期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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47 ミランダ

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 珍しく高位貴族が集まるお茶会に招待されていたミランダは、いつも以上に張り切っていた――。

(ついにこの時が来たのよ……)

 貴族とは名ばかりの貧乏准男爵家出身。
 しかも次女だったミランダは、四人兄妹の中でも特にお金をかけてもらえなかった。
 服はいつも姉のお下がりで、食事だって兄に奪われていた。
 貴族の令息令嬢が当たり前のように通う学園も、ミランダの場合は両親に必死に頼み込まなければ、間違いなく通わせてもらえなかった。

 そんなミランダが、雲の上の存在である夫人たちのお茶会に参加するのだ。
 第一印象が大切だと、ミランダは好みではない上品に見えるドレスを選んでいた。
 普段よりも濃いめな化粧を施しており、今のミランダは自信に満ち溢れていた。

 浮かれているミランダだが、フローラの喪が明ける前に、ド派手な格好でレオーネ伯爵夫人として登場していたのだ。
 悲しむ素振りすら見せることなく、喜色満面だったミランダは、既に多くの者たちに悪印象を与えていたことを失念していた。

(帰ったら、フィリに自慢しないとね? 人をイラつかせることが得意な男だけれど、わざとじゃないんだもの)

 フィリッポの心を射止めた瞬間から、ミランダの人生は順風満帆だった。
 ある一点だけを除けば、冴えない容姿のフィリッポは、ミランダにとっては最高の男なのだ――。



 派手さはないが、歴史を感じられる格式高いフォレスティ侯爵邸のサロンに案内されると、既に招待客が席に着いていた。

「いらっしゃい。待っていたわ?」

 新緑色の髪と瞳が、森の妖精のように美しい女性――リュシエンヌがミランダに微笑みかける。
 新参者だというのに遅刻してしまったのかと焦るミランダだが、誰からも咎められなかった。

「っ、遅れて申し訳ありません」

「ふふっ、気にしないで? みんなが早かっただけなの。あなたに会えるのを楽しみにしていたみたい。もちろん、私もよ?」

 にこりと天使のように微笑んだリュシエンヌの愛らしさに、ミランダは思わず頬を染める。
 招待客の中では最も低い身分だというのに、主催者の隣の席を用意されていた。

「ミランダは、私のお友達に会うのは初めてでしょう? 心細いかと思って、隣にしておいたわ?」

「っ、ありがとうございますっ」

 親しげに名を呼ぶリュシエンヌは、国の英雄が無事に帰還し、盛大な祝賀パーティーが開かれた際に知り合った女性だ。
 気分が悪くなり、休憩室に逃げ込んでいたミランダを優しく介抱してくれたのだ。

「レオーネ伯爵夫人は、私の友人なの」

 フォレスティ侯爵夫人に紹介されたミランダは、緊張した面持ちで丁寧に挨拶をする。
 いつもは格下の相手ばかりをしていたため、今日は輪の中心にはならないだろうと思っていたミランダだが、皆とても友好的な雰囲気だった。
 それもすべて、社交界では一目置かれているリュシエンヌが、ミランダを友人だと紹介してくれたおかげだろう。

 ただ、普段は自慢話ばかりをしていたミランダは、夫人たちの会話についていけなかった。
 相槌を打つだけで精一杯。
 話を振られたらなんと答えたら良いのかわからず、なるべく気配を消していた。

「でも、災難だったわね? 領地の管理を任せていた男の横領が発覚するだなんて」

 静かすぎるミランダを気にかけるリュシエンヌが、訳のわからぬことを告げる。
 紅茶を口にするミランダに視線が集まっていることに気付き、なかなかカップを手放せない。

「そうよね。今日はよく来てくれたと思うわ?」

「でも、レオーネ伯爵家はフローラ様が遺した資産があるもの。領地を没収されたところで、そこまで痛手ではないのかしら?」

「っ、領地が没収されるですって!?」

 とんでもない話を耳にした瞬間、ミランダは悲鳴を上げていた――。
 ハッとして口を引き結んだが、時すでに遅し。
 扇子で口元を隠しているものの、夫人たちの咎めるような視線がミランダに突き刺さる。

「あら、てっきり知っているのかと……」

 ごめんなさいね、と小声で謝ったリュシエンヌ。
 申し訳なさそうな表情だが、新緑色の瞳はミランダを嘲笑っているように見えた。
 友人だと思っていた相手が、急に敵に思えたミランダの背に、どっと冷や汗が噴き出ていた――。


















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