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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第79話 大切なのは、昔ではなく今
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使い慣れ始めた大きめのベッドの中で俺は苦笑いを浮かべる。その原因は腕の中にいる彼女だ。
シアと籍を入れてからそこまで時間は経っていない。だから毎夜一緒のベッドで眠っていても、そういったことはなかった。
しばらく二人きりというのを楽しみたかったのもあるし、シアを大切にしたかったからっていうのもある。だからお互いに口に出して同意しあったわけじゃないけど、寝るときは一定の距離があった。
そんな距離があっても毎晩が楽しみだったのは言うまでもないだろう。その日起こったこと、俺が感じたこと、シアが思ったこと。それらを交わすたびに心が跳ねた。
「えへへ……ノヴァくん……」
けどそんな距離を、今のシアは一気に詰めて来ていた。
まるで10年前のシアが急に成長して、そのまま俺の前に現れたみたいだった。俺の最愛の妻は実はお酒に弱くて、酔うと口調があの頃に戻るらしい。分かりやすくシアちゃんとでも呼ぶか。
そんなシアちゃんは今は満面の笑みで俺に抱き着いていて、頬を胸元に摺り寄せている。いつもの冷静で穏やかなシアからは想像もつかないような光景だ。
本当、シアの酒の回りが遅くて良かったと思う。もしも食堂でこの状況になっていたら、ターニャやジルさんに見られてかなり恥ずかしかっただろう。
「……これからは注意しないとな」
お酒を飲ませるのを控えさせようかなと思ったけど、思い出してみれば普段は酔わない体質だって言っていた。魔力によるものだったらしけど、それを切って急に飲んだからこんなことになっているのかもしれない。
とりあえず今後の心配はなくなったけど、問題は今か。
「んー? なんていったのぉ?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう? むふふー」
シアちゃんが両手両足に力を入れて、さらに密着してくる。俺の妻は小柄だけど、こうして密着すると意外と……。髪もサラサラだし、容姿も優れているし、スタイルも良いって、最強かな? いや、考えるまでもなくシアは最強だったわ。
「んふふー……ノヴァくんだー」
そう言って俺の腕の中でもぞもぞと動いていたシアちゃんだけど、不意にその動きがピタリと止まった。
どうしたのかと思って顔を覗き込もうとしたとき。
「ねえノヴァくん……ノヴァくんは、いましあわせ?」
「…………」
シアでも、シアちゃんでも、考えてくれていることは同じなんだなって思った。
「あぁ、幸せだよ。シアは?」
「んー? わたしもー」
楽しそうな声を腕の中から聞いて、抱きしめる腕に少しだけ力を入れる。遠くの壁に視線を向けて小さく呟いた。
「幸せだよ……10年前に出会った初恋の子とこうして結ばれたんだから。
……まあ、魔法も凄いし頭もいいしとっても可愛いし、たまに釣り合ってるのかなぁって不安になるけどね」
それはずっと感じていたこと。シアの事を知れば知るほど彼女の凄さに、彼女との差に不安になる。俺は彼女に相応しいのだろうかって、ちょっとしたときにほんの少しだけど心配になることだってある。
だってシアはきっとこの国どころか世界で一番の。
「ノヴァくんのおかげだよー」
「え?」
思考を舌足らずな言葉で途切れさせられて、思わず腕の中を見た。シアちゃんは顔をこっちに向けることなく、でも笑っているのがよく分かる雰囲気で続けた。
「ぜんぶぜんぶ、ノヴァくんがしてくれたからだよー。
だからわたしは頑張れたんだー。えへんっ」
「そっか……そうだったね」
前にもシアに同じようなことを言われたような気がする。疑ってはいなかったけど、本心なんだって改めて知ることが出来たのは嬉しかった。
「だから心配しなくていーよ。ノヴァくんはノヴァくんのままで……ノヴァ……さんの……ままでいいんです……」
「シア?」
幼さを感じさせる言葉づかいではなくなって、いつものシアの口調に戻ったけど、声は弱々しくて、ぼやけていて……ひょっとして、寝そう?
そう思って体を少しだけみじろぎさせれば、小さくシアは唸った。
「なにが……あったとしても……今のノヴァさんには……ん……私がいます……よ……」
「…………」
その言葉を最後に少しの間、沈黙。しばらくした後に聞こえてきたのは、聞き取るのも大変なくらいとても小さな寝息だった。
どうやらシアは一歩先に、夢の世界へと落ちていってしまったらしい。
彼女を起こさないように、けれど自分を抑えられなくて力をほんの少しだけ入れる。
シアはきっと、寝る直前に自分が何を言ったのか分かっていないだろう。でも俺には確かにシアの気持ちは届いていた。そんな風に思ってくれていたのが嬉しくて、涙が出そうなほどにありがたくて。
「……ありがとう……おやすみ、シア」
多分一生で一番幸せだって感じながら、俺もまたシアを追うように夢の世界へと旅立っていった。
ちなみに翌日、俺達はほぼ同時に目を覚まして、ほぼ同時に目を合わせた。体をぴったりと密着させていることと昨日の事を思い出して、シアは真っ赤になってしばらくベッドに座ってこちらの方を見なかった。
そんなシアを見たから俺も意識してしまって、同じように赤くなってシアの方を見ないようにしていた。顔が熱かったから、ひょっとしたらシア以上に赤くなっていたかもしれない。
ちょっと様子をみてみようとシアの方を見ると、シアも同じように俺の方を見るところだったので、お互いに恥ずかしげに笑い合ったくらいだ。
あとは……そうだね。この日を境にして、俺とシアがベッドで寝るときの距離がかなり近くなったのは、嬉しい事だったかな。
シアと籍を入れてからそこまで時間は経っていない。だから毎夜一緒のベッドで眠っていても、そういったことはなかった。
しばらく二人きりというのを楽しみたかったのもあるし、シアを大切にしたかったからっていうのもある。だからお互いに口に出して同意しあったわけじゃないけど、寝るときは一定の距離があった。
そんな距離があっても毎晩が楽しみだったのは言うまでもないだろう。その日起こったこと、俺が感じたこと、シアが思ったこと。それらを交わすたびに心が跳ねた。
「えへへ……ノヴァくん……」
けどそんな距離を、今のシアは一気に詰めて来ていた。
まるで10年前のシアが急に成長して、そのまま俺の前に現れたみたいだった。俺の最愛の妻は実はお酒に弱くて、酔うと口調があの頃に戻るらしい。分かりやすくシアちゃんとでも呼ぶか。
そんなシアちゃんは今は満面の笑みで俺に抱き着いていて、頬を胸元に摺り寄せている。いつもの冷静で穏やかなシアからは想像もつかないような光景だ。
本当、シアの酒の回りが遅くて良かったと思う。もしも食堂でこの状況になっていたら、ターニャやジルさんに見られてかなり恥ずかしかっただろう。
「……これからは注意しないとな」
お酒を飲ませるのを控えさせようかなと思ったけど、思い出してみれば普段は酔わない体質だって言っていた。魔力によるものだったらしけど、それを切って急に飲んだからこんなことになっているのかもしれない。
とりあえず今後の心配はなくなったけど、問題は今か。
「んー? なんていったのぉ?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう? むふふー」
シアちゃんが両手両足に力を入れて、さらに密着してくる。俺の妻は小柄だけど、こうして密着すると意外と……。髪もサラサラだし、容姿も優れているし、スタイルも良いって、最強かな? いや、考えるまでもなくシアは最強だったわ。
「んふふー……ノヴァくんだー」
そう言って俺の腕の中でもぞもぞと動いていたシアちゃんだけど、不意にその動きがピタリと止まった。
どうしたのかと思って顔を覗き込もうとしたとき。
「ねえノヴァくん……ノヴァくんは、いましあわせ?」
「…………」
シアでも、シアちゃんでも、考えてくれていることは同じなんだなって思った。
「あぁ、幸せだよ。シアは?」
「んー? わたしもー」
楽しそうな声を腕の中から聞いて、抱きしめる腕に少しだけ力を入れる。遠くの壁に視線を向けて小さく呟いた。
「幸せだよ……10年前に出会った初恋の子とこうして結ばれたんだから。
……まあ、魔法も凄いし頭もいいしとっても可愛いし、たまに釣り合ってるのかなぁって不安になるけどね」
それはずっと感じていたこと。シアの事を知れば知るほど彼女の凄さに、彼女との差に不安になる。俺は彼女に相応しいのだろうかって、ちょっとしたときにほんの少しだけど心配になることだってある。
だってシアはきっとこの国どころか世界で一番の。
「ノヴァくんのおかげだよー」
「え?」
思考を舌足らずな言葉で途切れさせられて、思わず腕の中を見た。シアちゃんは顔をこっちに向けることなく、でも笑っているのがよく分かる雰囲気で続けた。
「ぜんぶぜんぶ、ノヴァくんがしてくれたからだよー。
だからわたしは頑張れたんだー。えへんっ」
「そっか……そうだったね」
前にもシアに同じようなことを言われたような気がする。疑ってはいなかったけど、本心なんだって改めて知ることが出来たのは嬉しかった。
「だから心配しなくていーよ。ノヴァくんはノヴァくんのままで……ノヴァ……さんの……ままでいいんです……」
「シア?」
幼さを感じさせる言葉づかいではなくなって、いつものシアの口調に戻ったけど、声は弱々しくて、ぼやけていて……ひょっとして、寝そう?
そう思って体を少しだけみじろぎさせれば、小さくシアは唸った。
「なにが……あったとしても……今のノヴァさんには……ん……私がいます……よ……」
「…………」
その言葉を最後に少しの間、沈黙。しばらくした後に聞こえてきたのは、聞き取るのも大変なくらいとても小さな寝息だった。
どうやらシアは一歩先に、夢の世界へと落ちていってしまったらしい。
彼女を起こさないように、けれど自分を抑えられなくて力をほんの少しだけ入れる。
シアはきっと、寝る直前に自分が何を言ったのか分かっていないだろう。でも俺には確かにシアの気持ちは届いていた。そんな風に思ってくれていたのが嬉しくて、涙が出そうなほどにありがたくて。
「……ありがとう……おやすみ、シア」
多分一生で一番幸せだって感じながら、俺もまたシアを追うように夢の世界へと旅立っていった。
ちなみに翌日、俺達はほぼ同時に目を覚まして、ほぼ同時に目を合わせた。体をぴったりと密着させていることと昨日の事を思い出して、シアは真っ赤になってしばらくベッドに座ってこちらの方を見なかった。
そんなシアを見たから俺も意識してしまって、同じように赤くなってシアの方を見ないようにしていた。顔が熱かったから、ひょっとしたらシア以上に赤くなっていたかもしれない。
ちょっと様子をみてみようとシアの方を見ると、シアも同じように俺の方を見るところだったので、お互いに恥ずかしげに笑い合ったくらいだ。
あとは……そうだね。この日を境にして、俺とシアがベッドで寝るときの距離がかなり近くなったのは、嬉しい事だったかな。
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