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20話 愛の強制ボランティア
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「私がいない間にとても楽しそうですわね」
リリシア様の絶対零度の声が教室に響き渡る。
さっきまでの和やかで温かい空気は一瞬にして凍りついた。
生徒たちは、まるで巨大な肉食獣を前にした草食動物のように息を殺して固まっている。
俺の隣にいたエマさんも、その尋常ならざる気配に顔を引きつらせていた。
「リ、リリシア様……! その、お疲れ様です……!」
俺は必死に平静を装って声をかける。
だが、リリシア様は俺を見ていない。彼女の光を失った翠色の瞳は、俺たちが作り上げた、楽しげな教室の飾り付けを、一つ一つなめるように見つめていた。
「……文化祭、でしたわね。皆様、とても熱心でいらっしゃる」
その声には、感情というものが一切感じられない。そして彼女は、俺たちのクラスが出す「喫茶店」の看板へと、ゆっくりと歩み寄った。
「喫茶店……。素晴らしいですわ。人々をもてなし、癒しを与える。まさに神の教えに通じる尊い行いですわね」
リリシア様は、にっこりと完璧な聖女の笑みを浮かべた。だが、その笑顔が、今、この教室の誰よりも恐ろしかった。
「――つきましては、皆様のその尊い行いに、私も、ぜひご協力させていただけないかしら?」
……は?
俺だけでなく、教室にいた全員が耳を疑った。
「チャリティー活動で、少しだけ、お菓子を多く作りすぎてしまいまして。ええ、本当に、ほんの少しだけ。これを、皆様の喫茶店で、お客様に振る舞うというのは、いかがでしょう? もちろん、ボランティアですわ。売り上げは、全て、恵まれない子供たちのために寄付する、ということで」
彼女が、ドン、と。
教室の床に置いた巨大な木箱。
その隙間から禍々しい黒色のオーラが漏れ出しているのが見える。
中身が何かなど考えるまでもない。
『祝福の炭塊』だ。クラスの代表が、震える声で答える。
「そ、そんな、聖女様に、そのようなことをしていただくわけには……!」
「あら、遠慮なさらないで。これも神に仕える者の務めですもの。それに……」
リリシア様は、俺の方をちらりと見た。
その目は雄弁に語っているようだった。
『もし、この申し出を断るというのなら、どうなるか……わかっていますわよね?』
俺は全てを悟った。
これは、罰だ。
俺が、彼女のいない間に他の人間と笑い合い、青春の真似事をしたことに対する、罰。
そして、俺が作り上げた、この温かい場所を内側から破壊するための最も悪質な攻撃。
俺たちの喫茶店で、あの致死性の炭塊が振る舞われる。客は、聖女様直々のお菓子と聞いて、ありがたがって口にするだろう。
そして、次々と神の試練――腹痛と謎の奇跡に見舞われる。店は伝説的な意味で大繁盛するに違いない。
ささやかな青春の思い出は、集団食中毒という、悪夢の記憶に塗り替えられるのだ。
俺は、クラスメイトたちの絶望に満ちた顔を見ることができなかった。
この地獄を招いたのは、俺自身なのだから。
「……素晴らしい、お考えです。リリシア様」
俺は絞り出すような声で言った。
「聖女様のご慈悲に、クラス一同、感謝いたします」
俺のその一言が、決定打となった。
クラスメイトたちは、もはや何も言えない。ただ、青ざめた顔で黙って頷くことしかできなかった。
「まあ、嬉しいわ! 皆様、ご理解があって、本当に助かります!」
リリシア様は、心の底から嬉しそうに花が咲くように笑った。その笑顔は、悪魔の勝利宣言にしか見えなかった。
こうして俺たちの喫茶店は、聖女様による「愛の強制ボランティア」を受け入れることになった。
俺が手に入れたはずの、わずかな自由時間は完全に終わりを告げた。それどころか、俺は、自らの手で友人たちを地獄の計画に巻き込んでしまったのだ。
俺はリリシア様の後ろで、固く、固く、拳を握りしめた。その爪が掌に食い込み、血が滲んでいることにも気づかないふりをした。
リリシア様の絶対零度の声が教室に響き渡る。
さっきまでの和やかで温かい空気は一瞬にして凍りついた。
生徒たちは、まるで巨大な肉食獣を前にした草食動物のように息を殺して固まっている。
俺の隣にいたエマさんも、その尋常ならざる気配に顔を引きつらせていた。
「リ、リリシア様……! その、お疲れ様です……!」
俺は必死に平静を装って声をかける。
だが、リリシア様は俺を見ていない。彼女の光を失った翠色の瞳は、俺たちが作り上げた、楽しげな教室の飾り付けを、一つ一つなめるように見つめていた。
「……文化祭、でしたわね。皆様、とても熱心でいらっしゃる」
その声には、感情というものが一切感じられない。そして彼女は、俺たちのクラスが出す「喫茶店」の看板へと、ゆっくりと歩み寄った。
「喫茶店……。素晴らしいですわ。人々をもてなし、癒しを与える。まさに神の教えに通じる尊い行いですわね」
リリシア様は、にっこりと完璧な聖女の笑みを浮かべた。だが、その笑顔が、今、この教室の誰よりも恐ろしかった。
「――つきましては、皆様のその尊い行いに、私も、ぜひご協力させていただけないかしら?」
……は?
俺だけでなく、教室にいた全員が耳を疑った。
「チャリティー活動で、少しだけ、お菓子を多く作りすぎてしまいまして。ええ、本当に、ほんの少しだけ。これを、皆様の喫茶店で、お客様に振る舞うというのは、いかがでしょう? もちろん、ボランティアですわ。売り上げは、全て、恵まれない子供たちのために寄付する、ということで」
彼女が、ドン、と。
教室の床に置いた巨大な木箱。
その隙間から禍々しい黒色のオーラが漏れ出しているのが見える。
中身が何かなど考えるまでもない。
『祝福の炭塊』だ。クラスの代表が、震える声で答える。
「そ、そんな、聖女様に、そのようなことをしていただくわけには……!」
「あら、遠慮なさらないで。これも神に仕える者の務めですもの。それに……」
リリシア様は、俺の方をちらりと見た。
その目は雄弁に語っているようだった。
『もし、この申し出を断るというのなら、どうなるか……わかっていますわよね?』
俺は全てを悟った。
これは、罰だ。
俺が、彼女のいない間に他の人間と笑い合い、青春の真似事をしたことに対する、罰。
そして、俺が作り上げた、この温かい場所を内側から破壊するための最も悪質な攻撃。
俺たちの喫茶店で、あの致死性の炭塊が振る舞われる。客は、聖女様直々のお菓子と聞いて、ありがたがって口にするだろう。
そして、次々と神の試練――腹痛と謎の奇跡に見舞われる。店は伝説的な意味で大繁盛するに違いない。
ささやかな青春の思い出は、集団食中毒という、悪夢の記憶に塗り替えられるのだ。
俺は、クラスメイトたちの絶望に満ちた顔を見ることができなかった。
この地獄を招いたのは、俺自身なのだから。
「……素晴らしい、お考えです。リリシア様」
俺は絞り出すような声で言った。
「聖女様のご慈悲に、クラス一同、感謝いたします」
俺のその一言が、決定打となった。
クラスメイトたちは、もはや何も言えない。ただ、青ざめた顔で黙って頷くことしかできなかった。
「まあ、嬉しいわ! 皆様、ご理解があって、本当に助かります!」
リリシア様は、心の底から嬉しそうに花が咲くように笑った。その笑顔は、悪魔の勝利宣言にしか見えなかった。
こうして俺たちの喫茶店は、聖女様による「愛の強制ボランティア」を受け入れることになった。
俺が手に入れたはずの、わずかな自由時間は完全に終わりを告げた。それどころか、俺は、自らの手で友人たちを地獄の計画に巻き込んでしまったのだ。
俺はリリシア様の後ろで、固く、固く、拳を握りしめた。その爪が掌に食い込み、血が滲んでいることにも気づかないふりをした。
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