二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん

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23 復讐 クララ

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 ジェフリーと離縁し、愛するクラウスお義兄様の為に、金持ちのお爺さんと再婚した。

 「すまない、クララ。私の病のせいで……」
 「大丈夫ですわ! 形だけですもの。挨拶だけしてすぐに戻ってきますっ!」
 「ああ、待ってるよ。私のお姫様」

 額に優しく口付けを落としたクラウスお義兄様は、静かに涙を流す。
 儚げで美しく、私だけを愛してくれる。
 元夫とは大違いだと思いながら、熱い抱擁を交わした。

 私が再婚することになったのは、クラウスお義兄様の薬代の為だ。
 まぁ、実家で羽目を外してお金を使いすぎちゃった部分もあるけれど。
 全てはジェフリーに肩代わりしてもらう予定だから、何の問題もない。
 ジェフリーが貧乏でも、兄のジェラルドが金持ちだもの。
 それに、あのイケメンはアナスタシアと婚約している。
 金持ちと金持ちを掛け合わせたら、大金持ちなんだもの。
 私の借りたお金くらい軽く返済出来る。
 この計画を考えたクラウスお義兄様は、本当に天才だと思う。

 『クララを一番愛しているよ』と言いながら、困ったような顔をするジェフリーの間抜け面を思い出して、良い気味だと鼻で笑う。
 あの男は、私のことを見捨てられないの。
 だから離縁が成立しても、家族と縁を切ってまでも借金を返済する道を選んだ。
 とことん馬鹿だと思う。
 もう私の心は、クラウスお義兄様のものなのに。

 

 迎えの馬車に乗り、心配そうに見つめるクラウスお義兄様に笑顔で手を振った。
 本当に心配性なんだから。
 もし私が爺さんに気に入られて、帰って来れなくなったらどうしようって心配してるの。
 私が可愛すぎることが罪なんですって。
 
 統率の取れた中年の使用人達に丁重にもてなされ、三日程馬車に揺られながら、元夫と第一夫人のことを思い出す。
 アナスタシア・キンバリー。
 彼女は私の同級生であり、雲の上の存在。
 男爵家の私が話しかけて良いお方ではなかった。
 身分も金も美貌も教養も、全ての武器を兼ね備えているアナスタシアは、私が気に入る男の子達をことごとく魅了していった。
 それも、ただ微笑むだけで。
 私なんて男爵家って時点でマイナスなのに。
 
 私のお気に入りのブラッドも、アナスタシアに鼻の下を伸ばしているし。
 まぁ、ブラッドは三男だから対象外だけど。
 金持ちの男の子をターゲットに落としていくんだけど、婚約者がいるからと言いつつも、結局男はやることにしか興味がない。
 身体を使えばイチコロだった。
 でも、相手の女が慰謝料を払えだなんて言い出したりで、すごく面倒臭かった。

 そんな中、ブラッドの兄ジェフリーが釣れた。
 別にアプローチしていなかったのに。
 やっぱり私は可愛すぎることが罪みたい。
 賢い男の子達は、私が近づくだけで警戒しちゃうから、ジェフリーは馬鹿だってこと。
 次男だし、遊びで付き合っていたんだけど、顔も良いしセックスも自分本位じゃなくて、私を気持ち良くしてくれる。
 恋人としては及第点。

 でも気付いたときには、彼の傍が心地良くて、私は恋に落ちていた。
 決して結ばれることのない悲運の恋人同士。
 その状況が更に私たちを燃え上がらせる。

 男は金持ちじゃないと駄目だって思っていたけど、相手がジェフリーなら少しくらい貧乏でも良いかなって思ってた。
 ジェフリーも私を深く愛してくれているし、もしかしたら周囲を説得して、私を妻に迎えてくれるかもしれない。
 そんなことを思っていると、次期当主に指名されたジェフリーがアナスタシアと婚約した。
 正直、裏切られたような気持ちになったけど、真面目なジェフリーだから断れなかったのだろうと、予想出来た。
 
 ガッカリしながらもデートに向かうと、最高の笑顔を見せるジェフリーが言ったのだ。
 「クララを第二夫人として迎える約束をした」
 話を聞けば、恋人がいることをアナスタシアに話して、三年後に迎え入れる約束をしたらしい。
 私の嘘の設定の年寄り爺さんの後妻に娶られる話を、鵜呑みにしていたみたいだった。

 喜ぶべきところだったんだけど、私は落胆した。
 だってジェフリーを愛していたから。
 それなのに、彼は二人の女性を平等に愛するなんて頭のいかれたことを話していた。
 私は常に一番であるべき存在なのに、女としてのプライドを傷付けられた。
 しかも、もうアナスタシアに魅了されていて、私といるのにアナスタシアの話ばかりする。
 百年の恋も冷めたわ。
 燃え上がるような恋は冷めるのも早かった。
 
 愛していたからこそ憎さが倍増して、ジェフリーを絶対に幸せにしてたまるかって思った。
 よく考えたらアナスタシアってお金持ちだし、第二夫人になったら贅沢して、二人の邪魔も出来る。
 最高の復讐になると思ったの。

 ジェフリーとアナスタシアが睦み合うことは絶対にさせたくなくて、彼女が病弱だって話を会う度にし続けた。
 それからのジェフリーは、昼間はアナスタシアと過ごして、夜は私と過ごすって言い出した。
 要するに、私は身体だけってこと。
 まぁ、私が嘘を吹き込んでいるからなんだけど、コイツも身体目当てかって思ったら、余計に腹が立った。
 この時から、ジェフリーが何をするにも腹が立つようになっていた。

 だから、ブラッドの子を身篭った。
 これが私の最大の復讐。
 彼はアナスタシアと肌を重ねることもなく、ブラッドの子を自分の子だと勘違いしているの。
 要は、一生自分の子を抱くことはないってこと。
 清々しい気分だったわ。

 でも、もっと凄いことが起こった。
 クルーズ伯爵家に行くと、今まで澄ました顔しか見たことのなかったアナスタシアの顔面が、真っ青になっていたの。
 完璧なアナスタシアに、あんな顔をさせたのは私なのよ?
 言葉では言い表せないほどの興奮を覚えた。

 身重ってだけで、みんなが私の味方になった。
 アナスタシアは、私とジェフリーが離れるように何度も邪魔をしてきたわ。
 ジェフリーにぞっこんだったみたい。
 でも、残念。ジェフリーは私の支配下にあるの。

 私を守ってアナスタシアを怒鳴りつけるジェフリーを見ながら、優越感に浸っていた。
 「身体は清らかだが、心は穢れている糞女」って、面と向かって言うんだもの。
 その時のアナスタシアの顔は傑作だったわ。
 しかも、そのあと殴ろうとしたのよ?
 さすがに手を出すのはまずいから止めたけど。

 私を愛しているからってちょっとやり過ぎだと思っていたんだけど、そこで気付いたの。
 彼は私を愛しているというより、か弱い女性を悪から守る、陳腐な物語の主人公になりきっていた。
 自分に酔っていたの。
 本当気持ち悪い。
 自分が一番大好きの、顔だけナルシスト男。

 アナスタシアもさっさと見限れば良いのに、と思っていたけど、彼女はどんなに蔑ろにされてもずっとジェフリーを愛していた。
 あれが真実の愛ってやつね。
 私には到底真似できないと思っていたわ。
 だって、他の女とセックスしている男なんて無理だもの。
 もちろん私は特別な存在だから話は別だけど。
 私が男を侍らせるのはわかるけど、ジェフリーが私とアナスタシアを侍らせるのは納得出来ない。
 
 それで使用人達がちょっとやりすぎちゃって、アナスタシアは出ていった。
 心の底からジェフリーを愛していたし、彼女はプライドが高いから、離縁するとは思わなかった。
 でも、これでジェフリーは一生苦しむわ。
 ……なんて思っていたけど、一つ忘れていたことがある。
 ジェフリーはアナスタシアがいないと、ただの貧乏人だったのだ。
 一度上がってしまった生活レベルは、そう簡単に下げることは出来ない。
 金がないなら働けよ、と思っていたけど、彼は自分で考えることが出来ない無能な男だった。

 そこで、賢くて優しいクラウスお義兄様が私を抱きしめながら囁いたの。

 「クララが義妹じゃなかったらよかったのに。血が繋がっていなかったら、今すぐにでも私だけのお姫様になって欲しいよ」
 
 って。情熱的だったわ。
 禁断の愛。
 クラウスお義兄様は激しい運動が出来ないから、身体の関係にはなっていないけれど、心は繋がっているの。

 愛する人のことを思いながら頬を緩ませていると、なんだか眠くなってきたわ……。
 
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