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32.姉の幸せな結婚(2)
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『質問は一つだけです』
そう言われてしまった為、悩んだ末に、
『アシュリーが私との結婚をどう考え、新しい結婚をどうやって決めたのかが知りたい』
そう頼んだ結果がこれだった。
分かっていたつもりでいたが、我がスペンサー家がアシュリーに対してどれ程酷いことをしてきたのか、彼女のご家族から聞くとよく分かる。
「姉は一度も貴方達を悪く言うような手紙を送ってくることは無かった。いつも頑張っていると、そんな内容ばかりだった。
でも、ジェフリー義兄さんと結婚してからの手紙には、楽しい、嬉しい、という言葉が散りばめられていて。
僕達は姉様が今度こそ幸せな結婚生活を送れているのだと、心の底から安堵したんです。
……だから今更なんですよ。貴方は何をしに来たのですか?」
何をしに。そう言われると本当に困ってしまう。
アシュリーのことが知りたい。それしか考えていなかったから。
「聞いてもいいですか。というより、お願いしてもいいですか」
「……何だ?」
「言いたいことがあります。怒らないで……いや、怒ってもいいですが、家に対して何かをするのは止めてほしい」
「…分かった。聞くよ」
もう聞く前から恨み言を言われるのが分かってしまう。
「アンタは何様なの?」
「……」
「聞いていいって言ったよね。答えてくれないと先に進めないんだけど」
思っていた質問と違って戸惑ってしまった。
「……身分を問われているならば、伯爵。君から見た立場を問われているなら君の姉の元夫だよ」
「伯爵様はノブレスオブリージュという言葉を知らないのですか?」
知らないのかと言われたらもちろん知っている。貴族に求められる社会的責任と義務のことだ。
「位高ければ徳高きを要す。貴方の様に貴族として強い権力を持ち、高い地位にいるならば、より一層その考えを遵守するべきではないのですか?
それなのにどうして、貴方にとっての妻とは、守るものではなく搾取するものになっているんだ。
なぜ、妻の家族であった私達に、権力も無く、文句すら言えない立場であった私達に、ただの一度も姉に対しての謝罪の言葉がなかったのですか。
違うとは言わないで下さいよ。貴方の行動を見て言っているんです。
答えて下さい。何故ですか?」
……責められるだろうと思ってはいた。
だが、貴族として責められるとは思っていなかった。
「……申し訳ない。弁明のしようもない」
恥ずかしかった。こんなにも年下の彼に言われ、反論一つ出来ないことをしていたことが、居た堪れない。
「それ。本当に反省してますか」
「っ、もちろん」
「では、今の奥様には同じことをしていないのですね?」
当然だと言いたかった。だが、本当に?
「……貴方の反省はその程度だと、よく分かりました。
大きなお世話かもしれませんが、貴方は過去を振り返るのではなく、今の家族を守ることに集中するべきだと思いますよ。
ウィリアムを不幸にしたら許しませんから」
呆れたように言うと、お客様がおかえりですと指示を出されてしまい、そのまま帰るしかなかった。
彼に会って分かったことは、私との結婚は不幸しかなく、マクレガー氏との結婚は幸せに溢れていること。
私は……夫としてだけでなく、貴族としても最低であること。
そうだ。マクレガー氏に言われたはずだったのに。
なぜ感謝も謝罪もいたわりの言葉も無いのかと。
アシュリーに言えていない。ご家族にも言えていない。
……コーデリアにも言ってはいない。
私にとってコーデリアは罪の象徴だから。
彼女は悪であり、それなのにアシュリーに許されていることが許せなかった。
でも、ある意味同じ罪を犯した仲間でもあり。
だから妻でもある彼女を抱くことに罪の意識は無かった。だって同じだから。
そんな彼女に感謝したことがあっただろうか?
……いや、それどころかアシュリーの名を呼びながら抱いていただなんて。
このまま家に帰り、コーデリアに謝り、もっと話し合うべきだろう。
でも、
『始めるならば必ず最後まで調べ上げろ』
悪魔の声が響く。
……ここで止めてはいけない。
そう、最後まで調べて、すべてを知って。
それからしか帰れない。
そう言われてしまった為、悩んだ末に、
『アシュリーが私との結婚をどう考え、新しい結婚をどうやって決めたのかが知りたい』
そう頼んだ結果がこれだった。
分かっていたつもりでいたが、我がスペンサー家がアシュリーに対してどれ程酷いことをしてきたのか、彼女のご家族から聞くとよく分かる。
「姉は一度も貴方達を悪く言うような手紙を送ってくることは無かった。いつも頑張っていると、そんな内容ばかりだった。
でも、ジェフリー義兄さんと結婚してからの手紙には、楽しい、嬉しい、という言葉が散りばめられていて。
僕達は姉様が今度こそ幸せな結婚生活を送れているのだと、心の底から安堵したんです。
……だから今更なんですよ。貴方は何をしに来たのですか?」
何をしに。そう言われると本当に困ってしまう。
アシュリーのことが知りたい。それしか考えていなかったから。
「聞いてもいいですか。というより、お願いしてもいいですか」
「……何だ?」
「言いたいことがあります。怒らないで……いや、怒ってもいいですが、家に対して何かをするのは止めてほしい」
「…分かった。聞くよ」
もう聞く前から恨み言を言われるのが分かってしまう。
「アンタは何様なの?」
「……」
「聞いていいって言ったよね。答えてくれないと先に進めないんだけど」
思っていた質問と違って戸惑ってしまった。
「……身分を問われているならば、伯爵。君から見た立場を問われているなら君の姉の元夫だよ」
「伯爵様はノブレスオブリージュという言葉を知らないのですか?」
知らないのかと言われたらもちろん知っている。貴族に求められる社会的責任と義務のことだ。
「位高ければ徳高きを要す。貴方の様に貴族として強い権力を持ち、高い地位にいるならば、より一層その考えを遵守するべきではないのですか?
それなのにどうして、貴方にとっての妻とは、守るものではなく搾取するものになっているんだ。
なぜ、妻の家族であった私達に、権力も無く、文句すら言えない立場であった私達に、ただの一度も姉に対しての謝罪の言葉がなかったのですか。
違うとは言わないで下さいよ。貴方の行動を見て言っているんです。
答えて下さい。何故ですか?」
……責められるだろうと思ってはいた。
だが、貴族として責められるとは思っていなかった。
「……申し訳ない。弁明のしようもない」
恥ずかしかった。こんなにも年下の彼に言われ、反論一つ出来ないことをしていたことが、居た堪れない。
「それ。本当に反省してますか」
「っ、もちろん」
「では、今の奥様には同じことをしていないのですね?」
当然だと言いたかった。だが、本当に?
「……貴方の反省はその程度だと、よく分かりました。
大きなお世話かもしれませんが、貴方は過去を振り返るのではなく、今の家族を守ることに集中するべきだと思いますよ。
ウィリアムを不幸にしたら許しませんから」
呆れたように言うと、お客様がおかえりですと指示を出されてしまい、そのまま帰るしかなかった。
彼に会って分かったことは、私との結婚は不幸しかなく、マクレガー氏との結婚は幸せに溢れていること。
私は……夫としてだけでなく、貴族としても最低であること。
そうだ。マクレガー氏に言われたはずだったのに。
なぜ感謝も謝罪もいたわりの言葉も無いのかと。
アシュリーに言えていない。ご家族にも言えていない。
……コーデリアにも言ってはいない。
私にとってコーデリアは罪の象徴だから。
彼女は悪であり、それなのにアシュリーに許されていることが許せなかった。
でも、ある意味同じ罪を犯した仲間でもあり。
だから妻でもある彼女を抱くことに罪の意識は無かった。だって同じだから。
そんな彼女に感謝したことがあっただろうか?
……いや、それどころかアシュリーの名を呼びながら抱いていただなんて。
このまま家に帰り、コーデリアに謝り、もっと話し合うべきだろう。
でも、
『始めるならば必ず最後まで調べ上げろ』
悪魔の声が響く。
……ここで止めてはいけない。
そう、最後まで調べて、すべてを知って。
それからしか帰れない。
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