宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
82 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第82話 シアとだけ来るお店

しおりを挟む
 正直に言おう。びっくりするほど美味しかった。料理に関しては文句のつけようがない。俺の屋敷のシェフもターニャがわざわざ街に足を運んで雇ってくれた人だけど、それとは方向性が違いながらも、明らかにこっちの方が腕が上だと思わせる味だった。
 別に味の細かい違いが分かるとは言わないけど、そんな俺でも分かるんだから本当に凄いお店なんだと思う。

 店の雰囲気や店員さんの印象も最高評価だ。オーロラちゃんやユティさんが案内してくれたカフェも凄かったけど、ここはそれと同じ、いやそれ以上と言える。

「いやぁ……美味しかったなぁ……」

「ふふっ……そう言って頂けると紹介した甲斐があります」

 俺とシアは四人掛けのテーブルに座っている。とはいえ対面ではなくて、隣同士だ。他の客の姿は見えない。かなり離れたところにあるのか、声が聞こえてくることもない。響くのは優雅な音楽だけだ。

「こんなお店を紹介してくれて、本当にありがとう」

「いえいえ……気に入って頂けたなら、ここでもノヴァさんの事を紹介しておきますね。
 私の知っている中でも一番良いお店だと思いますので、何かに使えると思います」

「ああ、ありがとう」

 本当にありがたいと思って辺りを見渡す。完全なる個室で他のお客さんの気配どころか店員の気配すらない。けど無人で寂しいっていうわけでもなくて、落ち着く穏やかさがあった。
 良いお店だと思って、俺は首を横に振った。

「いや、やっぱりいいよ」

「? なにか気になることでも?」

「ううん」

 心配そうにするシアに微笑みかける。

「シアが初めて案内してくれて、シアが一番良いって教えてくれたお店だからさ。
 だからこれから先、シア以外とは来ない。だから、ここはいいかなって」

「…………」

 正直な感想を告げると、シアは弾かれるように顔を背けてしまった。え? 何か気に障ることでも言ったかなと思ったけど、大きく息を吐いたシアは再び俺の方を向いた。

「ありがとうございます。じゃあここ以外のおすすめの場所、いっぱい教えますね。これから時間をかけて、沢山」

「あぁ、ありがとう」

 ありがたいと思って感謝の意を伝えたけど、シアはどこか不満げだ。ただ全体的に雰囲気は柔らかいし、満面の笑みではある。
 不思議に思いながら、尋ねてみようとしたときに。

「それじゃあノヴァさんの聞きたいことについて話しますか」

 話題を変えられてしまった。でもこっちはこっちでかなり興味のある内容だ。

「……コールレイクとの戦争について、だよね。聞いていいのかな?」

 なんとなく戦争についてシアは話したくない内容なのかなと勝手に思ってたけど。

「?」

 首を傾げたシアを見るに、別にそうでもないらしい。
 と思ったら、顎に指を置いて何かを考えはじめるシア。少し待った後に思いついたように頷いた。

「でも話すと長くなるので、ノヴァさんに質問して頂いて、私が答える形にしましょう」

「? それ何か変わるの?」

「うーん、しいて言うなら私のわがままみたいなものです」

「? まあ、全然構わないよ」

 それはわがままなのか? って思ったけど、シアが望んでいるなら構わない。
 でもそうなると、話の切り出しは俺からになる。ちょっとだけ考えて、俺は真っ先にこのことを聞いてみることにした。

「その……まずなんだけど、戦争で辛いことはなかったんだよね? 大切な人が巻き込まれたとか、大きな怪我をしたとか」

 何よりも大切なのはシアの事だ。過去の事とはいえ戦争は戦争。俺自身当然良い印象は持っていないし、その中に最愛の人が居たことを知っているからこそ心配になる。
 けどシアはいつもの様子で、穏やかに微笑んで返した。

「はい、私は大切な人を失っていませんし、大きな怪我もしていませんよ。
 そもそも私が参加したのは終結させた一回のみなので、ノヴァさんが不安になるようなことはないです。なので、そこは安心してください」

 本当に良かったと、まずは胸を撫で下ろした。それと同時にシアに感謝もする。こんな気持ちになるような戦争を、たった一回の参加で終わらせてくれたんだから。
 さて、そうなると次は何を質問するべきか。やっぱり無敗将軍のことかな?

「ダリアさんとは、戦場で会ったの?」

「はい。彼女とは一騎打ちをしました。その戦いの中で無力化して、勝利した形です」

「……前にユティさんが、シアは敵陣に歩いていったって言ってたけど……」

「はい。ユティの言う通り敵陣まで歩いて、ダリアさんと一騎打ちして勝って、そのまま休戦協定までこぎつけました」

「お、おぉ……」

 俺の妻……凄すぎないだろうか? いやシアは凄いっていうのはもちろん知ってることだけど、どれだけ凄いと思っても俺の想像を越えてくるというか……。
 はえー、シアすっごいんだなぁ、という感想しか出てこない。

「あ、ご存じだとは思いますけど、ダリアさんは殺めていませんからね?」

「うん、分かってるよ」

 気にするところはそこなんだって思って、クスリと笑って返す。無敗将軍が今もコールレイク帝国で手腕を振るっているのは有名なことだ。

 口を閉じたシアを見て考える。他に聞くことといえば。

「ダリアさんは大剣を使うって言ってたよね? シアはいつもの状態で戦ったの?」

「いつもの状態というのは何も持たないということですよね? でしたら、はいです」

「ダリアさんは強かった?」

「はい」

 無敗将軍が強いことは知っているけど、この国の英雄的立ち位置でもあるシアに言われると本当に強いんだなって再確認する。それに勝ったシアも凄いんだけどさ。

 質問も一段落。考えてみるけど、他に特に思いつくようなことはなかった。

「うん、大体わかったかな。ありがとう」

「いえいえ、こんなことでよければいくらでも。ところで、この後ですがどうしますか? さっき貰った劇団の劇でも見に行きますか?」

 シアに聞かれて、俺はポケットから丁寧に折りたたんだ紙を取り出した。時間を確認すれば、ちょっと時間はあるけど、少し待つだけで劇が見れそうだった。

「そうだね……せっかくだし、見ようか」

「そうしましょう」

「シアはこの『北の大地に咲く花』って、知ってる? 小説とかが元なのかな?」

 そう聞くと、シアは体を乗り出してくる。紙を差し出すと、じっとそれを見た。

「いえ……記憶にはないですね。ひょっとしたらユティなら何か知っているかもしれませんが」

「確かにユティさんなら知ってそう」

 博識である(勝手にそう思い込んでいるだけだけど)ユティさんなら、題名が違ったとしてもこの紙の絵だけで言い当てそうだ。

「それなら俺もシアも楽しめそうだね。行こうか」

「はい、楽しみです」

 二人して笑い合う。こうして行った先々で予定が勝手に決まっていくのも、悪くないと思えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...