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14.愛が消えた
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「……やはり貴方は嘘吐きだ」
リオ様が凪いだ表情のままポツリと呟いた。
「前にもそう言っていましたね。私が何をしたと言うのです?」
私は誰に対しても出来るだけ誠実でありたいと思っています。ですから、冗談は言っても嘘など吐いてはいないつもりですのに。
「今の貴方は私への愛が消えてしまったじゃないか。彼が来るまでは、まだ確かにあったはずだったのに」
それは意外な言葉でした。
──愛が消えた?
でも、そうかもしれません。
リオ様が長きに渡って他の女を囲っていると聞き、更には子供まで儲けてしまった。
その事実を飲み込むのには時間を要したのです。
それでも、お義母様の考えに気付いてしまえばこちらも迅速に動かねばならず、私のリオ様への思いはどうすることも出来ずに宙ぶらりんになっていました。
「……私は学生の頃、放課後はいつも図書室で勉強していました。
マシュー様も同じで、いつも時間ギリギリまで勉強に勤しんでおりましたの」
初めて会った頃の彼はもう少し華奢で、でも今と変わらず勤勉で、そして今よりも無愛想だったわ。
「試験の度に順位が近くなって、抜きつ抜かれつの好敵手となっていって。でも途中で気付いたのです。
私は文官を、彼は医者を目指しているのだから争う必要は無いのだと。
それからはお互いに得意分野を教え合ったり、議論したりするようになりました」
「……二人の歴史を聞かせたいのか?」
あら、そうなってしまいましたわね。
でも、そうではなくて。
「彼と一緒に問題について考え、自分の中に落とし込む。それがその3年で身についてしまいまして。
だから今でも、マシュー様と話をしていると、自分の何が悪くて、これからどうしていけばいいのか。そういったことが落ち着いて考えられるの」
だって何度も議論し合ってると、互いの本質が見えてくるものです。だからこそ、性別も違うのに未だに親友だと胸を張って言える仲になったし、彼は私を裏切らないと信じられる。彼が私に教えてくれることは、純粋に私を思っての言葉なの。
「私から消えたものがあるとすれば、それは甘さであり、優しさだと思うわ。
だって、何故裏切られた私がこれ以上貴方を甘やかさなくてはいけないの?
私は自分の為にもっと怒っていいと教えてもらったんです。何か間違っていますか?」
愛はどうかしら。さすがに突然消えるものではないでしょう。ただ、もう無理だなと思う。
彼に望むことは、ウィリアムの父として恥ずかしくない人間になって欲しい。それだけです。
「だってそんな……貴方はいつだって優しくて……。
急に変わるなんて、それこそおかしいじゃないか」
「貴方への愛よりも許せない気持ちの方が強いの。それを認めただけ。
貴方がしたことはそれ程のことなのだといい加減気付いてちょうだい」
何故貴方が傷付くの。私の方が何倍も苦しいのに!
お願いだから気付いて。今変わらなかったら貴方はたぶん一生そのまま、甘えたなままよ。
変わってほしい。ううん、変えなきゃ。ウィリアムの為にも。
「お義母様と何を話したのか教えて下さい」
「……母上は君に申し訳無かったと」
「違います。今後どうしたいのかを聞いているのです」
「クィントン伯爵との契約があるから、コーデリア嬢を正妻にしないといけないと……」
「子が出来ればという条件だったの?それとも男子が生まれたら?」
「……子が出来たらだ」
呆れた。それなのに貴方は抱いていたの。避妊薬だって絶対のものではないでしょうに。
契約書はたぶん正当なものね。お義母様はたぶん印章を使えるのでしょう。その権限を与えたままだったことが悔やまれます。
妻である私の落ち度でもあるもの。
「では、その子を後継者にする約束は?」
「それはない」
そうよね。あまりにも外聞が悪い。
……ようするに、私を不妊扱いするのね。ウィリアムを産んだ時の後遺症とかかしら。
本当に心臓が止まったから、次の子は難しいと言われたのは本当ですし。
ああ、だからなの。子が一人だけでは不安だから、事業も軌道に乗ったし嫁も変えようって?
古臭いお貴族様の思考は本当に気持ち悪いわね。
問題は、クィントン伯爵が今後どこまで関与してくるか。ウィリアムを守る一手が必要だわ。
「リオ様、ウィリアムを守ってくれるわね?」
「……必ず守る」
口約束では当てにならないけれど、まず、本人に自覚させる必要があるからこれでヨシ。
契約書はすべてが決まってから作りましょう。
「それと、コーデリア様に会わせてもらうわ。
拒否権は無いわよ。私だけでなくマシュー様にも同席してもらいます」
「……なぜ彼が?」
「貴方が私の味方だとは信じられないから。
あとは、この件を知る人間は少ない方がいいでしょう?」
「だいたいどうして彼が知っているんだ」
それはコーデリア様の診察をしたのが彼の友人だったからです。
守秘義務は?とは言わないで下さい。
私は事前に知れて大変助かったのですから。
「情報源は明かしませんよ」
リオ様が凪いだ表情のままポツリと呟いた。
「前にもそう言っていましたね。私が何をしたと言うのです?」
私は誰に対しても出来るだけ誠実でありたいと思っています。ですから、冗談は言っても嘘など吐いてはいないつもりですのに。
「今の貴方は私への愛が消えてしまったじゃないか。彼が来るまでは、まだ確かにあったはずだったのに」
それは意外な言葉でした。
──愛が消えた?
でも、そうかもしれません。
リオ様が長きに渡って他の女を囲っていると聞き、更には子供まで儲けてしまった。
その事実を飲み込むのには時間を要したのです。
それでも、お義母様の考えに気付いてしまえばこちらも迅速に動かねばならず、私のリオ様への思いはどうすることも出来ずに宙ぶらりんになっていました。
「……私は学生の頃、放課後はいつも図書室で勉強していました。
マシュー様も同じで、いつも時間ギリギリまで勉強に勤しんでおりましたの」
初めて会った頃の彼はもう少し華奢で、でも今と変わらず勤勉で、そして今よりも無愛想だったわ。
「試験の度に順位が近くなって、抜きつ抜かれつの好敵手となっていって。でも途中で気付いたのです。
私は文官を、彼は医者を目指しているのだから争う必要は無いのだと。
それからはお互いに得意分野を教え合ったり、議論したりするようになりました」
「……二人の歴史を聞かせたいのか?」
あら、そうなってしまいましたわね。
でも、そうではなくて。
「彼と一緒に問題について考え、自分の中に落とし込む。それがその3年で身についてしまいまして。
だから今でも、マシュー様と話をしていると、自分の何が悪くて、これからどうしていけばいいのか。そういったことが落ち着いて考えられるの」
だって何度も議論し合ってると、互いの本質が見えてくるものです。だからこそ、性別も違うのに未だに親友だと胸を張って言える仲になったし、彼は私を裏切らないと信じられる。彼が私に教えてくれることは、純粋に私を思っての言葉なの。
「私から消えたものがあるとすれば、それは甘さであり、優しさだと思うわ。
だって、何故裏切られた私がこれ以上貴方を甘やかさなくてはいけないの?
私は自分の為にもっと怒っていいと教えてもらったんです。何か間違っていますか?」
愛はどうかしら。さすがに突然消えるものではないでしょう。ただ、もう無理だなと思う。
彼に望むことは、ウィリアムの父として恥ずかしくない人間になって欲しい。それだけです。
「だってそんな……貴方はいつだって優しくて……。
急に変わるなんて、それこそおかしいじゃないか」
「貴方への愛よりも許せない気持ちの方が強いの。それを認めただけ。
貴方がしたことはそれ程のことなのだといい加減気付いてちょうだい」
何故貴方が傷付くの。私の方が何倍も苦しいのに!
お願いだから気付いて。今変わらなかったら貴方はたぶん一生そのまま、甘えたなままよ。
変わってほしい。ううん、変えなきゃ。ウィリアムの為にも。
「お義母様と何を話したのか教えて下さい」
「……母上は君に申し訳無かったと」
「違います。今後どうしたいのかを聞いているのです」
「クィントン伯爵との契約があるから、コーデリア嬢を正妻にしないといけないと……」
「子が出来ればという条件だったの?それとも男子が生まれたら?」
「……子が出来たらだ」
呆れた。それなのに貴方は抱いていたの。避妊薬だって絶対のものではないでしょうに。
契約書はたぶん正当なものね。お義母様はたぶん印章を使えるのでしょう。その権限を与えたままだったことが悔やまれます。
妻である私の落ち度でもあるもの。
「では、その子を後継者にする約束は?」
「それはない」
そうよね。あまりにも外聞が悪い。
……ようするに、私を不妊扱いするのね。ウィリアムを産んだ時の後遺症とかかしら。
本当に心臓が止まったから、次の子は難しいと言われたのは本当ですし。
ああ、だからなの。子が一人だけでは不安だから、事業も軌道に乗ったし嫁も変えようって?
古臭いお貴族様の思考は本当に気持ち悪いわね。
問題は、クィントン伯爵が今後どこまで関与してくるか。ウィリアムを守る一手が必要だわ。
「リオ様、ウィリアムを守ってくれるわね?」
「……必ず守る」
口約束では当てにならないけれど、まず、本人に自覚させる必要があるからこれでヨシ。
契約書はすべてが決まってから作りましょう。
「それと、コーデリア様に会わせてもらうわ。
拒否権は無いわよ。私だけでなくマシュー様にも同席してもらいます」
「……なぜ彼が?」
「貴方が私の味方だとは信じられないから。
あとは、この件を知る人間は少ない方がいいでしょう?」
「だいたいどうして彼が知っているんだ」
それはコーデリア様の診察をしたのが彼の友人だったからです。
守秘義務は?とは言わないで下さい。
私は事前に知れて大変助かったのですから。
「情報源は明かしませんよ」
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