺繍どころか洋服も作れますし、水害対策について話をしていたら河川工事などにも造詣が深い。あと彼女はアイシェル、バイアー、グルーデと3ヶ国語話せます」

「3ヶ国語って王族なみじゃないか!
まだ16歳だろう、その年齢でそこまで話せる令嬢は高位貴族でも少ないぞ」

「はい。私のラウラは美しいだけでなく、聡明な女性でした」

「それで終わらせるのか」

「番なだけでなく、美しさ、賢さを併せ持ち、私にただ一人の女性として愛されている。
これでうるさい奴等も黙ることでしょう。素晴らしい以外ない」

「確かに。血筋だけでは勝負にならないからな。
来月アイシェル国から皇太子夫妻が来る。
王子同士で交流させようとエイダンに任せるつもりだったが、お前達も補佐につけ。ラウラ夫人の有能さを見せつけろ」

「……」

「おい?」

「…本当に嫌なんですよ。彼女を見せるのが。

彼女は社交も上手いです。アイシェル語も流暢だし、小洒落た言い回しもできる。あちらの挨拶の仕方、マナーの違いやタブーなども理解してました。なぜそこまでと驚くほどです。
その姿を見せれば、彼女の能力を認めずにはいられないでしょう。
でも、本当は誰にも見せたくない!
彼女が許してくれれば一生二人だけでいいのに……」

「あきらめろ。それは老後の楽しみにしておけ。
じゃあエイダンにも伝えておく。打ち合わせの予定も組んでおくからな。決まり次第連絡する」


こいつの愚痴は無視する。
来月が楽しみだ。
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