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43話 監察官への人生相談
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ついに俺たちの反撃が始まった。
エマさんとソフィア様は、それぞれの舞台で世論という、見えざる大きな力を、俺たちの味方につけるために動き出した。
ジュリアス様は、水面下で政治という複雑なゲームの駒を一つ一つ着実に動かし始めていた。そして俺は、一人、敵の懐へと乗り込んでいった。
監察官クレマンが臨時の執務室として使っている学園の一室。
俺は、正式な手続きを踏んで彼との一対一の面会を申し入れた。
「……何の用かね、ウォルトン君」
部屋に入るなり、クレマンは侮蔑を隠そうともしない冷たい視線を俺に向けた。
彼は、俺が命乞いか、あるいは取引でもしに来たと思っているのだろう。
俺は彼の目の前の椅子に深く腰掛けた。
そして今、俺にできる最高の不敵な笑みを浮かべてみせた。
「はい。監察官様、あなたに人生相談があって参りました」
そのあまりにも予想外の言葉にクレマンの鉄仮面のような表情が、わずかに揺らいだ。
「……何を馬鹿なことを言っている。不敬にもほどがあるぞ」
「不敬ではありません。俺は真剣です」
俺は机に身を乗り出した。
「監察官様。あなたはどうしてそこまでして、リリシア様を断罪したいのですか?」
そんなまっすぐな問いに、クレマンは嘲るように鼻を鳴らした。
「決まっているだろう。教会の秩序と正義を守るためだ。彼女のような規律を乱す者を放置しておくわけにはいかん」
「正義、ですか」
俺は静かに繰り返した。
「俺には、そうは見えません。あなたのその目に見えるのは、正義の光ではなく、どす黒い嫉妬の炎です」
「なっ……!?」
クレマンの顔色が変わる。
俺は、容赦なく言葉の刃を突き立てていく。
それは、かつてリリシア様が、俺の心の奥底をいとも簡単に見抜いてきた、あのやり方。
彼女との異常な日常の中で、皮肉にも俺が身につけてしまった、スキルだった。
「リリシア様は、若い。そして才能に溢れ、多くの民に心から愛されている。それに比べて、あなたは、どうです? 長年、教会にその身を捧げながら、結局は、他人の粗探しをするだけのしがない監察官。本当は羨ましかったんじゃないですか? 妬ましかったんじゃないですか? 自分の持っていない、その輝きが!」
「黙れ、小僧!」
クレマンが激昂し机を叩いた。
「貴様のような若造に私の長年の信仰心の何が分かるというのだ!」
「分かりますよ」
俺は静かに、しかしはっきりと言い切った。
「あんたは教会を、神を、愛しているんじゃない。あんたが愛しているのは、教会の権威という鎧を纏った自分自身だけだ。リリシア様のような規格外の存在が、自分よりも民衆に愛されることが許せない。あんたのちっぽけなプライドが、それを許さないんだ」
「黙れ、黙れ、黙れぇっ!!」
クレマンは完全に理性を失っていた。
その顔は、厳格な監察官のものではなく、嫉妬に狂った、哀れな一人の老人のものだった。
「そうだ! リリシアのような、若くて教義から外れた甘っちょろい女が、力を持つこと自体が間違いなのだ! あの女の、その存在こそが、私が生涯をかけて守ってきた、教会の神聖なる秩序を乱すのだ! だから、私が、この手で、正してやらねば、ならんのだ!」
彼が全てを自白した、その瞬間。
部屋の隣室へと続く隠し扉が静かに開かれた。
そこに立っていたのは、ジュリアス様と、そして教会最高評議会の一員である、穏健派の壮年の司教様だった。
司教様は、クレマンを深い哀れみの目で見つめていた。
「監察官殿。今の、そのお言葉……この老骨の耳にも、確かに、はっきりと、届きましたぞ」
クレマンの顔が、さっと、血の気を失い絶望の色に染まっていく。
彼は自分が完全に、俺とジュリアス様の仕掛けた罠に嵌められたことを悟ったのだ。
俺は静かに立ち上がった。
もはや抜け殻のようになった、哀れな老人へと最後の一言を告げた。
「これが、俺の答えです。監察官殿」
俺は部屋を後にする。
扉を閉める、その間際のことだ。俺は、ちらりとリリシア様のことを思い出していた。
あんたのやり方、そっくり返させてもらったぜ、リリシア様。
俺は守られるだけの人形じゃない。
大切なものを守るためなら悪魔にだってなってみせる。本当の反撃は、今、始まったばかりなのだから。
エマさんとソフィア様は、それぞれの舞台で世論という、見えざる大きな力を、俺たちの味方につけるために動き出した。
ジュリアス様は、水面下で政治という複雑なゲームの駒を一つ一つ着実に動かし始めていた。そして俺は、一人、敵の懐へと乗り込んでいった。
監察官クレマンが臨時の執務室として使っている学園の一室。
俺は、正式な手続きを踏んで彼との一対一の面会を申し入れた。
「……何の用かね、ウォルトン君」
部屋に入るなり、クレマンは侮蔑を隠そうともしない冷たい視線を俺に向けた。
彼は、俺が命乞いか、あるいは取引でもしに来たと思っているのだろう。
俺は彼の目の前の椅子に深く腰掛けた。
そして今、俺にできる最高の不敵な笑みを浮かべてみせた。
「はい。監察官様、あなたに人生相談があって参りました」
そのあまりにも予想外の言葉にクレマンの鉄仮面のような表情が、わずかに揺らいだ。
「……何を馬鹿なことを言っている。不敬にもほどがあるぞ」
「不敬ではありません。俺は真剣です」
俺は机に身を乗り出した。
「監察官様。あなたはどうしてそこまでして、リリシア様を断罪したいのですか?」
そんなまっすぐな問いに、クレマンは嘲るように鼻を鳴らした。
「決まっているだろう。教会の秩序と正義を守るためだ。彼女のような規律を乱す者を放置しておくわけにはいかん」
「正義、ですか」
俺は静かに繰り返した。
「俺には、そうは見えません。あなたのその目に見えるのは、正義の光ではなく、どす黒い嫉妬の炎です」
「なっ……!?」
クレマンの顔色が変わる。
俺は、容赦なく言葉の刃を突き立てていく。
それは、かつてリリシア様が、俺の心の奥底をいとも簡単に見抜いてきた、あのやり方。
彼女との異常な日常の中で、皮肉にも俺が身につけてしまった、スキルだった。
「リリシア様は、若い。そして才能に溢れ、多くの民に心から愛されている。それに比べて、あなたは、どうです? 長年、教会にその身を捧げながら、結局は、他人の粗探しをするだけのしがない監察官。本当は羨ましかったんじゃないですか? 妬ましかったんじゃないですか? 自分の持っていない、その輝きが!」
「黙れ、小僧!」
クレマンが激昂し机を叩いた。
「貴様のような若造に私の長年の信仰心の何が分かるというのだ!」
「分かりますよ」
俺は静かに、しかしはっきりと言い切った。
「あんたは教会を、神を、愛しているんじゃない。あんたが愛しているのは、教会の権威という鎧を纏った自分自身だけだ。リリシア様のような規格外の存在が、自分よりも民衆に愛されることが許せない。あんたのちっぽけなプライドが、それを許さないんだ」
「黙れ、黙れ、黙れぇっ!!」
クレマンは完全に理性を失っていた。
その顔は、厳格な監察官のものではなく、嫉妬に狂った、哀れな一人の老人のものだった。
「そうだ! リリシアのような、若くて教義から外れた甘っちょろい女が、力を持つこと自体が間違いなのだ! あの女の、その存在こそが、私が生涯をかけて守ってきた、教会の神聖なる秩序を乱すのだ! だから、私が、この手で、正してやらねば、ならんのだ!」
彼が全てを自白した、その瞬間。
部屋の隣室へと続く隠し扉が静かに開かれた。
そこに立っていたのは、ジュリアス様と、そして教会最高評議会の一員である、穏健派の壮年の司教様だった。
司教様は、クレマンを深い哀れみの目で見つめていた。
「監察官殿。今の、そのお言葉……この老骨の耳にも、確かに、はっきりと、届きましたぞ」
クレマンの顔が、さっと、血の気を失い絶望の色に染まっていく。
彼は自分が完全に、俺とジュリアス様の仕掛けた罠に嵌められたことを悟ったのだ。
俺は静かに立ち上がった。
もはや抜け殻のようになった、哀れな老人へと最後の一言を告げた。
「これが、俺の答えです。監察官殿」
俺は部屋を後にする。
扉を閉める、その間際のことだ。俺は、ちらりとリリシア様のことを思い出していた。
あんたのやり方、そっくり返させてもらったぜ、リリシア様。
俺は守られるだけの人形じゃない。
大切なものを守るためなら悪魔にだってなってみせる。本当の反撃は、今、始まったばかりなのだから。
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