宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第85話 初めての演劇鑑賞

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 劇団はシアから聞いた通り屋外にあって、結構簡単なつくりになっていた。演劇をする舞台と、多くの長椅子が特徴的だ。劇団は大人気なようで、開演まで時間はまだあるのに人も結構入っていて、空いている席を見つけるのも大変そうだ。

 シアと二人で見渡しながら探していると、二人分のスペースを見つけた。そちらへと歩いていって、座っている人に声をかける。

「すみません、ここ座ってもいいですか?」

 俺の声に奥に座っていた人はチラリと視線を向けた。フードを深く被っていて顔は細部までは伺い知れないけど、女性であることは分かった。いや、背格好からして少女か?

「はい、席を取っているわけではないので構いませんよ」

 やけにはっきりと耳に響く凛々しい声だなと思っていると、そんな彼女がじっと俺を見ていることに気づいた。いや、正確には俺の後ろにいるシアを見ている?
 振り返るとシアはいつものように穏やかな笑顔を浮かべているだけだ。

 もう一度少女の方を見てみると彼女はもう視線を俺達からは外していて、舞台の方に目をやっていた。
 気のせいかと思って、少女の隣に腰を下ろす。シアも俺の隣に座ったから、彼女に声をかけた。

「シアは、このロゼリア劇団の劇って見たことあるの?」

「いえ、ロゼリア劇団のものというよりも、劇そのものを見たことがないですね。あまり興味が無かったのもありますが、時間がなかったというのもあります。ノヴァさんはどうですか?」

「これまでの反応でなんとなく分かってると思うけど、俺もないよ。ちょっとだけ興味はあったけどね」

 面白い話は好きだけど、どうも長時間じっと下を向いて本を読むというのが合わなくてそこまで多くの本を読んできたわけじゃない。子供の頃なんて、ターニャから読み聞かされた本の方が鮮明に記憶に残っているくらいだ。剣術に関する本とかは別で、今も読んでいたりするんだけど。

 だから、そういった内容を実際に演じてくれる演劇というものは楽しみだ。

「もし面白かったら、他のも見ましょうね」

「あぁ、そうだね」

 ついさっきレイさんから言われたことを思い出したけど、あの時の彼は変装していたから言葉には出さなかった。ただ、シアと一緒に他の劇を見るというのも悪くなさそうだ。それが面白い劇であれ、そうでない劇であれ、誰と見るのかっていうのも大切なことだと思う。

 ふと視線を感じて左側を見ると、隣に座る少女と目が合った。

「あ……えっと……その……」

「?」

「お二人、仲が良いなと思いまして」

 おぉ、嬉しいことを言ってくれるなぁ、と思っていると、意外なことにシアが身を乗り出した。

「ありがとうございます。実は私達夫婦でして、王都でデートを楽しんでいるところなんです」

「そ、そうなんですね……」

 身を乗り出して言われたから気圧されたようにちょっとだけ引いている少女。シアは満足したように再び上半身を戻していった。
 それにしても、俺の前に急にシアが出てきたから少しだけ驚いた。特に最近のシアは予告なしに距離をほぼ0にするから、ドキドキする。
 こんなことを言うとシアに手玉に取られているみたいだけど、彼女は彼女でちょっとだけ天然なところがあって、この前もそれを自覚すると顔をちょっと赤くしていた。本当に可愛い。

『皆さん、そろそろ劇が始まります! こちらにご注目ください!』

 そんなことを考えていたら、舞台の上に立った人が劇の開始を宣言していた。そろそろ始まるらしい。初めて見る劇を見逃さないように見よう。



 ×××



「……面白かったなぁ」

 劇が終わり、役者さんたちが舞台でお辞儀をする姿を見て心の内を漏らした。実際、面白い話だった。

 戦争中の二つの国、それぞれ違う国に属する姫将軍と女将軍。戦火の中で出会い、最初は戦う二人だけど、その内二人はこの戦争を終わらせる決意をする。二人で協力して、戦争を終わらせて、その中で二人は深い友情で結ばれて、といったような話だった。

 凛々しい姫将軍と豪快な女将軍という一見対照的な性格の二人も良かったし、姫将軍がピンチの女将軍を逃すのも手に汗を握る展開だった。しっかりと盛り上げどころもあって、もう辺りも暗くなりかけているけど、そんな時間が経ったことを感じさせない面白さだった。

「ハラハラドキドキする展開もありましたが、最後はハッピーエンドで良かったですね」

「あぁ、本当に良かったよ」

 シアとも今見た演劇の感想を言い合う。彼女からしても、この劇は好評らしい。

「女将軍さんの豪快な中に繊細な思いやりがあるの、素晴らしかったです……」

「あぁ、分かる。特に部下や姫将軍に声をかけるときに、その人の事を思いやっ……て……」

 思わず同意をしてしまったけど、途中で気づいて言葉を止める。俺が同意をしていた相手は右隣りのシアではなく、左隣の少女だったからだ。

「分かりますか!? やっぱり人の上に立つ人はカリスマ性もそうですが、ああやって下々の者もきちんと思い遣れることが大切なのではないでしょうか!?」

 一瞬やってしまったと思ったけど、少女は興奮しているようで、続けて熱い熱を俺にぶつけてくる。

「う、うん、そうだね……そういった意味では、あの女将軍は強さもあったし、カリスマ性もあった。理想的な人かもしれないね!」

 もうどうにでもなれと途中から思って、初対面の少女の意見に強く同意した。俺自身、あの女将軍カッコいいなぁって思ったし。こういうのもまあいいだろう。

「姫将軍はどうでしたか? 初めは色々なものを抱えていて固く、冷たい印象でしたが、途中からは女将軍という初めて分かり合える相手を見つけ、彼女と友になりました」

 今度は右側のシアからの言葉に、彼女の方を見て頷く。

「うん、そっちも魅力的だったね。女将軍の方は結構完成されている感じだったけど、姫将軍の方はどんどん心の中が変わっていくみたいで、共感しやすかったと思うよ」

「人は誰しも心の中に何かを抱えているもの……ですがあのように誰か一人でも語り合える友というのも大切なのかもしれませんね」

「友……か」

 いつの間にか話に入ってきていた少女の言葉の一部を繰り返す。俺には友達というものがいないからよく分からないけど、もしいたらあんな感じになるのかな。あまり想像が沸かないけど。

「……ベル様、そろそろ」

 少女の隣にいる女性が声をかける。どうやら俺達が今まで話していた少女はベルという名前らしい。少女は女性の言葉にハッとして、俺達を見ながら目じりを下げた。自分が会話に入っていることに気づいて、申し訳なく思っているのだろうか。

「ご、ごめんなさい、私ったらつい……」

「いや、楽しい話が出来て良かったよ。ねえシア」

「はい、ついさっき見た劇の感想を言い合うのは楽しい事ですし、二人よりも三人の方が、話が広がりますからね」

 俺は勿論の事、シアだって気にしてはいない。むしろ楽しい時間を過ごせたから、そんな風に申し訳なく思ってほしくないくらいだ。
 そんな俺達の気持ちが通じたのか、ベルと呼ばれた少女はぎこちない笑みを浮かべて椅子から立ち上がる。同時に少女の隣にいた二人の女性も立ち上がった。全員同じようなローブに身を包んでいるものの、二人の女性はフードは被っていない。立ち振る舞いから使用人のようにも思えた。

「ありがとうございました。そう言って頂けて嬉しかったです。それでは私どもはこれで」

 そう言って軽くお辞儀をした少女はチラリとシアを一瞥して去っていった。
 一瞬だけシアの方に動いた黄緑色の瞳がやけに印象に残った。

 去っていく三人の背中を見ながら、小さくシアに話しかける。

「……どこかの貴族の娘さんかな?」

 フードを深く被っているのは姿を見られたくないからだろうし、お付きの二人の女性も態度は使用人だけど、それなりに戦えるようにも見えた。護衛と侍女を兼任しているなんてよくある話だし、なによりも少女の言動からは気品さが感じられた。

 年齢的にはオーロラちゃんよりは間違いなく上だけど、俺やシアよりは少し下のように思える。

「そうかもしれませんね」

 そういったシアの方を向けば、彼女はいつものように穏やかに微笑んでいた。

「それにしても、ノヴァさんが楽しめたようで良かったです。他の演劇もそのうち見ましょう。それこそオーラやユティを連れてくるのもいいかもしれませんね」

「オーロラちゃんは大はしゃぎそうだし、ユティさんはユティさんで色々なことを教えてくれそうだね」

 そう言って俺もシアも椅子から立ち上がる。劇団の人が長椅子を片付け始めているし、日ももう暮れかかっている。

「この後どうしますか? 時間を潰してどこかで夕食を食べてもいいですし、屋敷に戻ってゆっくりしてもいいかもしれません」

「シアは今日のデート、楽しかった?」

「それはもう。ノヴァさんと王都を回って、一緒に食事もして、演劇も見れましたから」

「そっか、俺も楽しかったよ。じゃあ屋敷に戻って、皆と話しながら夕食にしようか」

「そうしましょう……ですがその内、夕食は夕食でお連れしたいところがあるんです」

「え? どこどこ?」

「ノーザンプションなのですが、なかなか珍しい食材を使っているところでして、おススメなんですよ」

「そうなんだ。それは気になるし、今度ぜひ連れていってよ」

「はい、もちろんです」

 シアと笑いながら、他愛のない話をしながら、ゲートを開ける場所へと向かう。その途中で、ふと気になって一瞬だけ背後を振り返った。当然、さっきのベルと呼ばれた少女はもう居ない。

「ノヴァさん?」

「ああ、ごめんごめん」

 名前を呼ばれてシアに追いつく。そして再び他愛ない会話をしながら、さっきの事を思い返した。ベルと名乗った少女は、俺を見たり、話すときは特に何も感じなかった。

 けどシアを見るときは少し違和感があった。シアを警戒しているような、そんな感じが。

 夕日は完全に地平線の下に消えて、暗い夜が訪れていた。
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