宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第99話 光は最初から、ない

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 森の中を行く当てもなく走り抜ける。後ろからは人が来るような気配はねえ。だが止まっている時間もねえ。きっとそのうち、俺を捕まえるために兵が派遣される筈だ。

「くそくそくそくそっ!!」

 失敗しやがった。あの女、全部分かってやがった。しかも最後の出来損ないのあの力……全部が全部、上手くいきやしねえ!
 どうする? トラヴィスを狙ったんだ、もうこの国にはいられねえ。ナインロッドに逃げるか? いや、近すぎる……それなら別の国にでも……くそっ! なんで俺がこんなことになってるんだよ!

 必死で足を動かして木々の間を縫って駆け抜ける。時間はねえ。少しでも早くこの国から出るために、どっかで馬車の荷台にでも紛れて遠くに行かねえと。

 そう思いながら駆けて駆けて駆けて、やや開けた場所に出たとき。

「っ!?」

 目の前に現れた人影を見て、俺は足を止めた。時間は夜でここは人の手が入っていない場所だ。こんなところに人がいるわけがねえ。しかもわざわざ俺の目の前に、狙ったようにこのタイミングで現れるなんて偶然じゃねえ。

「なんだ……てめぇ……」

 行く手を遮ったのは、全身を黒のローブで覆った一人の女。短い黒髪に灰色の瞳がまっすぐに俺を見つめる。その闇夜に溶けるための姿と隙のない様子から、こいつがなんなのか合点がいった。

「……『影』の使いか……ミスったから消しに来たってか!?」

 初めて接触したときから気に食わねえ連中だとは思っていたが……。
 報復だが口止めだか知らねえが、そのために寄こしたのが女ひとりっていうのも気に入らねえ。その程度の戦力で俺を何とかできると思っているなら、大間違いだぜ。

 懐からやや長めの短剣を取り出して構える。いつも使っていた剣は出来損ないに折られたが、念のために予備を持っていて助かった。全力は発揮できねえが、刃物があるなら覇気は十分に使えるはずだ。
 柄を強く握りしめて、覇気を発動させる。今まで感じたものとは格が違う力が体の奥底から溢れてきた。

 体を包む白い光も、間違いなく濃くなっている。
 今の俺は、今までの俺よりも強い。

「くくくっ……行ける……いけるぞ……」

 あの出来損ないとの一戦で俺の覇気は強くなったらしい。この力があればどこの国でも自分を売り込める。だからいつか、出来損ないやあの女にも復讐できる。そうだ……そうだぜ……最後に勝っていれば勝ちなんだ。何度負けても気にすることはねえ。

『全力を尽くして』勝てばいいんだ。

「そこをどけ、女ぁ!」

 地面を蹴って一気に女に肉薄。その胴体目がけて短剣を突き出す。

「っ!?」

 渾身の突きは体を捉える寸前で交差させた短剣に当たり防がれるが、俺の方が力が勝ったようで女を数歩後退させた。
 ほう? おもしれえ。ギリギリで防ぎやがったか。得物は両手で扱う短剣か? 悪くはねえな。

「ほらほらっ! 必死で防がないと切り刻まれるぜ!?」

 突き、振り下ろし、振り上げ、その全てを女は防ぐが、反撃してくるような様子は一切ない。状況は圧倒的に俺の方が有利。

 行ける。この戦いは完全に俺が主導権を握っている。この女もそれなりの手練れなんだろう。だが覇気が強くなった俺にとっては敵じゃねえ。力を十分に発揮できない短剣でも、勝利は揺るがねえくらいには。
 こいつを無力化して、『影』とやらの情報を得て恩を売るのもありかもしれねえ。殺さない程度に痛めつけて服従でもさせるか、未来が少しずつ明るくなってきたな。

「……なるほど、これがフォルス家の覇気。確かに強い」

「あ?」

 急に言葉を発した女は、俺におされている状態だって言うのに表情一つ変えず呟きやがった。暗殺者らしく無表情なのかもしれねえが、そんな奴の顔が苦痛に染まるのも悪くねえな。

「ですが、貴方だけというのも不公平です」

「てめぇ……なに……を……」

 感じたのは、忌々しい気持ちだった。痛いとか辛いとかじゃねえ。

 気分が悪い。

 あの女の時ほど強くはねえが、それでも同じ方向性の不快さだった。

「……解放しても私の気分は一向によくならないですが、これで条件は同じです」

「て……めぇ……」

 ほんの少し女の動きが良く、一方で気持ち悪さにより俺の動きは悪くなるが、それでもまだ俺の方が有利だ。だがそれ以前に俺は大きな勘違いをしていたんじゃないかと思い始めていた。

 この感覚、こいつまさか。

「てめぇ……まさかとは思うが……」

「はい、私の名前はシスティ・アークゲートです」

「アーク……ゲート……」

 頭にこびりつくほど聞いた家名。忌々しくもあるし憎々しさもあるが、それ以上に俺が驚いたのはどうしてアークゲートがここにいるかだ。俺が騒ぎを起こしたのはついさっき。なのに今ここにアークゲートが居るのは説明がつかねえ。

 いや……まさか。

「そういうことです。全ては当主様の手のひらの上」

 背中から感じる重圧に、俺の中での不快感が爆発的に増加する。咄嗟に目の前の女を弾いて距離を取り、後ろを振り向いた。
 ゆっくりと、こっちに歩いてくる影が一つ。これもまた女だ。

「てめぇ……もか……?」

 月の明かりに照らされたのはとても戦闘が出来るようには見えねえ姿。長いローブに大人しそうな雰囲気は、少なくともさっきまで戦っていた女のものとはまるで違う。それこそ、どっかの部屋で本を読んでいそうな根暗な雰囲気だ。
 だが、こいつはただ者じゃないと俺の勘が告げてやがる。

「ええ、そうですよ」

 そう言った女はゆっくりと俺の方へと歩いてくる。

「私はユースティティア・アークゲート」

 あぁ、くそっ。全部……全部あの女の想定内だっていうのか。ふざけやがって。こんな……こんな……。

「アークゲートの執行者です。あぁ、もちろんそこのシスティもそうですよ」

「殺す! お前もあの女も、どっちも殺してやる!!」

「あぁ、そうでしたね」

 俺の言葉を全く無視して、まるで路傍の石でも見るような目で自らを執行者と名乗った女は言葉を発しやがった。

「あなたにとっては死神かもしれませんね、負け犬、ゼロード・フォルス」

「てめぇえええええ!!」

 短剣を片手に俺は地面を蹴った。そうすることでしか、明るい未来に行くことは出来なかったからだ。
 例えその未来の目の前に明るさすら塗りつぶす影があったとしても、俺はその向こうの光を掴みに行った。
 そこに光が無くても、掴みに行くしかなかった。
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