地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと

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第33話 戦場からの、一番の朗報

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 伝令騎士の口から、次の言葉が発せられるまでの数秒間が、永遠のように長く感じられた。
 ​城にいる誰もが、息を殺して、彼の一言を待っている。

 ​やがて騎士は顔を上げ、絞り出すような、しかし喜びに満ちた声で叫んだ。

​「――初戦に、勝利いたしました! 敵の先遣部隊を完全に叩きのめしたとのことにございます!」

 ​その瞬間。
​ 張り詰めていた空気が爆ぜ、城は割れんばかりの歓声に包まれた。

​「おおおぉぉぉっ!」
「やった! やってくれた!」

 ​人々は抱き合い、涙を流して勝利を喜ぶ。私も、その歓喜の輪の中で胸を撫で下ろし、膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。
 ​伝令の騎士は、ギルバート執事に支えられながら立ち上がると、興奮した様子で戦況を語り始めた。

​「敵は、我が方の倍近い数でした。しかし、ヴィンセント様の指揮は見事と言うほかなく……そして何より、フェンリル様の御力が凄まじかった! 銀色の嵐のように敵陣を駆け抜け、一瞬で敵の指揮系統を混乱させてくださいました!」

 ​騎士は誇らしげに胸を張る。
 ​そして彼は私の姿を見つけると、まっすぐにこちらへ歩み寄ってきた。

​「エリアナ様!」

 ​彼は私の前に立つと、深々と頭を下げた。

​「あなた様のおかげです。心から感謝いたします」
​「え……? わ、私が、ですか?」
​「はい! あのレーションがなければ、我々は凍える寒さの中、満足に戦うことなどできませんでした。冷たくても固くならず、腹の底から力が湧いてくる……皆、口々に『女神様の飯は、やっぱりすげえ!』と。あれこそが、我らの勝利の源です!」

 ​その言葉に厨房の仲間たちが「やったなあ!」と私の肩を叩いてくれる。

 私は、ただ顔を赤らめながら首を振ることしかできなかった。すると、伝令の騎士は懐から小さな革袋を取り出し、私にそっと差し出した。

​「これは……?」
​「ヴィンセント様からの言伝にございます」

 ​私は震える手でその革袋を受け取った。
 ​中に入っていたのは、私が彼に渡したレーションの一つ――ハニー・ボールが一つだけ大切そうに残されていた。
 ​そして騎士は、主君の言葉を正確に繰り返した。

​「『これを食ったら無性にお前の作った温かいスープが飲みたくなった。最高の褒め言葉だろう』……と。それから……『無事でいる。心配するな。だが、まだ気は抜くな』。以上です」

 ​彼らしい、ぶっきらぼうで、けれど、この上なく優しいメッセージ。

 ​その言葉だけで、十分だった。

 ​私の瞳から堪えていた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。それは不安の涙ではない。安堵と喜びと、そして愛しい人を思う、温かい涙だった。

​「……ありがとうございます」

​ 私は騎士に深く頭を下げた。
 ​初戦には勝利した。けれど、戦いはまだ終わっていない。涙を拭うと、きゅっとエプロンの紐を結び直した。

​「皆さん、感傷に浸るのはまだ早いです! 負傷した方々が、いつ帰ってきてもいいように、準備を続けましょう! きっと、お腹を空かせていらっしゃるはずですから!」

 ​私のその声に、城の皆が「おう!」と力強く応える。

 ​私の戦場はここにある。
​ 愛する人が帰ってくる場所を、世界で一番、温かい場所にして待っていること。

 ​それが私の役目なのだから。
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