宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
28 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで

第28話 ユティさんを手伝う

しおりを挟む
 北の国が寒い事と、出されたコーヒーがおいしくて飲みすぎてしまったのだろうか。恥ずかしくて逃げるついでに用を済ませた俺は、中庭へ戻るために歩き出す。角を曲がって入口を横切る廊下に出たときに、向こうから歩いてくる何かに気づいた。積み重なった本が、とてもゆっくりなペースで動いている。

 しかしその本の下からはロングスカートが伸びていて、そのスカートには見覚えがあった。小走りで駆け寄り、本の塔に声をかける。

「……ユティさん、大丈夫ですか? 持ちましょうか?」

「その声は、ノヴァさんですか?」

 本の塔、もといそれを持ったユティさんが答える。俺はユティさんから了承を得る前に、半分以上の本の塔を崩して手に持った。背表紙だけしか見えなかったけど、魔法以外にも政治の本や歴史の本などジャンルは様々なようだ。

「すみません、お手数をおかけして」

「いえ、このくらいなんてことはないです」

「ありがとうございます……2階に自室があるので、そこまでお願いします」

「分かりました」

 ユティさんを先頭に、俺は彼女についていく。入口から伸びる階段を上り、右に伸びる階段へと足を掛けるので、どうやらオーロラちゃんの部屋は左側に、ユティさんの部屋は右側にあるらしい。

「すみません、夢中になって読みたい本を手に取っていたら、持ちきれなくなってしまって」

「それでこんなにいっぱい……すごいですね。俺は剣術に関する本しか読まないので……」

「必要なことですから」

 右に伸びる階段を登り切り、扉を背中で開けるユティさん。この人、俺がいなかったらどうやって本を持っていくつもりだったんだろうか。一回一回床に置いて、ということになるのかもしれないけど、それにしても大変なことだ。たまたま今のタイミングで出会えてよかった。

 ユティさんの背中を追えば、曲がり角を曲がったところですぐそばの部屋の扉を開いた。その中へと入っていくユティさんについていこうとするときに、ふと左を見た。廊下の一番奥に、ユティさんの部屋よりも大きな扉があった。

 シアの部屋かな?なんて事を思いつつ、ユティさんの部屋へと足を踏み入れる。彼女の部屋は貴族の長女の部屋らしく広いものの、本が乱雑に置いてあった。椅子の上にも、ベッドの上にも、本、本、本。この部屋だけで数えきれないほどの本が鎮座している。その光景に驚いていると、ユティさんに声をかけられた。

「そこのテーブルの脇に置いておいてください」

「ここ……ですか……」

 テーブルの上ではなくテーブルの脇。床が見えている範囲がここなので、おそらくそうだろう。1階の図書室に行ったときに、やけに本が抜けているなと思ったが、この部屋にあったのか。俺は部屋の光景に呆気にとられながら、本の塔を床に下ろした。

 ふぅ、と一息ついて見てみれば、ユティさんは残りの本の塔の一部分を持って止まっていたものの、やがてベッドの上にそれらを下ろした。

「すごい本の数ですね。全部使っているんですか?」

「いえ、全部は使っていません。返していないだけです」

 ユティさんはそういうと机に座り、何かを書き始めた。仕事の邪魔になるかと思ったのだが、どうしても気になるから俺は声をかけてしまう。

「え、そうなんですか? 使わなくなった本を、本を借りに行くときに持っていけば減っていくのでは?」

「使う本か使わない本かを判断する時間が億劫に感じてしまって、長らくやっていないです」

「なるほど……」

 大量の本を読むユティさんゆえの悩みということだろうか。本の背表紙を見ながら、シアの言葉を思い返す。確か、ユティさんってめちゃくちゃ頭が良いって言ってたような。それなら、何か助けになれるかもしれない。

「それなら俺が本のタイトルを言いますので、それで必要か不要か教えてもらえますか?」

「…………」

 俺の言葉にユティさんは答えなかった。余計なことをいってしまったかもしれない、と思ったけど。

「いいんですか?」

「え? はい、全然」

「……では、お願いします」

 ユティさんの言い方が少し気になったものの、俺は本の背表紙のタイトルを次々と言っていく。ユティさんは「いります」「いりません」の2通りの方法で答えてくれるので、「いりません」と言われた本だけを集める。そうして持てるギリギリの量まで集めた。

 不要な本の束を一旦部屋の隅に置いて、再度ユティさんに本が要るかどうかを聞いていく。ユティさんの返答が早いから分別は早いけど、量が量だから時間はかかりそうだ。

 そうして不要な本の束を作っていると、ユティさんが不意に尋ねて来た。

「ノヴァさんは、小さな頃にあの子と会ったことがありますか?」

「え?」

 急に聞かれて思わず返してしまったけど、ユティさんの言う「あの子」とはシアのことだろう。けど言うべきかどうか悩んでしまい、曖昧な問いを返した。

「えっと……どうして急に……」

「元々あの子は、この家においては不遇な立場でした。魔法を使えず、使っても暴走してしまう。ノヴァさんが知っているように、このような家に生まれたものにとってそれがどれだけの苦痛か」

「…………」

「けれどある日を境にあの子は力に目覚めました。魔力は暴走することがなくなり、そしてその力持って今の地位まで上り詰めました。これまでは何がきっかけでそうなったのか分かりませんでしたが、今日のあの子を見てきっかけがあなただということは分かりました。そうですね?」

「……はい」

 シア本人から聞かされたことだ。あの雪の日、俺がシアの体内の魔力を叱ったことで、シアは魔力をコントロールすることが出来るようになったって。俺のそんな些細なことが今のシアの一部になっていると、そう思っていた。

「きっとあなたがあの子の問題を解決したその日から、あの子はあなただけを見てきているんです。だから膨大な力に呑まれずに使いこなした。だから当主にまでなった……」

 違ったんだ。そんな些細だと思ていたことが、シアの人生を変えていたんだ。

「ノヴァさんは、あの子からの縁談の話をお受けするつもりなんですよね?」

「……はい。俺はシアを護りたいと思いました。必要ないかもしれないけど、頼りないかもしれないけど、護りたいと」

「あの子を、護るですか……」

 やはり俺では力不足なのは否めないのか、そう呟いたユティさん。けど彼女はゆっくりと頭を下げた。

「姉として言います。あの子のこと、よろしくお願いします」

「……はい」

 しっかりと返答すると、ユティさんは顔を上げてまた机へと向かっていってしまった。俺はそれ以上言葉を交わすことなく、不要だと言われた本の束をもって部屋を出て行く。長い廊下を歩きながら、さっきのユティさんの言葉を思い返した。

 いいお姉さんだった。少なくとも俺の兄上達とは違うと思った。変わっている人だと思ったけど、いや変わっているけど良い人だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...