付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと

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37話 裁きの天秤

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査問会が開かれたのは、学園の大講堂だった。
いつもの華やかな雰囲気は完全に消え去り、厳粛で冷え切った空気が、そこに満ちている。

正面には、監察官クレマンを筆頭とする三人の査問官。その脇の席にリリシア様が一人、人形のように表情をなくして座っていた。

俺たち四人は証人席に並んで座らされた。
傍聴席を埋め尽くす生徒や教師たちの視線が重く、痛い。

クレマンが、静かに立ち上がり査問会の開会を宣言した。彼の声は、罪人を断罪する刃のように冷たく鋭い。

「これより聖女リリシアに対する査問会を執り行う。嫌疑は、聖職者にあるまじき、特定の生徒への度を越した寵愛、及び、聖なる力の不正使用。教会本部の名において、一点の曇りもなく、真実を明らかにすることを、ここに誓う」

最初に証人として呼ばれたのは、体育祭の審判を務めた教師や俺に助け起こされたレオ先輩など、俺たちの周辺にいた人々だった。
彼らの証言は、どれも客観的な事実に基づいていた。

「障害物競走では、ありえない追い風が吹き、パンが自ら口へと吸い込まれていった」

「アラン・ウォルトンを助けただけで『穢れ』を指摘され、お祓いを勧められた」

それらの証言が積み重なるたびに、講堂の空気は、リリシア様にとって、より一層、絶望的なものへと変わっていく。
彼女は、ただ俯き、自分の膝の上で固く手を握りしめているだけだった。

そして、ついに俺の名前が呼ばれた。

「証人、アラン・ウォルトン。前へ」

俺は静かに立ち上がり、証言台へと向かう。
友人たちの心配そうな視線を感じる。

リリシア様は、まだ、俯いたままだ。

「アラン・ウォルトン君。単刀直入に聞こう。君は聖女リリシアから、他の生徒とは明らかに違う、異常なまでの執着と過剰な干渉を受けていた。相違ないかね?」

クレマンの鋭い視線が俺を射抜く。
ここで「はい」と答えれば、全ては終わる。彼女は断罪され、俺は被害者として解放されるだろう。
しかし俺はそんな結末を望んではいない。

「……はい。監察官様のおっしゃる通り、リリシア様が、俺に特別な関心を寄せていたことは、事実です」

俺は一度言葉を切り、そして続けた。

「毎日のように昼食を届けてくださったり、俺の身を案じて、時には強引な手段で俺を他人から遠ざけようとしたりもしました。その行動は、正直に言って常軌を逸していると感じることもありました」

講堂がざわめく。
リリシア様の肩が小さく震えたのが分かった。 

クレマンは満足げに頷いている。

「よろしい。つまり君は、彼女の行動を『迷惑』で『異常』だったと、そう証言するのだな?」

彼は、俺に最後通牒を突きつけた。

俺はゆっくりと、首を横に振った。

「いいえ、違います」

そのはっきりとした否定にクレマンの眉がわずかに動く。

「確かに、彼女の行動は異常だったかもしれません。でも、俺が最後に見たのは、歪んだ愛情でしか自分を表現できない、一人の、あまりにも不器用で孤独な女性の姿でした」

俺は、査問官たちを、そして傍聴席の全ての人々をまっすぐに見据えた。

「彼女は、十年前、エルム村で、たった一人で絶望と戦っていた! 誰にも助けられず、誰一人救えず、その心は、ずっと、あの時から止まったままなんです! 彼女の行動は、その過去の贖罪であり、救いを求める、悲痛な叫びだったんだ!」

俺の魂からの叫びが大講堂に響き渡る。

「彼女に必要なのは、断罪じゃない! 罰でもない! ただ、その重荷を共に背負うと、言ってくれる、誰かじゃなかったのか!?」

その時だった。
今までずっと俯いていたリリシア様がはっと、顔を上げた。

その涙に濡れた翠色の瞳が驚きと信じられないというような色を浮かべて、まっすぐに俺を捉えている。

俺は彼女から目を逸らさない。
これが俺の答えであり、真実なのだ。

講堂は水を打ったように静まり返っていた。

監察官クレマンは、俺の予期せぬ証言に言葉を失い、ただ忌々しげに俺を睨みつけていた。

裁きの天秤は、大きく揺れ動いた。

俺が投じた小さな、しかし、あまりにも重い真実という名の、一石によって。
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