魔法のせいだから許して?

ましろ

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それからは辛い日々だった。もともと伯爵令嬢が選ばれた事が不満だった人達も多かった為、ここぞとばかりに嘲笑われる。そして、いつからかおかしな噂が増えた。私が捨てられたのは、王子を公女に奪われまいと嫌がらせをしていたからだと。
「心の醜さから捨てられた女」そんなレッテルが貼られ、学園に通うのが苦痛だった。ノートを捨てられたり、突き飛ばされたり、嫌がらせも増えていった。
何よりも辛いのは彼が公女といる姿を見ること。私に向けられていた眼差しが今では公女に注がれている。




「お父様、婚約解消できないかしら。ジークハルト様には他に愛する方ができたようです」


ずっと何事も無かったかのように生活していたが、とうとう家族に相談をした。彼が本気で公女様を愛しているのなら、婚約を解消した方が良いのではないかと。
だが、王家からはそのような通達は来ない。いくら殿下の一目惚れから始まったとはいえ、婚約とは一種の契約なのだ。愛情が失せたからとすぐに解消できるものではない。ましてや我が家から解消を求めることは難しく、殿下の一時の気の迷いかもしれないからもう少し様子を見よう、と話し合いは終わってしまった。




仕方が無いのでそれからはなるべく彼らを見ないで済むように、休み時間はずっと第二図書室で過ごした。第一図書室と違って専門書が多いせいか、ひと気の少ない所が気に入っている。
もともと読書は好きだし、本を読んでいる間は嫌な事を忘れていられる。絶好の隠れ場だ。


まぁ、このお話の主人公は殿下のようだわ。なるほど、真実の愛というのね。……でも、真実の愛の正体が浮気心だなんて笑うしかない。

ついつい純愛物語に皮肉を言いたくなる。だってそんなものに振り回されるまわりはいい迷惑じゃない。愛を追い求める前に、まずは私を解放してほしい。

すっかり読む気が無くなり、他の本だけ借りて帰ろうと視線を上げると斜め前の席に男性が座っているのが見えた。

今日もいる……
最初は気にしていなかったが、リーゼが図書室に行くといつも同じ男性が座っている。他の人達は私の顔を見ると嫌そうに図書室から出ていってしまうのに。
アッシュブラックの髪に切れ長な瞳は深い青。硬質な雰囲気だけど綺麗な顔立ち。たぶん上級生よね。
私の視線に気付いたのか顔を上げた。


「……何?」

「すみません、ジロジロ見て。いつもいらっしゃるなと思って本好きな仲間かと……」


意味不明な言い訳をしてしまったわ。格好悪いな私。でも仲間意識は本当だ。


「ふーん?本好きだったのか。てっきり逃げ場にしているのかと思ってたよ」


意地悪な人だった!見た目通り冷たい話し口調。それでも、最近は誰も話し掛けてこないので、こんな会話でも少し嬉しくなってしまう。


「逃げ場半分、本好きも半分です」


素直に答えると意外とそうな顔をする。


「認めるとは思わなかったな。逃げたいのにまだそんなに勉強するのか?」


私の抱えている本を指さされる。


「お陰様で最近試験の順位がぐんと上がりましたよ。私は何も悪いことなどしていません。殿下の真実の愛の為に自分を落とすなんて絶対に嫌ですから頑張りますよ。私は自分が大切ですから」

「なんだ、一言も言い返さないから王子の婚約者という立場にしがみついてるのかと思っていた。でも違うみたいだな」


しがみつくって……周りからはそんな風に見えていたのね。私にはどうにも出来ないだけなのに。


「別に。こう言っては不敬になりますが、もともと王子妃になりたいと思ってはいませんでした。……大切にしてくださったから頑張っていただけだもの」


なぜ馬鹿みたいに本音を話しているのだろう。でも、誰でもいい。私の思いを知ってほしかった。


「資産家の娘で美人だと大変だな。女友達もいないのか」


美人?からかってるの?


「殿下の婚約者という私に価値を見出してできた友人でした。友達の作り方を間違えてしまいましたね」


そう。王子妃になった時の足場作りとして動いてきたのが仇となった。心から話せる友人を作らなかったなんて本当に馬鹿だ。


「……すみません、色々話し掛けて。私と親しいと勘違いされていい事なんて無いのに」

「公女に意地悪してるって?暇があればここに来てるのに?最近はずっと3位以内にいる才女がそんなくだらないことをするのか?」


なぜ知っているのだろう。誰にも相手にされない日々だったから私の事を知っててくれるのが嬉しい。


「……ありがとうございます」

「本好き仲間だからな」

「……私なんかを仲間扱いして大丈夫ですか?」

「俺はギルベルトだ。お前より一つ年上。アーベル子爵家の次男だ。たいした家門でもないから気にしなくていい。直接文句は言えないが、婚約者がいるのに他の女とベタベタしてるのは気持ち悪いからな」


アーベル……聞いたことがある。殿下が子爵令息に成績でどうしても勝てないと悔しがっていた。この方のことだわ。
でも殿下に向かって気持ち悪いなんて。ざまあみろと思う私は性格が悪いかな。


「先輩こそ、首席おめでとうございます」



それからは、図書室で会うと挨拶を交わし、少しずつ話をするようになった。おすすめの本や読んだ感想。そんな他愛もないこと。優しくはないけど、嘘はつかない少し皮肉屋の先輩との会話は自然体でいられてホッとする。
そんな時間が学園での唯一の救いだった。







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