62 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第62話 ユティさんの疑問
しおりを挟む
「だ、旦那様!? ユースティティア様!?」
アークゲート家の図書室(ユティさんは書庫室と呼ぶけど)に本を届けにくると、入口の傍にいた司書さんが慌てて立ち上がって今回も手伝ってくれる。あっという間に持っていた本を奪われ、手元の本の塔はすっかり跡形もなくなっていた。
「ありがとうございました旦那様……ユースティティア様も最近は返してくれてはいたのですが、借りていく量の方が遥かに多かったので心配していたところだったのです」
「あ、そうなんだ」
返事をしてユティさんの方を見ると、彼女は俺と目を合わせないように明後日の方向を向いていた。あ、でもちょっと恥ずかしそうに赤くなってる。
「ただ、これまではかなり長期間借りっぱなしだったので、最近のように数日で不要な本を返却していただけるのはとてもありがたいです。ありがとうございます、ユースティティア様」
「……いえ、むしろ今までご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「ここはユースティティア様の屋敷でもあります。謝る必要はございません。ただ……私どもや当主様でも改善しなかったのに、旦那様ですと改善するなんて……」
「え? そうなんですか?」
エマさんを始めとする使用人の人達がユティさんの部屋ごもりに困っていたことは知っているけど、シアも注意はしていたのか。そういえば最初にユティさんの部屋を片付けた時もシアは注意してたな。
「お恥ずかしながら……ですがノヴァさんに言われると、そうしなきゃと思ってしまって……それでもたまに返すのを忘れてしまうのですが……」
「……なるほど……旦那様は不思議な方ですね」
「?」
不思議な方ですねと言われても、俺としてはよく分からないが。ユティさんも何かを考えているみたいだし、俺たち三人の間に少しだけ沈黙が落ちる。
やがてユティさんは顔を上げた。
「さて、それじゃあノヴァさん、戻りましょうか」
「あぁ、はい」
ユティさんと一緒に図書室を出る。頭を深く下げた司書さん方にも軽くお辞儀をした。
×××
アークゲートの屋敷の入り口に向かう途中で、ユティさんは不意に語り掛けてきた。
「そういえばノヴァさん、当主様からお聞きしましたが、お母様はセリア・フォルスさん。南にあるクロス家の出身で間違いないですか?」
「え? はい、そうだったと思います……」
母上の実家についてはそこまで詳しくはないけど、同じ南側の小さな貴族だったはずだ。今は母上の兄か弟が当主を務めていた気がする。まあ、クロス家の人には会ったことがないんだけど。
「どうしてそんなことを?」
「いえ、ちょっと疑問に思ったんです。セリアさんが亡くなって辛い思いをしたノヴァさんに対して、セリアさんの実家は何をしていたのかと」
「あぁ……母の死後だけじゃなくて、生きていた頃もクロス家の人に会ったことはありませんね」
ひょっとしたら母上が生きていた頃はフォルス家とクロス家は交流があったのかもしれないけど、きっと亡くなった後はそれもないだろう。
クロス家の人からしたら、フォルス家の覇気を継げなかった俺に対して思うところだってあったかもしれないし。
「父親は、本当にトラヴィス・フォルスなんですよね?」
「え?」
それは何度も言われた言葉。なぜお前は覇気が使えないのか。本当にトラヴィス様の息子なのか。そう言われたことも陰口を叩かれたことも、数えることが出来ないくらいある。
けど横を歩くユティさんは少し嫌悪すら感じさせる表情をしていた。
「いえ、ノヴァさんを見ていると他の兄弟とはあまりにも違うというか、比べるのが烏滸がましいくらいノヴァさんの方が良いので」
「……ははっ」
「? どうかしましたか?」
「……いえ、ありがとうございます」
まさかそんな意味で言われる日が来るなんて思いもしなかった。本当、シアの家族には感謝しかないな。
「残念ながら、確実に。母上は父上を愛していましたし、亡くなる直前まで母上の側にいましたが、父上が本当の父上ではないなんて母上からは聞いたこともありませんからね」
「……すみません、少し悲しいことを思い出させてしまいましたね」
「いえ、大丈夫です」
母上の事は悲しいけど、ユティさんとの会話で嬉しくなった部分の方が大きい。
けどユティさんはそうではないみたいで、何かを考え込んでいるみたいだった。
そうしているうちに、俺達はアークゲート家の入口まで戻ってくる。
階段を上り、左右に分かれる踊り場でユティさんは立ち止まった。
「今日はありがとうございました。あと、よければこの後にオーラにも会ってあげてください。あの子もノヴァさんと会うのを楽しみにしていましたから」
「あぁ、大丈夫です。最初からそのつもりでしたから」
「そうでしたか」
ユティさんはそう言うと、封筒を取り出した。
「当主様から聞いているかもしれませんが、こちらをどうぞ。改良された便箋です。すでに当主様に魔力を注入してもらっているので、いつでも使える筈です」
「はい、聞いています。ありがとうございます」
きっとこれまでと同じ、シンプルな白い便箋なんだろうと思ってそれを受け取る。今度こそ話は終わったとばかりにユティさんは頭を下げて、俺も同じように軽く頭を下げ返した。
「ではノヴァさん、また今度」
「はい、また今度」
そう言って別れて、ユティさんは戻るために右側の階段に、そして俺は反対の左側の階段に足をかけた。
アークゲート家の図書室(ユティさんは書庫室と呼ぶけど)に本を届けにくると、入口の傍にいた司書さんが慌てて立ち上がって今回も手伝ってくれる。あっという間に持っていた本を奪われ、手元の本の塔はすっかり跡形もなくなっていた。
「ありがとうございました旦那様……ユースティティア様も最近は返してくれてはいたのですが、借りていく量の方が遥かに多かったので心配していたところだったのです」
「あ、そうなんだ」
返事をしてユティさんの方を見ると、彼女は俺と目を合わせないように明後日の方向を向いていた。あ、でもちょっと恥ずかしそうに赤くなってる。
「ただ、これまではかなり長期間借りっぱなしだったので、最近のように数日で不要な本を返却していただけるのはとてもありがたいです。ありがとうございます、ユースティティア様」
「……いえ、むしろ今までご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「ここはユースティティア様の屋敷でもあります。謝る必要はございません。ただ……私どもや当主様でも改善しなかったのに、旦那様ですと改善するなんて……」
「え? そうなんですか?」
エマさんを始めとする使用人の人達がユティさんの部屋ごもりに困っていたことは知っているけど、シアも注意はしていたのか。そういえば最初にユティさんの部屋を片付けた時もシアは注意してたな。
「お恥ずかしながら……ですがノヴァさんに言われると、そうしなきゃと思ってしまって……それでもたまに返すのを忘れてしまうのですが……」
「……なるほど……旦那様は不思議な方ですね」
「?」
不思議な方ですねと言われても、俺としてはよく分からないが。ユティさんも何かを考えているみたいだし、俺たち三人の間に少しだけ沈黙が落ちる。
やがてユティさんは顔を上げた。
「さて、それじゃあノヴァさん、戻りましょうか」
「あぁ、はい」
ユティさんと一緒に図書室を出る。頭を深く下げた司書さん方にも軽くお辞儀をした。
×××
アークゲートの屋敷の入り口に向かう途中で、ユティさんは不意に語り掛けてきた。
「そういえばノヴァさん、当主様からお聞きしましたが、お母様はセリア・フォルスさん。南にあるクロス家の出身で間違いないですか?」
「え? はい、そうだったと思います……」
母上の実家についてはそこまで詳しくはないけど、同じ南側の小さな貴族だったはずだ。今は母上の兄か弟が当主を務めていた気がする。まあ、クロス家の人には会ったことがないんだけど。
「どうしてそんなことを?」
「いえ、ちょっと疑問に思ったんです。セリアさんが亡くなって辛い思いをしたノヴァさんに対して、セリアさんの実家は何をしていたのかと」
「あぁ……母の死後だけじゃなくて、生きていた頃もクロス家の人に会ったことはありませんね」
ひょっとしたら母上が生きていた頃はフォルス家とクロス家は交流があったのかもしれないけど、きっと亡くなった後はそれもないだろう。
クロス家の人からしたら、フォルス家の覇気を継げなかった俺に対して思うところだってあったかもしれないし。
「父親は、本当にトラヴィス・フォルスなんですよね?」
「え?」
それは何度も言われた言葉。なぜお前は覇気が使えないのか。本当にトラヴィス様の息子なのか。そう言われたことも陰口を叩かれたことも、数えることが出来ないくらいある。
けど横を歩くユティさんは少し嫌悪すら感じさせる表情をしていた。
「いえ、ノヴァさんを見ていると他の兄弟とはあまりにも違うというか、比べるのが烏滸がましいくらいノヴァさんの方が良いので」
「……ははっ」
「? どうかしましたか?」
「……いえ、ありがとうございます」
まさかそんな意味で言われる日が来るなんて思いもしなかった。本当、シアの家族には感謝しかないな。
「残念ながら、確実に。母上は父上を愛していましたし、亡くなる直前まで母上の側にいましたが、父上が本当の父上ではないなんて母上からは聞いたこともありませんからね」
「……すみません、少し悲しいことを思い出させてしまいましたね」
「いえ、大丈夫です」
母上の事は悲しいけど、ユティさんとの会話で嬉しくなった部分の方が大きい。
けどユティさんはそうではないみたいで、何かを考え込んでいるみたいだった。
そうしているうちに、俺達はアークゲート家の入口まで戻ってくる。
階段を上り、左右に分かれる踊り場でユティさんは立ち止まった。
「今日はありがとうございました。あと、よければこの後にオーラにも会ってあげてください。あの子もノヴァさんと会うのを楽しみにしていましたから」
「あぁ、大丈夫です。最初からそのつもりでしたから」
「そうでしたか」
ユティさんはそう言うと、封筒を取り出した。
「当主様から聞いているかもしれませんが、こちらをどうぞ。改良された便箋です。すでに当主様に魔力を注入してもらっているので、いつでも使える筈です」
「はい、聞いています。ありがとうございます」
きっとこれまでと同じ、シンプルな白い便箋なんだろうと思ってそれを受け取る。今度こそ話は終わったとばかりにユティさんは頭を下げて、俺も同じように軽く頭を下げ返した。
「ではノヴァさん、また今度」
「はい、また今度」
そう言って別れて、ユティさんは戻るために右側の階段に、そして俺は反対の左側の階段に足をかけた。
103
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる