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第三話 ペンギン、過去の自分と向き合う(心の中じゃなく物理的に) その2
しおりを挟むそんなことをしていると、腹が減ってきた。
空間拡張の巾着袋にも食料は無かった。
考えてみれば転生してから何も食っていない。
ペンギンって何を食うのかな、と考えたが、魚かイカかエビか? 貝は食べるのか、あれはラッコか? いずれにせよ魚介類しか思いつかなかった。
生の魚でいいのかな?
人間の時のオレは山の中で修行しながら、その辺りで取れる物を適当に食べていた。それでも寄生虫などは恐かったので魚でもウサギでも、生では食べず炎魔法で焼いてから食べていた。
ペンギン的にはどうなんだろう。生で食っても平気かな。
山の麓に近いこの辺りは大型魔獣は少なく、ほとんど簡単に倒せる小魔獣だ。
何か捕まえて食べたいな。まあ魚じゃなくても食べられるだろう。
ちなみに、魔物とは悪魔に見そめられた者(人や獣も含む)の総称で、その中の悪魔に見初められた動物を、魔獣と呼んでいる。
そんなことを考えていたらオレの感覚に何か引っかかるものがあった。
野生の勘というべきか、弱者の危機管理能力というべきか、近くに何か獣がいる予感がする。
と思ってキョロキョロしていると、ウサギの丸焼きが眼に入った。いや、まだ丸焼きにする前のウサギ、二本角ウサギ(デュオコーンラビット)だ。
レベル五、六程度、魔獣の中でも最弱の部類のこのウサギは、普通の人にとっても格好の獲物で、内臓以外は結構食える。
レベル九十九だったオレとは、まさに強さのレベルが違った。オレが一睨みするだけでウサギはショック死していたくらいだ。
オレは今日のディナーはコイツにしようと決めて、いつものとおりウサギを睨んだ。
だがそのウサギはショック死するどころか、
『てめえ、この辺りじゃ見ねえ面だな。何ガンつけてんだよ』
と、オレを睨み返してきた。
魔物の言葉はわからんが、多分そんなことを言ってるだろう。キュウキュウなきながら睨んでくる。
確かこの二本角ウサギは雑食で、小動物なら襲って食っていたような……。
『久しぶりの肉はうまそうだ』
的な目でオレを見て、舌なめずりをする。
え、オレ、エサ?
そして、額から突き出た角を突き出してオレに向かって突進してきた。
なんて命知らずなウサギだ。
レベル九十九のオレにはゆるい突進で、こんな角に突かれても痒いだけで痛くもなんとも――ッ!? いや待て、今はレベルゼロのただのペンギンだ。マズイ!
慌ててよけたが腹をかすった。少し腹が出ていたためよけ切れなかった。
マズイ、本当にオレって弱い。擦っただけなのにメッチャ痛い!
防御力ハンパなく低い。
二本角ウサギがキュウキュウないている。
『よくオレの突進をよけたな、ほめてやるぜ。だがいつまで続くかな』
的なことを言ってる。と思う。
そしてウサギは再び突っ込んでくる。
「グワー…略…(チョット待てーッ! )」
なんでオレ様がレベル一だか二のウサギごときに追い回されねばならんのだ。生前のオレなら……もう止めよう、現実を受け入れなければ。
オレは弱いんだ。
オレは一旦戦略的撤退を選んだ。
川に逃げ込んだのだ。
案の定ウサギは川までは追ってこなかった。川岸でオレを睨んでいる。
オレは川の中州にある岩の上で対策を練る。
傍目には岩の上で日向ぼっこをするカワイイペンギン、もしくは対岸のウサギとにらめっこするペンギンにしか見えないかもしれないが、実際には殺るか殺られるかの仁義なき戦いの真っ最中なのだ。
さてどうやってウサギを倒すかだが……。
そうだ、さっき生前のオレが持っていた空間魔法を施した拡張袋を拾ったが、そこには武器が入っていたはず。オレは巾着袋から剣を探して取り出す。
確か剣術レベルは1で使えなくは無いはずだ。
一番威力がありそうなのは大剣グレートソードだ。刃渡り二マイトル、剣の幅二十センチマイトルの両手剣だ。これだったら二本角ウサギだって一刀両断に、……抜けない。
柄を掴んで引っ張るが、刃が少し見えただけでオレの手は伸びきってしまった。
もう少し短めの剣は無いかと探してみると、あった。
遺跡で見つけたアーティファクトの片手剣だ。なんかキラキラしている。
よし、ギリギリ抜くことが出来たので、さっそく振りかぶった。
……そしてそのまま腕からすっぽ抜けて後方の反対岸まで飛んでいった。
剣を使うほどの握力が無かった。
剣はダメだ。
じゃあ、手裏剣を投げてみようかな、これも東方の遺跡で発掘した遺物だ。
……やっぱり後方に飛んでいった。
他に武器は……勇気だけだ。
なんてバカなことは言ってられない。
ウサギを見ると、まだオレを睨んでいる。
オレを食うことを諦めてはいないようだ。
生前はウサギでもイノシシでもクマでも力任せに殺っていたので、あまり考えて戦ったことは無かった。
せいぜい勘だよりだ。
オレは人間を辞めてペンギンになって初めて頭を使って戦っている。
なんだか複雑だ。
まあいい、とにかくウサギと戦える手段を考えねば。
ペンギンの得意なことといえば何か、えっと……魚を食うこと?
オレはバカか。ペンギンになって頭が悪くなったようだ。
ペンギンの特技、ウ~ン……カワイイコト?
……だからもっとちゃんと考えろよ、オレ。
ペンギンの特徴、えっとえっとえ~っと・・・・・・小太り?
やっぱりバカか。
“太っている”は“動きが鈍い”に決まってる。そんなんじゃ……いや、そうでもないか?
確かペンギンって泳ぐスピードはかなりのもののはずだ。
勢いをつけて水上に飛び出せば(ジャンプと言っていいかな)、自分の身長の何倍もの高さの岩にも飛び乗れると、小さい頃に絵本で読んだ気がする。
と言う事は・・・・・・。オレは作戦を立てた。
岩から飛び降りて川を少し上流に泳いで行き、一度ウサギの位置を確認する。
ウサギは相変わらず同じ位置にいて、オレが何をするのかいぶかしそうに睨んでいる。
よしよし、そのままそこにいろよ。
そこからオレは、川の流れにそって思いきりウサギめがけて泳いだ。そしてスピードに乗ったまま、オレは二本角ウサギを頭上から襲うべくウサギまでおよそ二マイトルという所で水上に飛び出した。
ありがたいことにウサギはやはり同じ位置にいて、突然飛び出して来たオレに驚いて固まっていた。
オレはそのままウサギに向かって全体重をかけて体当たりを敢行する。この時は小太りの体重が武器だ。
オレは反転したウサギの背中にフライングボディアタックをお見舞いする。
ウサギは背中と首に衝撃を受けて転倒、そのまま昇天した。
こうしてオレは四苦八苦の末に何とか食料を確保した。
ああ、疲れた。メシ一食でどんだけ苦労してるんだよ。
だが、久しぶりのウサギの丸焼きだ、楽しみだな。
さて、丸焼きをするにしても、どこでどうやって焼くか……な?
……火?
楽しみにしていたディナーだったが、オレはハタと気がついた。
オレに火は使えるのか。
試しに火の魔法を詠唱しても炎は生まれなかった。
やはり、魔法のレベルがグレーアウトしていると、魔法も使えないらしい。
ちなみに、手鏡で確認したが二本角ウサギを倒してもレベルは上がってはいなかった。
両手で、木の枝を板の上でグリグリ回転させて火をおこそうと思ったが、オレの手が短すぎて、両手で棒を持つことが出来なかった。
さらに言えば、ウサギの皮がジャマだ。
解体に使えるナイフをもったが、握力が無く皮をはぐ事も出来ない
ペンギンの体がこれほど使いづらいとは。
まさか肉食動物じゃあるまいし、モコモコの皮つきウサギ肉をそのまま生で食べる事は出来ない。オレ、ケダモノじゃないから。……じゃないよな。
オレは泣きながらウサギを巾着袋に仕舞った。
こうしてオレのディナーはお預けになった。今後の食料調達を考えると目の前が真っ暗になり、オレはフラフラと川に落ちてしまい、そのまま暫く流されるままに下流へとただよっていった。
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