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55.ちゃんと見てる(2)
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『ちゃんと見てるからね』
ウィリアムの言葉。あれは、頑張る姿を見ているのではない。私がこれ以上愚行を侵さないように見張っているということだろう。
アシュ…、マクレガー夫人が諭してくれたおかげで、何とか首の皮一枚で繋がっている状況だ。
「何とも情けない……」
はぁあぁぁ…、と大きなため息が漏れた。
あんなにも小さな子供にすら分かってしまう、許されたいと足掻く醜さが本当に恥ずかしいと……そう。ようやっと、本当の本当に恥ずかしいと気付かされたのだ。
今まで、何度となく反省したつもりだった。
だから許されるはずだと、5年も経ったのだから、もう終わってもいいだろうと思っていた。
それを見透かされていたのだろう。
マクレガー氏が夫人からの手紙を届けに来たのは、そんな本当の反省も後悔もしていない私を表に引きずり出すためだったのだ。
案の定、新たに甘える先を求めて私はアシュリーを探し回った。そしてようやく会えて謝罪をして……許しの言葉を求めてしまった。
──よりにもよってウィリアムの前で。
「あの子の方がよっぽどしっかりしている」
おかげで私のもう一つの罪にも気付くことが出来た。
別館に来るのは久しぶりだ。
5年前、コーデリアと再婚してからは、本館に私達が、別館には母上が住むようになった。
母上を執務から外す為と、子供達と距離を置く為だった。だけど……
「母上、ご無沙汰しております。お加減はいかがですか?」
あれから母上とはあまり会わないようにしていた。すべては母のせいだと……罪を擦り付けたのだ。
「……珍しいわね。貴方が来るなんて」
久しぶりに会う母はすっかりと小さくなってしまっていた。幼い頃からずっと逆らうことは許されないと、そう思っていたのに。
「体調を崩されていると聞きました」
「……もう年ですもの。ガタがくるのは仕方のないことですよ」
だが、母上はまだ50を越えたばかりなのに。
「…母上、ずっと甘えてばかりで申し訳ありませんでした」
痩せ細った姿に胸が痛んだ。
ここまで追い詰めたのは間違いなく私だ。
自分の愛する子供に断罪される痛みを、私はようやく理解した。
「自分の至らなさを、すべては母上が悪いのだと逃げていました。……選んだのは私だったのに」
だって、学園に通わず、アシュリーと共に仕事を学ぶ事だって出来た。
卒業してすぐに商会の仕事に参加することだって出来た。
あの医師との仲を嫉妬するから距離を置いてくれと素直に相談することも出来た。
アシュリーを妬まず、仕事を教えて欲しいと言うことだって出来た。
媚薬を飲まされて不貞を犯したことを謝罪することだって……
「……どうしてお前も悪いくせにと言わなかったのですか」
母上を執務から外すと告げた時、母上は信じられないものを見たかのように目を見開き………その後は何も弁明はせず、粛々と裁きを受けた。
「もうねえ、分からなかったの」
「……何がです?」
「私が何を守りたかったのか。
あの人を喪って、大切な我が子を喪って。
悲しくて如何しようもないのに債権者からの取り立てやなんやと大騒ぎで。何とかこの家を……貴方を守らなくてはと……ずっとそう思っていたはずなのに。
私はどこで道を過ってしまったの?
守りたかったはずの貴方に憎まれて……
……あの人が死んだ時、私も儚くなってしまえばよかったのかしら」
私はなんということをっ!
「母上はちゃんと私を守って下さいました。
アシュリーを娶らせて下さってありがとうございます。彼女は本当に素晴らしい女性でした。
ただ、私が子供過ぎて大切に出来なかっただけです。
それでも、ウィリアムという可愛い息子を得ることが出来ました。
コーデリアだって。こんな碌でもない男に嫁いでくれて、自分の子供でもないウィリアムを誰よりも大切に育ててくれましたし、フェリックスとエリサという宝物も増えました。
まあ、そちらも私のせいで怒らせてしまったのですが」
「……ふふ、貴方は本当に困った子ねぇ」
はい。本当にそうなのです。
どこまでも馬鹿で甘えたで鈍い。救いようの無い駄目男なのですよ。
「それでも、今度は私が母上を守りますから」
こんなにもみっともないのに、それでも見ていてくれるとウィリアムが言ってくれたのだ。
今度こそ本当に変わってみせるから。
「だから母上はもう心配しないで下さい」
「……コーデリアを怒らせたと聞いた時点でまったく安心できないけれど?」
あ、あれ?そこは嬉しいと言う所では!?
「いや、本当です!これ以上馬鹿なことをするとマクレガー氏に子供達を奪われてしまいますから本気で頑張ります!」
「ああ、マクギニス侯爵の弟君ね」
「え!?」
「あらやだ。知らないで怯えていたの?」
どうりで威圧的だと……
「とにかく!本当に頑張りますから!」
ああ、まったく格好が悪くて仕方がない。でも、これが私なのだから。
母上はあまり信じていないようだ。
もうすぐ父上達に会えるのを一番の楽しみにしていると言われてしまった。
期待されるのが辛い思っていたはずなのに、期待されないことはもっと辛いのだと、これもようやく分かったことだ。
ここまで堕ちてしまったのだと笑うしかないが、まだすべてを失ってはいない。
「ここで頑張らなかったら正真正銘のど阿呆だ」
ウィリアムが見ていてくれる。
諦めるな。前を向け!
「出来る、頑張れる」
言霊というものが本当にあるのなら。
「今度こそ家族を守る」
ウィリアムの言葉。あれは、頑張る姿を見ているのではない。私がこれ以上愚行を侵さないように見張っているということだろう。
アシュ…、マクレガー夫人が諭してくれたおかげで、何とか首の皮一枚で繋がっている状況だ。
「何とも情けない……」
はぁあぁぁ…、と大きなため息が漏れた。
あんなにも小さな子供にすら分かってしまう、許されたいと足掻く醜さが本当に恥ずかしいと……そう。ようやっと、本当の本当に恥ずかしいと気付かされたのだ。
今まで、何度となく反省したつもりだった。
だから許されるはずだと、5年も経ったのだから、もう終わってもいいだろうと思っていた。
それを見透かされていたのだろう。
マクレガー氏が夫人からの手紙を届けに来たのは、そんな本当の反省も後悔もしていない私を表に引きずり出すためだったのだ。
案の定、新たに甘える先を求めて私はアシュリーを探し回った。そしてようやく会えて謝罪をして……許しの言葉を求めてしまった。
──よりにもよってウィリアムの前で。
「あの子の方がよっぽどしっかりしている」
おかげで私のもう一つの罪にも気付くことが出来た。
別館に来るのは久しぶりだ。
5年前、コーデリアと再婚してからは、本館に私達が、別館には母上が住むようになった。
母上を執務から外す為と、子供達と距離を置く為だった。だけど……
「母上、ご無沙汰しております。お加減はいかがですか?」
あれから母上とはあまり会わないようにしていた。すべては母のせいだと……罪を擦り付けたのだ。
「……珍しいわね。貴方が来るなんて」
久しぶりに会う母はすっかりと小さくなってしまっていた。幼い頃からずっと逆らうことは許されないと、そう思っていたのに。
「体調を崩されていると聞きました」
「……もう年ですもの。ガタがくるのは仕方のないことですよ」
だが、母上はまだ50を越えたばかりなのに。
「…母上、ずっと甘えてばかりで申し訳ありませんでした」
痩せ細った姿に胸が痛んだ。
ここまで追い詰めたのは間違いなく私だ。
自分の愛する子供に断罪される痛みを、私はようやく理解した。
「自分の至らなさを、すべては母上が悪いのだと逃げていました。……選んだのは私だったのに」
だって、学園に通わず、アシュリーと共に仕事を学ぶ事だって出来た。
卒業してすぐに商会の仕事に参加することだって出来た。
あの医師との仲を嫉妬するから距離を置いてくれと素直に相談することも出来た。
アシュリーを妬まず、仕事を教えて欲しいと言うことだって出来た。
媚薬を飲まされて不貞を犯したことを謝罪することだって……
「……どうしてお前も悪いくせにと言わなかったのですか」
母上を執務から外すと告げた時、母上は信じられないものを見たかのように目を見開き………その後は何も弁明はせず、粛々と裁きを受けた。
「もうねえ、分からなかったの」
「……何がです?」
「私が何を守りたかったのか。
あの人を喪って、大切な我が子を喪って。
悲しくて如何しようもないのに債権者からの取り立てやなんやと大騒ぎで。何とかこの家を……貴方を守らなくてはと……ずっとそう思っていたはずなのに。
私はどこで道を過ってしまったの?
守りたかったはずの貴方に憎まれて……
……あの人が死んだ時、私も儚くなってしまえばよかったのかしら」
私はなんということをっ!
「母上はちゃんと私を守って下さいました。
アシュリーを娶らせて下さってありがとうございます。彼女は本当に素晴らしい女性でした。
ただ、私が子供過ぎて大切に出来なかっただけです。
それでも、ウィリアムという可愛い息子を得ることが出来ました。
コーデリアだって。こんな碌でもない男に嫁いでくれて、自分の子供でもないウィリアムを誰よりも大切に育ててくれましたし、フェリックスとエリサという宝物も増えました。
まあ、そちらも私のせいで怒らせてしまったのですが」
「……ふふ、貴方は本当に困った子ねぇ」
はい。本当にそうなのです。
どこまでも馬鹿で甘えたで鈍い。救いようの無い駄目男なのですよ。
「それでも、今度は私が母上を守りますから」
こんなにもみっともないのに、それでも見ていてくれるとウィリアムが言ってくれたのだ。
今度こそ本当に変わってみせるから。
「だから母上はもう心配しないで下さい」
「……コーデリアを怒らせたと聞いた時点でまったく安心できないけれど?」
あ、あれ?そこは嬉しいと言う所では!?
「いや、本当です!これ以上馬鹿なことをするとマクレガー氏に子供達を奪われてしまいますから本気で頑張ります!」
「ああ、マクギニス侯爵の弟君ね」
「え!?」
「あらやだ。知らないで怯えていたの?」
どうりで威圧的だと……
「とにかく!本当に頑張りますから!」
ああ、まったく格好が悪くて仕方がない。でも、これが私なのだから。
母上はあまり信じていないようだ。
もうすぐ父上達に会えるのを一番の楽しみにしていると言われてしまった。
期待されるのが辛い思っていたはずなのに、期待されないことはもっと辛いのだと、これもようやく分かったことだ。
ここまで堕ちてしまったのだと笑うしかないが、まだすべてを失ってはいない。
「ここで頑張らなかったら正真正銘のど阿呆だ」
ウィリアムが見ていてくれる。
諦めるな。前を向け!
「出来る、頑張れる」
言霊というものが本当にあるのなら。
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