宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
51 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第51話 一日の終わり、語らい

しおりを挟む
 夜も遅くなった頃、俺は寝室にいた。同じ部屋には一緒に使っているシアもいる。夫婦だから同じ寝室、同じベッドを使うことは普通らしいけど、人並み外れた可愛さを持つシアと一緒の状況はいつまで経っても慣れない。今も黒の寝間着を着た彼女を直視できないくらいだ。

「よいしょっと……」

 緊張を紛らわすためにそんなことを言って、俺はベッドに入った。シアも同じように入ってきて、同じベッドの中で向かい合う形になる。
 特注のベッドはかなり大きく、俺とシアが一緒に入ってもまだまだ余裕があるくらいだ。

「今日はお疲れさまでした。楽しめましたか?」

「うん、王都の研究所も驚いたし、その後はオーロラちゃんに案内してもらったよ。アークゲート家の人達も良い人ばかりで楽しかった」

 少し感じていた緊張が消えていく。一日の終わりに彼女と語り合うのは、もはや日課になりつつある。昼間に一緒にいることが少ないから、夜にお互いに何があったのかを話すようになった。

「シアは? 忙しかったみたいだけど」

「王城に行きましたからね。コールレイク帝国との交渉の事前準備について、色々と相談されちゃいました。家の領地とも関係あることなので、どうしても時間がかかるというか」

「そっか……じっくり慎重に考えないとだね」

 戦争が終わったことで、北のコールレイク帝国とは国交が開かれ始めている。人や物の行き来、両国の関係のさらなる改善など、することはまだまだ多いらしい。
 王族が主導で行っているけど、戦争を終わらせた当事者でもあり、領地が帝国に近いために大きな影響を受けるシアの意見が求められる場面も多いみたいだ。

「大丈夫? 疲れたりしてない?」

「大丈夫ですよ? 結構体力あるので」

 くすくすと笑うシア。小柄な彼女を見ているとそうは思えないけど、ちょっと冗談めかして言うのも癖なんだろうと最近気づいた。あんまり無理をしないように、よく見ておかないと。
 いや毎晩見てて疲れた様子はなさそうだけど、ひょっとしたら隠すのが上手いのかもしれないし。

「そういえば、一週間後くらいにはゲートの機器の試作品が出来るらしいですよ。その試作品をノヴァさんに試してもらって、問題なければ完成に向けて動いてくれると」

「そんなに早く出来るの? ナタさんって凄いんだな」

「元々理論はユティが確立していたので、形にするだけだと言っていました」

「ああ、ユティさんから聞いたよ。共同で機器を開発してるって」

 シアは一回だけ頷く。

「ナターシャから連絡が来るので、そしたらノヴァさんに繋ぎますね」

「うん、いつでも協力するよ」

 あのゲートの魔法が一人で使えるようになるということに、今からワクワクが止まらない。

「ところで……ナターシャの実家のワイルダー家って、ゼロードのお義兄様の婚約者さんの家でしたよね。ノヴァさんも交流があるんですか?」

「あー、セシリアさんの事? 結構前に挨拶をしたことがあるくらいだね。一、二回だけど」

 父上の屋敷にいた頃には、すでにゼロードの兄上とセシリアさんは婚約者の関係だった。フォルス家に対してセシリアさんやナタさんの属するワイルダー家は家の格式は少し下がるけど、功績的には同じくらいの名家だ。

「二人の婚約は父上とワイルダー家の当主が決めたことらしくて、要はよくある家が決めた許嫁ってやつだね。セシリアさんと話をしたことはほとんどないけど、気位の高い令嬢って感じだったよ」

 カイラスの兄上の妻であるローズさんは少し苦手だけど、セシリアさんに対しては苦手だと思ったことはなかった。

「結構長い間、婚約の関係なのですか?」

「あー、それはゼロードの兄上の意向っていうか……ここだけの話だけど、ゼロードの兄上、あんまりセシリアさんの事好きじゃないみたいなんだ。セシリアさん、曲がったことが嫌いでゼロードの兄上に対しても強く物事を言うみたいで、よく兄上は不機嫌になってたよ」

 家柄的にはほぼ同じくらいだけど、どちらかと言うと不真面目なゼロードの兄上に対して、セシリアさんは真面目で厳しい人。つまり二人の相性は決定的に悪い。これがカイラスの兄上なら良かったのかもしれないけど。……いや、それはそれで堅苦しくなりそうな感じもする。

「だから多分だけど、ゼロードの兄上がフォルス家の当主になるまで籍は入れないつもりなんだと思う。実際に二人に聞いたことはないから分からないけどね」

「なんというか……すごい話ですね」

「身内のことながら、本当にそう思うよ」

 ゼロードの兄上には本当に困ったものだ。

「お互い、問題のある身内を抱えると大変ですね」

「え?」

 突然の言葉の意味が分からずに聞き返すと、シアは困ったように目じりを下げた。

「ノヴァさん、オーラの事、本当にありがとうございました」

「…………」

 一瞬なんの事かと思ったけど、昼間の事を指していると気づいた。

「いや、何の事かな……」

「流石に王都の中でアークゲート家の魔力がぶつかっていれば気づきます。しかもオーラの魔力が珍しくいきり立っていましたし。相手がティアラということで、何があったのかは想像がつきます」

「シアは本当に凄いな……オーロラちゃんに秘密にしておくように言われたんだけど、何でも分かっちゃうんだな」

 苦笑いするしかない。
 ごめんオーロラちゃん、隠そうとしたけど君の姉上で俺の妻は凄すぎたよ、と内心でオーロラちゃんに謝って、俺は昼間の出来事を話し始めた。

「たまたまティアラと出会ったんだ。それでちょっとした口論になってね。最初は俺がアークゲート家の男だから家に尽くせって言われたことにオーロラちゃんが反発したんだ。でもそしたらなんだかよく分からない話になって、オーロラちゃんが怖がっちゃって。……きっとすごく年上の人に言われたからだと思うけど」

 あの時、確かにティアラはシアとオーロラちゃんの母親に関する話を出していた。けどそれをそのまま伝えるのはなんだか気が引けて、少しぼかして伝えることにした。

「それでちょっと見ていられなくなって口を出したら、オーロラちゃんも元気を取り戻してって感じかな……」

「やはりそうでしたか……」

 深刻そうな顔をしたシアは、俺をまっすぐに見つめた。

「ノヴァさん、ティアラが失礼をしました。彼女の言うことは一切気にしないでください。ノヴァさんはアークゲート家の男ではなく、私の旦那様ですから」

 手を取られ、両手で包まれる。

「うん、分かってるよ。あの人の言ったことが全然的外れだって。ちゃんと言ってやったから。俺が皆と一緒にいるのはアークゲート家の男だからじゃなくてシアはシアで、ユティさんはユティさんで、オーロラちゃんはオーロラちゃんだからだって」

「ノヴァさん……」

 ほんの少しだけ、俺の手を握るシアの力が強くなった。その力はすぐに弱まり、シアは笑顔を浮かべる。

「ありがとうございます……ふふっ、それにしてもオーラにはご褒美をあげないといけませんね。ノヴァさんのために啖呵を切ったのは素晴らしい事です」

「オーロラちゃんは本当に凄い子だよ」

「でも、弱いところもあるんです。今日の昼にそれを感じたかもしれませんが」

「うん、そうだね……だから気に掛けるようにするよ。別に今までも気にかけてはいたんだけどね」

 昼間の震えるオーロラちゃんを思い出す。あの時、俺の中で何かが切れたのはオーロラちゃんのような小さな子をティアラのような大人が虐めたことも大きいと思うけど、それ以上にその姿が目の前の最愛の人の小さな頃に被ったから。

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 二人して笑い合う。その後も俺達は他愛ない話をしあった。

 そして語りつくしたところで、手を繋ぎながら心地良いまどろみに身をゆだねる。おやすみと言って幸せな気持ちのまま、俺達はどちらからということもなく眠りの世界に意識を落としていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...