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第二章 王都編
第三十三話 JJ説得される その1
しおりを挟む頷くともなんとも出来ずにオレが固まっていると、ザマスが布をかけたワゴンを押して戻ってきた。
ワゴンにかけられていた布を取ると、緋毛氈の上に巾着袋が置かれていた。金貨や銀貨が詰まっているらしい。
「ここまで五日間の護衛代、三日間の御者と執事代はこのくらいザマス」
ザマスが袋から金貨や銀貨を取り出して、緋毛氈の上に詰んでいく。
ほう執事の給料けっこうもらってるんだな。
「それに立て替えた分はこのくらいザマスか」
うん、妥当な線だな。
「そしてこれが今回の迷惑料ザマス」
と言ってザマスはさらに金貨を毛氈の上に積み上げていく。
「これだけあれば、不足はないザマスか」
はっきり言って最後の迷惑料が一番多い。
まあ鞭打ちもあったけど納得できる金額かな。オレは小さく頷く。
ザマスが別の豪華そうな巾着袋に金貨を詰めなおす。
「これで貴方とハミル家との間には貸し借りはなし、そして護衛も辞める、ということでいいのね」
クラリッサが念押しに聞いてくる。
オレは、後ろ髪を引かれながらも手を伸ばす。その時、
「ホントにやめて良いの? 」
今まで一言も口を聞かなかったリベルタがオレの耳元、右後ろで囁いた。
……?
オレが振り返ると、リベルタ心配そうに成り行きを見守っている。
だが、二、三マイトルは離れた所にいる。とても耳元でささやくような事は出来ないはずだ。
「本当に辞めちゃうの」
今度はシャーロットの声が反対側の耳元で囁いた。振り向くとやはり、二、三マイトル離れ場所にいてその場を動いていない。
「本当に学校行かないの」ディアの声。
「今ならまだ間に合うザマス」ザマスの声。
「このまま続けなさい」辺境伯婦人の声。
様々な人の囁き声がオレの耳元で辞めるなと囁く。
なんだこれは……と思いながらも、オレは一つだけ思い当たることがあった。
「風の精霊、イタズラをやめろ」
オレの周りの囁き声がピタリとやんだ。
オレもよくやった風の精霊による手品のようなものだ。だがオレがやるよりもより高度で芸が細かい。
オレは、自分の声が他の場所から聞こえるように、オレの声を風の精霊に運んでもらっているだけだ。ハミル辺境伯にやったイタズラもこの方式だ。
だがこの術者は、複数の声音を使い分け、声も重なっている。どうやら風の精霊自体に発音させているようだ。
もしかしたら幻聴の魔法かとも思ったが、風の精霊に命令したら声がやんだから、間違いではなさそうだ。
オレ以外に精霊が見えるのはディアだけだが、彼女は精霊を使う訓練をほとんどしていない。たぶん見えるだけで精霊の魔法は使えないだろう。
オレもつい最近まで、彼女が精霊が見えることを知らなかったので、使役の仕方や契約の仕方なども教えていない。
そうなると後は……、周囲の人間の様子を見る。
周りの人は、オレが金を受け取ろうとしてから固まって動かなくなった後、突然変な事を言い出したので、変な顔をしている。一人を除いて。
……ザマス。少し余裕のある顔をしてこちらを見ている。
光の精霊にオレを癒させた、謎の精霊魔法の使い手……やはりザマスが風の精霊にイタズラをさせていたのか。
あれ、……もしかして、
「光の精霊、イタズラをやめよ」
オレがそう言うと、ザマスが一瞬、かすかに光ってそこに別の女性が現れた。
マジか!?
もしかしてとは思ったが、まさか本当に別の人間が現れるとは。
シャーロットもリベルタもディアも心底驚いていたようだ。だが辺境伯夫人だけは、あまり驚いてはいないようだ。知っていたんだな。
現れたのは肩より伸びた長めのブロンドをなびかせた、切れ長の目元も美しい美女だ。三十代になるかならないかといったところか。
ん、なんか誰かに似ているか?
「あらあら、ばれちゃった見たいザマスね」
ばれるのは想定内だったのだろうか、、イタズラのばれた子供のような、ちょっと小狡賢そうな笑みを浮かべながら、ザマスが上目遣いにオレを見つめる。
ジェシカのようなクールな美女ではなく、笑顔が似合うが、その笑顔の奥に人を惑わす小悪魔的な妖しさが見え隠れする、男を骨抜きにするような(かなり偏見)そんな女だった。
「まあこれだけヒントをあげたザマスから、分からない方がおかしいザマスけど」
ザマスが上から目線で物を言う。まあ言い訳は出来ないけど。
オバサン顔のザマスが言うと似合っている? ザマス言葉も、目鼻立ちの整った美女が若い女性の声で言うと違和感がハンパ無い。
皆もドン引きだ。
「ティティス、もう変身がばれたんだからその口調止めない? 私何だかスッゴイ違和感があるわ」
クラリッサ辺境伯夫人にテティスと呼ばれたザマスはペロッと舌を出す。その姿はやはり愛嬌がある。
ザマスは、本名はテティスというらしい。
まあこの際、名前などどうでもいいが。
メセタの街のギルマスなのになぜココにいるのか、なぜこんなイタズラをしたのか、なぜオレのピンチに気づいて迎えに来たのか。
……だが、一番聞きたいのは。
「やっぱり精霊魔法使えるんだね? 」
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