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番外編
2.
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嵐がやってきた。それも2つ。
「ひさしぶりね、ラウラ。元気そうでよかった。
あなたが攫われたと聞いた時にはすぐに迎えに行こうと思っていたのよ」
「まったくだよ。水害対策会議の準備をしている間にまさか君が連れて行かれるとは。会議に参加できることをあんなに楽しみにしていたのに。
私も抗議に行こうとしたんだがボネット男爵に止められてね。もう少し見守ってやってほしいと。
だが幸せそうで安心した」
2つの嵐。
まず一人目は、ラフィーネ学院の前理事イルマー前侯爵夫人。
前侯爵に先立たれてから、若者の育成に力を入れたいと教師として長く務め、実力で理事にまで上り詰めた女傑。大変な才女で特に語学が堪能。5ヶ国語を操りマナーなどにもとても厳しい。私や兄も在学中は大変お世話になった。
10年くらい前に引退し、田舎でのんびり過ごしていると聞いていたが、まさかラウラの先生だったとは。
そしてもう一人。ブランディス前公爵閣下。
嫡男に爵位を譲り、現在は領地南部と、隣接したボネット男爵領、カルマン伯爵領に被害をもたらす水害対策に力を入れてくださっている。
私も同じ公爵として交流を持っていたが、とても厳しい方だ。どういう知り合いなんだ?
「先生、親方!わざわざ来てくださったんですか。
嬉しいです!」
「ご無沙汰しております。イルマー先生。
ブランディス前公爵も河川工事では大変ご尽力いただき感謝しております。
ところで親方とはどういうことですか?」
「なに、ラウラ嬢が、自分の領地のことだから私にも教えてください!って熱心に私達視察団のところに通いつめて来てな。
私が現場衆に混ざって指揮を執っていたから親方だと勘違いされたんだ。
可愛らしかったからそのままにしていたんだよ。懐かしいなぁ」
「私にはすごく恥ずかしい思い出ですよ。
私が親方って呼んだ時のお父様のお顔を今でも忘れられません」
「あなたは賢いのに変なところに隙があるのよね。
だからこんな男に捕まったのではないかしら」
「……先生、こんな男とは」
「そこの誘拐犯ですよ。だいたいあのお式は何なの!
本当に男爵が止めなかったら神前に駆けつけて思いっきり平手打ちにするところだったわ!」
「先生、式に来てくださってたの?」
「可愛いあなたの晴れ姿を見ないわけがないでしょう。
そしたらあれですもの。本当に情けないやら腹立たしいやら」
「本当になぁ。あれに耐えた男爵家とラウラの代わりに私が5~6発殴ろうかと思ったが、暴力はラウラが嫌がるだろうからな。
別のことにしようと夫人とも相談して準備を進めていたんだ。
さて、ラウラ。男爵家に帰ろうか」
「何を言ってるんですか!行かせるわけないでしょう!!」
「お黙りなさい、誘拐犯。
あなたのせいで、ラウラは父親以外の誰にも別れの挨拶ができなかったのよ。それがどんなに酷いことなのか分からないの?
あなたは結婚して何も失ってない。得たものばかりで大層幸せでしょう。
不公平だとは思わないの?本当にダメな子ね」
「そうだぞ。それにあれだけ頑張って勉強した河川工事だって見たいだろう?
完成にはまだ時間がかかるが、すでに始まっている。
どうだ、ラウラ。見たいだろ?」
「だったら私も一緒に行きます」
「駄目よ。あなたが側にくっついてたら領民の皆さんが怯えて逃げちゃうでしょう。
なんなのその執着は。気持ち悪い。
もう少し大人の余裕を持ちなさい!」
「気持ち悪い……また言われた、…本当に気持ち悪いのか……」
「あら、さすがねラウラ。
言う事は言えてるのね、安心したわ。
さぁ行きましょう!
仕方がないからコンラート公爵は一週間後の午前中に迎えに来なさい。
早朝じゃないわよ?そうね、10時でいいわ」
「うん、そうだね。一週間が限度かな?
しっかり仕事を終わらせて向かっておいで。
さぁ、コンラート夫人。馬車までエスコートしよう」
「ちょっと待ってください、決定なんですか?
急に言われても何も準備出来ていないのに!
アデルバート様、行ってきてもいいですか?
できれば領地のみんなにお別れを言いたいです。感謝の気持ちも伝えたい。
……駄目ですか?」
「……すまない、悪いのは私だ。
気づいてあげられなくて申し訳なかった。
できれば一緒に行きたいが先生達が許してくれそうもない。
すごくキツイ罰ですよ……もう泣きそうだ」
「ハハハッ、君のそんな姿が見られるなんて楽しいな!
ワガママの対価だと思ってしっかり反省するといい」
「分かりました。でも馬車までは私がエスコートしますので!」
ラウラが嬉しそうに旅支度をしている。
すでに寂しさに胸が潰されそうになりながら、更に先生達を相手にチクチク嫌味を言われ続けてしばらく立ち直れなくなりそうだ……
さすがラウラだ。支度もとても早い。
あっという間に別れの時間だ。
「ではアデルバート様、先に行ってますね。
必ず迎えに来てください。領地を案内するわ」
「うん、すぐに行くから待ってて」
「何言ってるの、すぐ来ちゃ駄目よ。一週間後!
深夜とかじゃないわよ。朝の10時!分かりましたね?」
「分かってますよ!
では、道中気をつけて。ラウラをよろしく頼みます」
「任せたまえ。さぁ行こうか」
馬車がどんどん遠ざかる。私の長い一週間が始まる……
「ひさしぶりね、ラウラ。元気そうでよかった。
あなたが攫われたと聞いた時にはすぐに迎えに行こうと思っていたのよ」
「まったくだよ。水害対策会議の準備をしている間にまさか君が連れて行かれるとは。会議に参加できることをあんなに楽しみにしていたのに。
私も抗議に行こうとしたんだがボネット男爵に止められてね。もう少し見守ってやってほしいと。
だが幸せそうで安心した」
2つの嵐。
まず一人目は、ラフィーネ学院の前理事イルマー前侯爵夫人。
前侯爵に先立たれてから、若者の育成に力を入れたいと教師として長く務め、実力で理事にまで上り詰めた女傑。大変な才女で特に語学が堪能。5ヶ国語を操りマナーなどにもとても厳しい。私や兄も在学中は大変お世話になった。
10年くらい前に引退し、田舎でのんびり過ごしていると聞いていたが、まさかラウラの先生だったとは。
そしてもう一人。ブランディス前公爵閣下。
嫡男に爵位を譲り、現在は領地南部と、隣接したボネット男爵領、カルマン伯爵領に被害をもたらす水害対策に力を入れてくださっている。
私も同じ公爵として交流を持っていたが、とても厳しい方だ。どういう知り合いなんだ?
「先生、親方!わざわざ来てくださったんですか。
嬉しいです!」
「ご無沙汰しております。イルマー先生。
ブランディス前公爵も河川工事では大変ご尽力いただき感謝しております。
ところで親方とはどういうことですか?」
「なに、ラウラ嬢が、自分の領地のことだから私にも教えてください!って熱心に私達視察団のところに通いつめて来てな。
私が現場衆に混ざって指揮を執っていたから親方だと勘違いされたんだ。
可愛らしかったからそのままにしていたんだよ。懐かしいなぁ」
「私にはすごく恥ずかしい思い出ですよ。
私が親方って呼んだ時のお父様のお顔を今でも忘れられません」
「あなたは賢いのに変なところに隙があるのよね。
だからこんな男に捕まったのではないかしら」
「……先生、こんな男とは」
「そこの誘拐犯ですよ。だいたいあのお式は何なの!
本当に男爵が止めなかったら神前に駆けつけて思いっきり平手打ちにするところだったわ!」
「先生、式に来てくださってたの?」
「可愛いあなたの晴れ姿を見ないわけがないでしょう。
そしたらあれですもの。本当に情けないやら腹立たしいやら」
「本当になぁ。あれに耐えた男爵家とラウラの代わりに私が5~6発殴ろうかと思ったが、暴力はラウラが嫌がるだろうからな。
別のことにしようと夫人とも相談して準備を進めていたんだ。
さて、ラウラ。男爵家に帰ろうか」
「何を言ってるんですか!行かせるわけないでしょう!!」
「お黙りなさい、誘拐犯。
あなたのせいで、ラウラは父親以外の誰にも別れの挨拶ができなかったのよ。それがどんなに酷いことなのか分からないの?
あなたは結婚して何も失ってない。得たものばかりで大層幸せでしょう。
不公平だとは思わないの?本当にダメな子ね」
「そうだぞ。それにあれだけ頑張って勉強した河川工事だって見たいだろう?
完成にはまだ時間がかかるが、すでに始まっている。
どうだ、ラウラ。見たいだろ?」
「だったら私も一緒に行きます」
「駄目よ。あなたが側にくっついてたら領民の皆さんが怯えて逃げちゃうでしょう。
なんなのその執着は。気持ち悪い。
もう少し大人の余裕を持ちなさい!」
「気持ち悪い……また言われた、…本当に気持ち悪いのか……」
「あら、さすがねラウラ。
言う事は言えてるのね、安心したわ。
さぁ行きましょう!
仕方がないからコンラート公爵は一週間後の午前中に迎えに来なさい。
早朝じゃないわよ?そうね、10時でいいわ」
「うん、そうだね。一週間が限度かな?
しっかり仕事を終わらせて向かっておいで。
さぁ、コンラート夫人。馬車までエスコートしよう」
「ちょっと待ってください、決定なんですか?
急に言われても何も準備出来ていないのに!
アデルバート様、行ってきてもいいですか?
できれば領地のみんなにお別れを言いたいです。感謝の気持ちも伝えたい。
……駄目ですか?」
「……すまない、悪いのは私だ。
気づいてあげられなくて申し訳なかった。
できれば一緒に行きたいが先生達が許してくれそうもない。
すごくキツイ罰ですよ……もう泣きそうだ」
「ハハハッ、君のそんな姿が見られるなんて楽しいな!
ワガママの対価だと思ってしっかり反省するといい」
「分かりました。でも馬車までは私がエスコートしますので!」
ラウラが嬉しそうに旅支度をしている。
すでに寂しさに胸が潰されそうになりながら、更に先生達を相手にチクチク嫌味を言われ続けてしばらく立ち直れなくなりそうだ……
さすがラウラだ。支度もとても早い。
あっという間に別れの時間だ。
「ではアデルバート様、先に行ってますね。
必ず迎えに来てください。領地を案内するわ」
「うん、すぐに行くから待ってて」
「何言ってるの、すぐ来ちゃ駄目よ。一週間後!
深夜とかじゃないわよ。朝の10時!分かりましたね?」
「分かってますよ!
では、道中気をつけて。ラウラをよろしく頼みます」
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馬車がどんどん遠ざかる。私の長い一週間が始まる……
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