二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん

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5 医師

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 追い出されるようにストーン侯爵家から出て行く私の背後では、鬼の形相の使用人達が塩を撒いていた。
 アナスタシアはストーン侯爵家の使用人達とも仲が良かったのだろう。
 「二度と来るな!」と罵声を浴びせられながら帰宅した私は、アナスタシアの部屋に戻って頭を抱えていた。
 
 『アナスタシアとは親友だから、第二夫人になるのが私だってわかったら、きっと喜んでくれるはずだよっ! だからサプライズになるねっ!』

 満面の笑みで話していたクララを思い出す。

 だから私はアナスタシアも喜ぶだろうと、身篭ったクララを伯爵邸に連れて行ったのだ。

 愛する人が我が子を宿したことに浮かれていた私は、アナスタシアが呆れたような顔をしていたことに腹を立てていた。
 なぜ、私を愛しているのに、共に喜んでくれないのかと。
 婚姻前に温かい言葉をかけてくれたのに、なぜクララと子を認めてくれないのかと。
 口先だけだったのか、と罵ったのだ。

 アナスタシアの態度が気に食わないからと、クララを私の隣の部屋に住まわせた。
 クララを必ず守ると正義感を振りかざし、私の意志が固いと態度で示した。
 あの時の私は、クララを突き放すようなことを話すアナスタシアを軽蔑していた。

 その後、アナスタシアとは距離を置いていた。
 愛する私に避けられて、寂しくなったのだろう。
 一ヶ月後にアナスタシアが折れ、クララのことを認めると、暗い表情で話していたことを思い出す。
 それは、私を愛しているからクララに嫉妬しているのだと思っていたが、今思えば自分勝手な私に呆れていたのかもしれない。

 

 息子ジェイクの診察に来ていたマーヴィン医師の元に行くと、冷めた目で一瞥される。
 それでも私は彼に問いたださなければならないことがあるので、拳を固く握りしめる。

 「なぜ、ナーシャが子を産める身体だったことを黙っていたんだ?」
 「聞かれませんでしたので」
 
 しれっと答えたマーヴィン医師に、怒りが込み上げてくる。
 手が白くなるほど握りしめていると、呆れたように溜息を吐かれた。

 「逆にお伺いしたいのですが。なぜ、アナスタシア様が病弱だと思っておられたのです? むしろ彼女は護身術も得意で、剣術の腕も有名でしたが」
 「っ…………」
 「まさか、自分の妻のことを何も知らなかったとは。まぁ、あれだけ愛じ……第二夫人にのみ愛を捧げていたのですから、当然といえば当然のことなのでしょうかねぇ?」

 開いた口が塞がらない私を嘲笑うマーヴィン医師は、淡々と医療器具を片付けていく。

 「アナスタシア様が十キロほどお痩せになったことは、さすがにお気付きでしたよね?」
 「……ああ、だから病だと」
 「彼女の場合は、身体ではなくの病です」
 
 目尻に涙を光らせるマーヴィン医師は、当時のことを思い出しているのか、涙ながらに語っていた。

 二年前から急激に痩せてしまったアナスタシアは、持病のせいだと思っていたが、そうではなかった。
 心労によるもので、食べても吐き出してしまうようになっていたのだ。

 日に日にやつれていくアナスタシアを見ていられなくなったマーヴィン医師は、私との離縁を勧めたそうだ。
 でも、アナスタシアは首を縦に振ることはなかった。
 私のことを愛していたからだろう。

 彼が嘘をついているとは思えないが、アナスタシアは身体的にも病気だったはずだ。
 なぜなら、ジェイクの一歳の誕生日。
 四人で食事をしていた際に、アナスタシアが急に胸を押さえて倒れたのだ。

 あの時は私の心臓も止まりそうだった。
 生死を彷徨ったアナスタシアは、一週間後に目覚めたが、ほとんど寝たきりになってしまった。

 「ナーシャは一年前に倒れたではないか……」
 
 アナスタシアが健康体だったことを、どうしても信じられなくて声を振り絞るが、マーヴィン医師は深い溜息を吐く。


 ──毒を盛られたのですよ。


 衝撃的すぎる発言に目を見開く。

 犯人は我が伯爵家の使用人だったが、アナスタシアは私が苦しまないようにと真実を話さなかった。

 どうして話してくれなかったんだ。
 話してくれていれば、もっと傍にいる時間を増やして、全力で彼女を守ったのに。

 「使用人は、秘密裏に解雇されたそうです」
 「…………そうか」
 「犯人は、いつも誰の傍に仕えていたと思いますか?」
 
 質問の意図がわからずに、眉間に皺が寄る。

 「貴方と共に本邸で過ごし、貴方が寵愛しているお方です」
 「っ……」
 「憶測でしかありませんが、アナスタシア様は使用人達からも邪険に扱われていたのかと」
 「そんなっ」
 
 ありえないと言いたかったが、使用人の動きまでは把握していなかった。
 だから、アナスタシアは私に相談できなかったのか。
 犯人がクララかもしれないと騒げば、私が悲しむと思ったのかもしれない。

 唇を噛み締めていると、マーヴィン医師は荷物を手に取り私の元に歩み寄る。

 「よくよく考えてみて下さい。旦那様と閨を共にしたことのないアナスタシア様と、旦那様に無償の愛を捧げられて、更には旦那様の子……それも男児を産んだクララ様。使用人達は、どちらについた方が自分たちがより良い待遇を期待出来ると考えるのかを……」

 そう言い残したマーヴィン医師は、アナスタシアに頼まれていたから来ていたが、もう金輪際我が家とは関わりたくないと告げて出て行った。

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