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しおりを挟む木枯らしが吹きつける寒い冬を迎え、頻繁に届いていたミゲルからの手紙が落ち着いてきた頃。
暖炉の前でブランケットに包まるフラヴィオは、安定したゆりかごのような夫の腕の中で微睡んでいた――。
常に行動を共にする夫夫は、ここ最近はいつも以上に密着して過ごしている。
王命以外では家をあけることはない、と宣言しているクレメントが、フラヴィオのそばから離れなくなってしまったのだ。
ひとりの時間が長かった故に、フラヴィオは常にクレメントがそばにいたとしても、鬱陶しいと思うことはない。
むしろ、クレメントを愛する気持ちが増しているため、ここぞとばかりに甘えていた――。
「ふふっ、クレム様? これでは、私が赤子みたいですよ?」
夫に愛されすぎているフラヴィオは、幸せだと言わんばかりの表情で笑った。
自身の平らな腹を優しく撫でれば、クレメントは愛おしげに目を細める。
ここ最近のクレメントが、常時蕩けるような顔付きになっている理由は、フラヴィオの体にふたりの愛の結晶が宿っているからだ――。
胎動を感じるフラヴィオの手の上に、大きく温かな手が重なる。
「まだ見ぬヴィオとの子に会える日が、楽しみではあるが……。やはり私は、ヴィオが最も愛おしい」
「ふふっ、それは今だけかもしれませんよ? クレム様に似た可愛い子が産まれたら、きっとメロメロになるはずです」
「…………ヴィオに似た子がいい。国民の総意だ」
「っ、ええ? で、でも、私はクレム様に似た子が――。あ、ちょっ、ちょっと……擽ったいっ」
照れた様子のクレメントに、頬に何度も軽いキスをされるフラヴィオは、くすくすと笑った。
「私の遺伝子より、容姿も性格も、すべてクレム様に似てほしいです」
「……ククッ。まだ可愛いことを言うつもりなら、なにも言えないように口を塞ぐぞ?」
ぐっと口角を持ち上げ、クレメントが魅惑的な表情を見せる。
頬を薔薇色に染めて、大人しく黙ったフラヴィオだったが――。
「……クレム様に似た黒目黒髪なら、――んっ!」
フラヴィオの望み通りに、クレメントに唇を食べるように口付けられる。
うっとりと見上げれば、熱の帯びた黒い瞳もフラヴィオをじっと見つめていた。
「クレムさま……大好きです……。愛してます」
「っ…………ああ、私もだ」
口付けの合間に愛を囁き、ゆったりと唇を啄む。
初めの頃は気恥ずかしくて言えなかった言葉も、今のフラヴィオはすんなりと告げることができる。
フラヴィオが想いを口にすれば、クレメントの大いに喜んでいる姿が見られるのだから――。
「愛してる、ヴィオ……」
幸せオーラ全開のフラヴィオは、顔中に降って来るキスの雨を、ひたすら受け止め続けていた――。
◇
その後――。
ジラルディ公爵家に新しい家族が増えた。
夫の要望通り、フラヴィオに似たとても可愛らしい女の子だ。
我が子にたっぷりと愛情を注ぐクレメントを見ているだけで、フラヴィオは毎日のように目頭が熱くなってしまう。
(クレム様に出逢えて、本当によかったと思ったのは、もう何度目だろう――)
クレメントが我が子をとても可愛がっているのは、きっと父親に愛されたことのないフラヴィオのためでもあるのだろうと、フラヴィオは思った。
涙ぐむフラヴィオは、大切そうに我が子を抱いているクレメントに寄り添う。
そして公爵家に仕える人々もまた、感極まっている者が多かった。
今は愛妻家として有名になってはいるが、以前までなら、子煩悩なクレメントを誰も想像することが出来なかっただろう。
特に先代公爵夫人ロレッタと家令のオスカルは、クレメントが大剣ではなく、我が子を抱いているだけでも驚くのだ。
そして天気の良い日は、家族三人で外気浴を楽しむ姿に、毎日のように度肝を抜かれている。
つい笑ってしまうフラヴィオは、世界一素敵な夫と愛らしい子に恵まれ、笑顔の絶えない家庭を築いていた――。
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