付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと

文字の大きさ
42 / 46

42話 最後の作戦会議

しおりを挟む
監察官クレマンが突きつけてきた『異端』という、あまりにも重い、絶望的な言葉。
その刃は、リリシア様の心を深く、そして、静かに蝕んでいた。

俺の隣で彼女は、か細い声で呟いた。

「……もう、いいのです」

その声は、全ての希望を諦めてしまったかのように虚ろだった。

「私がいなくなれば全て終わるのですから。アランくんも、皆様も、もう私のせいで、ご迷惑をおかけすることもない……」

その自己犠牲という名の逃避の言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが激しく燃え上がった。

「ふざけるな!」

俺の怒声に近い叫びにリリシア様だけでなく、仲間たちも驚いて俺を見る。

「あんたがいなくなっていいわけないだろうが! 俺が絶対にそうはさせない!」

俺はリリシア様の両肩を強く掴んだ。

「いいか、よく聞け。あんたは、もう一人じゃないんだ。あんたの過去も、苦しみも、俺たちが一緒に背負うって決めたんだ。だから勝手に、いなくなろうとすんじゃねえ!」

俺の不器用で乱暴な、しかし心の底からの言葉。

リリシア様の瞳から、再び、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
だが、それは絶望の涙ではなかった。

俺は仲間たちに向き直った。

「みんな、もう一度、力を貸してくれ。今度は守るんじゃない。俺たちがクレマンを叩き潰すんだ」

その言葉に三人は力強く頷き返した。

俺たちの最後の作戦会議が始まった。

「相手の土俵で戦ってはダメだ」

最初に口火を切ったのはジュリアス様だった。

「クレマンは、俺たちを神学論争という専門家しか理解できない泥沼に引きずり込みたいんだ。そうなれば奴の思う壺だ。俺たちは、その土俵自体をひっくり返す必要がある」

「そうですわ」

とソフィア様が続ける。

「異端かどうかを最終的にお決めになるのは、教会最高評議会、そして国王陛下。クレマン一人の独断では、決して決められません。つまり評議会と王家がクレマンの主張を『否』と判断するだけの、材料を我々が提示すればよいのです」

「材料……?」

俺が聞き返すと、エマさんが拳を握って言った。

「街の人たちのことだよ! みんな、リリシア先生のクッキーを食べて、元気になったんだ! 病気が治ったおじいさんだっているんだよ! それって、異端なんかじゃない、本物の『奇跡』だよ! その声を、もっと、大きくすればいいんだ!」

そうだ。クレマンがリリシア様を教義と論理で縛ろうとするなら、俺たちは、民衆の声と事実でその包囲網を破る。
仲間たちの言葉を聞きながら、俺の中で一つの、あまりにも大胆で無謀な作戦が形作られていった。

「……分かった」

俺は三人の顔を見渡した。

「エマさんとソフィア様は、世論を俺たちの味方につけてほしい。聖女リリシアは、民を苦しめる異端者ではなく、民に寄り添い、幸福をもたらす本物の聖女なのだと。その声を王都中に響き渡らせてくれ」

「任せて!」

「お任せくださいまし」

「ジュリアス様は、政治の力でクレマンを孤立させてほしい。彼の今回の行動が神学的な正義ではなく、ただの個人的な功名心からくる、危険な暴走なのだと、評議会や王家の重鎮たちに
働きかけてくれ」

「フン。面白くなってきたじゃないか。やってやろう」

「じゃあ、アランくんは……?」

エマさんの問いに、俺は不敵な笑みを浮かべてみせた。

「俺は、クレマンに、直接、会いに行く」

「なっ!?」

三人が驚きの声を上げる。

「神学論争で、奴に勝てないのは、分かってる。だから、俺は、議論しに行くじゃない。――人生相談、しに行くんだよ」

「「「人生相談!?」」」

「ああ。監察官クレマンという鎧を剥ぎ取って、その下にある、ただの一人の人間の心の弱さを暴き出しに行く。今まで、あんたに散々、無茶苦茶な人生相談をしてきた、その経験の、全てをぶつけてやる」

それは俺にしかできない、俺だけの戦い方。

リリシア様が信じられないという顔で俺を見ている。彼女に向き直り、その涙の跡が残る頬に、そっと手を触れた。

「リリシア様。あんたは、ただ俺たちを信じて待っていてください」

俺は彼女の目を見て、はっきりと誓った。

「俺が、必ず、あんたを、救い出す」

俺たちの最後の反撃が、今、始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...