宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第90話 彼は全てが上手くいっていた

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「ゼロード、ノヴァはどうした?」

「仕事の都合で少し遅れるらしいです。アークゲート家の当主様も同様のようで」

「ふむ……色々あるという事か……」

 父上に出来損ないの事を共有した俺は会場を見下ろす。親睦会の会場は南側の貴族で溢れているが、当然その中にあの出来損ないの姿はない。
 内心でほくそ笑んだ俺は、椅子から立ち上がった。そろそろ時間だ。

「父上、それでは私はあいさつ回りに行ってきます」

「ああ、行ってくるといい。すまないな、お前にこんな役割を任せることになって」

「いえ、むしろ最後までやらせて頂けて助かります。これまでノヴァに取られたらどうしようかと思っていましたから」

「……ゼロード」

 隣に立ってすまなそうな顔をするトラヴィスに取り繕ってそう告げる。
 あぁ、本当に良かったぜ、出来損ないにこの親睦会の準備まで持っていかれたら、計画が上手くいかねえからなぁ。
 俺はそのままトラヴィスや母上の元を離れてあいさつ回りに。適当に何人かの貴族達と挨拶を交わす。

 その途中で、俺の元に来る大柄な影があった。

「ゼロード、久しいな」

「……お久しぶりです」

 内心で必死に緊張を隠しながら、俺は努めて冷静に返答する。
 あぶねえあぶねえ。師匠に挨拶をするのは先にしておきたかったから、向こうから来てくれて助かったぜ。

「ギリアム師匠が参加するなんて珍しいですね」

「ああ、トラヴィス様から聞いたのだが、重大発表があるらしいからな」

「……そうですね、楽しみにしていただければと」

 くそっ、忌々しいったらありゃしねえ。トラヴィスに発表されたらすべてが終わる。その前になんとか決着をつけねえと。
 俺は拳を握り締めたまま少しだけギリアム師匠と話をして、別れた。フォルス家の剣術、および覇気の指南役でもあるギリアム師匠は鋭い人だ。俺の今後の動きに何か気づくかもしれねえ。
 
 「俺」であるうちに会話する予定だったが、上手くいってよかったぜ。

 機を見計らって会場を後にする。そして控えていた変身魔法の使い手と交代した。あとはこいつと声をかけた貴族仲間の何人かが何とかしてくれるだろう。これで俺が会場に居たってことは、貴族達が証明してくれる。

 内心でほくそ笑んだ俺は物音を立てないように裏手に回り込んで、会場の様子を見た。

 俺と交代した奴は、前に打ち合わせをした奴と熱が入った話し合いを演じている。あの様子なら他の貴族がわざわざ話しかけに来ることもないだろう。そしてその奥、そんな様子を眺めていたトラヴィスが従者から耳打ちされて席を立った。それを見て俺は左手に剣を持って強く握る。

「……き……たか……」

 緊張で少し声と体が震えやがる。だが問題はない。この親睦会は全て俺が計画したものだ。何もかもが順調に動くに決まってやがる。
 主催の俺が話していれば、きっと父上はわざわざ俺を呼ぶことなく自分で出来損ないを迎えに行くはずだ。きっとそのことを母上にも伝えている筈。だから、それでいい。

 出来損ないを迎えに行く途中でトラヴィスが死に、それを出来損ないが見つけようが他の誰かが見つけようが印象は最悪だ。ただでさえ外部的には評価が最底辺な出来損ないの評価は二度と上がることはねえ。

 口元に笑みを張り付けて、俺はトラヴィスの元へ向かう。煌びやかで騒々しい会場とは違って、普段使われていないフォルス家の別邸だからか、廊下は暗くて静かだ。
 裏口へと向かうトラヴィスの後をつけて、会場からも裏口からもちょうどいいくらい離れた廊下を歩き終わる前に、俺はこそこそ隠れるのを辞めて姿を現した。

「父上、どこに行くのですか?」

 声をかければ、父上は訝しげな表情で振り返った。

「ゼロード? 会場で話していたが、もういいのか?」

「ええ、少し白熱しましたが、良い結論が出ました」

 くくくっ、馬鹿な野郎だ。何も知らず、ここで死ぬなんて思っても見ないって顔だな。

「そうか。なら一緒にノヴァを迎えに行くか」

「ええ、そうです……ねっ!」

 近づいて剣を鞘から抜いて、勢い良く突き出す。トラヴィスの胴体を狙った渾身の突きは、咄嗟に動いたトラヴィスが抜いた剣に逸らされて、空を突いた。
 流石は父上。身のこなしは衰えてないってか? だがなぁ!

「ぐっ! ゼロード……お前なにを!?」

「そんな儀礼剣で防げると思うなぁ!!」

 フォルス家の次期当主を決める場なら、儀礼剣の受け渡しがある筈だ。戦う用の物じゃなく、祭事用の剣に強度なんざあるわけがねえ。しかもトラヴィスは驚いて覇気の発動が上手く出来てもいねえ。奇襲をかけた俺が圧倒的有利。この状況なら、勝てねえほうが難しい!

 力を込めて、儀礼剣を弾く。あとはがら空きのトラヴィスを切り裂けば、全てが元に戻る。むしろもっと良くなる。これで、終わりだぁ!!

 力の限り、トラヴィスに剣を振り下ろす。勝った、とそう確信した。笑みが止まらなかった。

 甲高い金属音が響き渡るまでは。

「なんで……」

 どうしてだ。どうして……

「なんでお前がここに居やがる! 出来損ない!」

 どうしてあの忌々しい出来損ないが目の前にいるのか、俺の剣を止めているのかが分からなくて、俺は叫び声を上げた。
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