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1話 聖女様のアドバイス
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この乙女ゲーの世界に転生してからというもの、俺、アラン・ウォルトンは毎日教会に通い詰めている。
なぜかって?
人生に絶望しているからだ。
ウォルトン子爵家の三男。
聞こえはいいが、要するに貧乏貴族の厄介者。家を継ぐ権利もなければ、与えられる領地もない。あるのは、中途半端な貴族というプライドと将来への漠然とした不安だけ。
「俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか……」
そんな哲学的な問いに誰か答えをくれないだろうか。そう思って、わらにもすがる思いで教会に通っているのだ。
「あら、アランくん。今日も来てくれたのね」
柔らかな日差しが差し込む懺悔室。
その中で女神様のように微笑む女性がいた。
彼女こそ、この辺境の教会に勤める聖女リリシア様だ。
亜麻色の美しい髪を緩くまとめ、慈愛に満ちた翠色の瞳で人々を癒す。どんな人間の悩みにも静かに耳を傾け、的確なアドバイスをくれると評判の、まさに完璧な聖女様。
……のはずなんだが。
「はい、リリシア様。今日も人生に迷っておりまして……」
「ふふっ、真面目ね、アランくんは。さ、今日はどんなお悩みかしら? 私でよければ、何でも聞くわ」
そう、この聖女様……なぜか俺が相談すると、いつも様子が変になるのだ。
◇◇◇
きっかけは数週間前。
母さんの誕生日に何を贈るべきか、という他愛もない相談だった。
「あの、母へのプレゼントなんですが、何がいいと思われますか?」
「まあ、素敵なお悩みね。お母様、きっと喜ぶわ」
リリシア様はうっとりと目を細め、自分のことのように喜んでくれる。ここまでは完璧な聖女様だ。
問題は、その次だった。
「そうね……お母様には、綺麗な刺繍の入ったハンカチなんてどうかしら? 実用的で、心のこもった贈り物だと思うわ」
「なるほど! ハンカチですか。いいですね!」
流石はリリシア様! 的確なアドバイスだ!
そう思った俺が馬鹿だった。
「でもね、アランくん」
「はい?」
「私にプレゼントをくれるなら、首飾りがいいわ」
「…………はい?」
今、なんて言った?
聞き間違いか? 俺は耳鼻科に行った方がいいのかもしれない。この世界にないけど。
「もちろん、高価なものである必要はないのよ? アランくんが私のために選んでくれた、っていう事実が大切なの。あなたのセンスで選んだ首飾りを、毎日身に着けていたいわ……」
頬を赤らめ、恍惚とした表情で語るリリシア様。
いやいやいや! なんでアンタへのプレゼントの話になってんだよ! 相談内容は「俺の母」へのプレゼントだぞ!?
「あ、あの……俺の、母への……」
「あら、ごめんなさい。つい自分の願望が……。でもね、アランくん」
リリシア様はハッとしたように我に返り、そして悪戯っぽく微笑んだ。
「最終的には、私に結婚指輪を贈ってくれるのが一番嬉しいわ」
「意味が分からないんだが!?」
俺は思わず叫んでいた。もちろん、心の中で。
聖女様に面と向かってそんな不敬なことを言えるはずがない。俺はしがない貧乏貴族なのだ。
結局その日は、「ありがとうございます。参考にします」と引きつった笑顔で告げ、逃げるように教会を後にした。
母へのプレゼントは、市場で買った綺麗な花の栞にした。
こんな調子が、もうずっと続いている。
別の日には、こうだ。
「将来、どんな仕事に就けばいいか悩んでまして……」
「そうね、アランくんは真面目で優しいから、騎士団に入って人々を守るお仕事も素敵だと思うわ」
「騎士ですか! かっこいいですね!」
「ええ。でも、もし騎士になったら、私の専属護衛になってほしいわ。四六時中、私のそばにいて、悪い虫から守ってちょうだい」
……怖い怖い怖い! その悪い虫って、具体的に誰のことですか!?
またある日には、
「最近、寝つきが悪くて……」
「心配だわ、アランくん。疲れているのね。……もしよかったら、今夜、子守唄を歌いに行ってあげましょうか? もちろん、あなたのベッドの隣で」
「通報しますよ!?」と叫びたい衝動を必死で抑え込む。
聖女様の発言とは思えない。完全にアウトだ。
聖職者にあるまじきセクハラ発言だ。
なぜだ。なぜ俺にだけ……?
他の人が相談している時は、本当に絵に描いたような聖女様なのに。
俺はいつしか、まともな人生相談をすることを諦めた。
ただ、リリシア様の美人な顔を眺め、トンチンカンなアドバイスに内心でツッコミを入れる。それが日課になっていた。
だって、なんだかんだ言っても、絶世の美女に言い寄られるのは悪い気がしない。俺だって男だ。美少女にモテたい願望が強すぎるのだ。
そんなカオスな日常が当たり前になった頃。
俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある貴族学園への入学が決まったのだ。
「これで、あのヤバい聖女様ともお別れか……」
一抹の寂しさを感じなくもなかったが、それ以上に安堵の方が大きい。
これからは王都で新しい生活が始まる。
そこで新しい出会いを見つけ、まともな恋愛をしてやる!
そう意気込んで王都での生活をスタートさせた俺は、ある噂を耳にした。
「おい、聞いたか? 王都の大教会に、それはもう美しい聖女様が新しく赴任してきたらしいぜ!」
「なんでも、慈愛に満ちた完璧な聖女様だって評判だ!」
……ほう。
完璧な、聖女様。
いいじゃないか。俺の歪んだ聖女観をここで修正するときが来たようだ。
「よし、いっちょ人生相談といくか!」
今度こそ、まともなアドバイスをもらうんだ。そして願わくば、その美人と評判の聖女様と仲良くなって、モテモテ学園ライフの第一歩を踏み出すんだ!
期待に胸を膨らませ、俺は王都の大教会の扉を叩いた。
厳かな雰囲気の中、案内された個室で待っていると、ゆっくりと扉が開く。
「お待たせいたしました。本日、あなたの相談を担当させてい――」
そこに立っていたのは、見慣れた亜麻色の髪と翠色の瞳を持つ女性だった。
「――ただきます、聖女のリリシアですわ。……あら?」
にこやかに挨拶を始めた彼女は、俺の顔を見て、ぱぁっと花が咲くような笑顔になった。
「アランくんじゃない! 奇遇ね! あなたも王都に来ていたのね! これもきっと、神が結んでくださった運命の赤い糸だわ!」
ガタッ!!
俺は椅子から転げ落ちそうになった。
なんで! なんでアンタがここにいるんだよ!?
辺境の教会の聖女様じゃなかったのかよ!?
リリシア様はうっとりとした表情で俺に手を差し伸べる。
「さあ、アランくん。私たちの新しい愛の巣で、これからの人生について語り合いましょう? まずは、将来生まれてくる子供の名前から決めましょうか」
「話が飛躍しすぎだろぉぉぉぉぉ!!!」
その時、俺はようやく、はっきりと気づいたんだ。
俺、この聖女様に……ガッツリ付きまとわれているわ、と。
そして、この頻繁に相談していた関係が実はめちゃくちゃ異常だったということに。
俺のある意味、平穏な日常?は、どうやらまだ始まったばかりのようだった。
―――
今作の完結は保証いたします。
皆様の応援こそが力になりますので、何卒【お気に入り】よろしくお願いします。
なぜかって?
人生に絶望しているからだ。
ウォルトン子爵家の三男。
聞こえはいいが、要するに貧乏貴族の厄介者。家を継ぐ権利もなければ、与えられる領地もない。あるのは、中途半端な貴族というプライドと将来への漠然とした不安だけ。
「俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか……」
そんな哲学的な問いに誰か答えをくれないだろうか。そう思って、わらにもすがる思いで教会に通っているのだ。
「あら、アランくん。今日も来てくれたのね」
柔らかな日差しが差し込む懺悔室。
その中で女神様のように微笑む女性がいた。
彼女こそ、この辺境の教会に勤める聖女リリシア様だ。
亜麻色の美しい髪を緩くまとめ、慈愛に満ちた翠色の瞳で人々を癒す。どんな人間の悩みにも静かに耳を傾け、的確なアドバイスをくれると評判の、まさに完璧な聖女様。
……のはずなんだが。
「はい、リリシア様。今日も人生に迷っておりまして……」
「ふふっ、真面目ね、アランくんは。さ、今日はどんなお悩みかしら? 私でよければ、何でも聞くわ」
そう、この聖女様……なぜか俺が相談すると、いつも様子が変になるのだ。
◇◇◇
きっかけは数週間前。
母さんの誕生日に何を贈るべきか、という他愛もない相談だった。
「あの、母へのプレゼントなんですが、何がいいと思われますか?」
「まあ、素敵なお悩みね。お母様、きっと喜ぶわ」
リリシア様はうっとりと目を細め、自分のことのように喜んでくれる。ここまでは完璧な聖女様だ。
問題は、その次だった。
「そうね……お母様には、綺麗な刺繍の入ったハンカチなんてどうかしら? 実用的で、心のこもった贈り物だと思うわ」
「なるほど! ハンカチですか。いいですね!」
流石はリリシア様! 的確なアドバイスだ!
そう思った俺が馬鹿だった。
「でもね、アランくん」
「はい?」
「私にプレゼントをくれるなら、首飾りがいいわ」
「…………はい?」
今、なんて言った?
聞き間違いか? 俺は耳鼻科に行った方がいいのかもしれない。この世界にないけど。
「もちろん、高価なものである必要はないのよ? アランくんが私のために選んでくれた、っていう事実が大切なの。あなたのセンスで選んだ首飾りを、毎日身に着けていたいわ……」
頬を赤らめ、恍惚とした表情で語るリリシア様。
いやいやいや! なんでアンタへのプレゼントの話になってんだよ! 相談内容は「俺の母」へのプレゼントだぞ!?
「あ、あの……俺の、母への……」
「あら、ごめんなさい。つい自分の願望が……。でもね、アランくん」
リリシア様はハッとしたように我に返り、そして悪戯っぽく微笑んだ。
「最終的には、私に結婚指輪を贈ってくれるのが一番嬉しいわ」
「意味が分からないんだが!?」
俺は思わず叫んでいた。もちろん、心の中で。
聖女様に面と向かってそんな不敬なことを言えるはずがない。俺はしがない貧乏貴族なのだ。
結局その日は、「ありがとうございます。参考にします」と引きつった笑顔で告げ、逃げるように教会を後にした。
母へのプレゼントは、市場で買った綺麗な花の栞にした。
こんな調子が、もうずっと続いている。
別の日には、こうだ。
「将来、どんな仕事に就けばいいか悩んでまして……」
「そうね、アランくんは真面目で優しいから、騎士団に入って人々を守るお仕事も素敵だと思うわ」
「騎士ですか! かっこいいですね!」
「ええ。でも、もし騎士になったら、私の専属護衛になってほしいわ。四六時中、私のそばにいて、悪い虫から守ってちょうだい」
……怖い怖い怖い! その悪い虫って、具体的に誰のことですか!?
またある日には、
「最近、寝つきが悪くて……」
「心配だわ、アランくん。疲れているのね。……もしよかったら、今夜、子守唄を歌いに行ってあげましょうか? もちろん、あなたのベッドの隣で」
「通報しますよ!?」と叫びたい衝動を必死で抑え込む。
聖女様の発言とは思えない。完全にアウトだ。
聖職者にあるまじきセクハラ発言だ。
なぜだ。なぜ俺にだけ……?
他の人が相談している時は、本当に絵に描いたような聖女様なのに。
俺はいつしか、まともな人生相談をすることを諦めた。
ただ、リリシア様の美人な顔を眺め、トンチンカンなアドバイスに内心でツッコミを入れる。それが日課になっていた。
だって、なんだかんだ言っても、絶世の美女に言い寄られるのは悪い気がしない。俺だって男だ。美少女にモテたい願望が強すぎるのだ。
そんなカオスな日常が当たり前になった頃。
俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある貴族学園への入学が決まったのだ。
「これで、あのヤバい聖女様ともお別れか……」
一抹の寂しさを感じなくもなかったが、それ以上に安堵の方が大きい。
これからは王都で新しい生活が始まる。
そこで新しい出会いを見つけ、まともな恋愛をしてやる!
そう意気込んで王都での生活をスタートさせた俺は、ある噂を耳にした。
「おい、聞いたか? 王都の大教会に、それはもう美しい聖女様が新しく赴任してきたらしいぜ!」
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……ほう。
完璧な、聖女様。
いいじゃないか。俺の歪んだ聖女観をここで修正するときが来たようだ。
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今度こそ、まともなアドバイスをもらうんだ。そして願わくば、その美人と評判の聖女様と仲良くなって、モテモテ学園ライフの第一歩を踏み出すんだ!
期待に胸を膨らませ、俺は王都の大教会の扉を叩いた。
厳かな雰囲気の中、案内された個室で待っていると、ゆっくりと扉が開く。
「お待たせいたしました。本日、あなたの相談を担当させてい――」
そこに立っていたのは、見慣れた亜麻色の髪と翠色の瞳を持つ女性だった。
「――ただきます、聖女のリリシアですわ。……あら?」
にこやかに挨拶を始めた彼女は、俺の顔を見て、ぱぁっと花が咲くような笑顔になった。
「アランくんじゃない! 奇遇ね! あなたも王都に来ていたのね! これもきっと、神が結んでくださった運命の赤い糸だわ!」
ガタッ!!
俺は椅子から転げ落ちそうになった。
なんで! なんでアンタがここにいるんだよ!?
辺境の教会の聖女様じゃなかったのかよ!?
リリシア様はうっとりとした表情で俺に手を差し伸べる。
「さあ、アランくん。私たちの新しい愛の巣で、これからの人生について語り合いましょう? まずは、将来生まれてくる子供の名前から決めましょうか」
「話が飛躍しすぎだろぉぉぉぉぉ!!!」
その時、俺はようやく、はっきりと気づいたんだ。
俺、この聖女様に……ガッツリ付きまとわれているわ、と。
そして、この頻繁に相談していた関係が実はめちゃくちゃ異常だったということに。
俺のある意味、平穏な日常?は、どうやらまだ始まったばかりのようだった。
―――
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