宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第100話 ユースティティアは愚か者を終わらせる

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 大きな音を立てて地面に倒れる大柄の男性、ゼロード・フォルス。全身を様々な魔法に打ち抜かれ、得物である短剣は少し離れたところに転がっています。
 一方で私とシスティはやや怪我はあるもののまだまだ戦える余裕があり、どちらが勝者なのかは一目瞭然でした。

「く……そがっ……」

 口汚く呟いたゼロード・フォルスを見て向けていた手を下ろせば、先ほどまでの戦いが頭を過ぎります。
 当主様から事前に「ゼロード・フォルスの覇気は強くなっている。気を付けるように」との連絡は受けていましたが、こうして実際に戦ってみるとその強さがよく分かりました。

 私とシスティ……アークゲートの中でも異次元の当主様や、麒麟児であるオーラを除けば5本の指には入るであろう私達二人がかりでも余裕とはいきませんでした。
 しかもゼロードの武器は短剣で、いつも使いなれている剣ではない。もしも万全の状態ならば、私たち二人なら勝てたと思いますが、システィ一人では殺されていたでしょう。

 ゆっくりと近づけば彼の眼球が素早く動き、私を見上げました。しかしボロボロの体にはもう力が入らないのか、動く様子はありません。

「覚えたからな……その顔っ! 必ず……必ず……」

 そんな状態でも殺気を放ってくるのは流石とも言うべきか。
 ですが、私は彼に対して恐れはもちろん、どんな気持ちも抱きません。

「……システィ」

「はっ!」

 短く返事をしたシスティの右腕は素早く動き、ゼロード・フォルスの両手を拘束します。

「やめろっ! はなせ!」

 口ではどれだけ言えても、体は動かないので大人しく拘束されるゼロード。彼に出来るのは体を少しだけよじるくらい。

「必ず! 必ず復讐してやる!」

「黙りなさい。そもそもあなたに次なんてありません」

 システィが鋭い言葉を浴びせますが、ゼロードは笑ったまま。

「うるせえ! お前も、てめぇも! てめえらの大事なもんも、全部全部ぶっ壊してやる! ぶっ殺してやるからなぁ!!」

「ゼロード・フォルス」

 この期に及んでまだうるさい声を出し続ける男を冷たく見下ろします。この状況で次があると思えるなんて、おめでたい頭です。ですがこれ以上は聞くに堪えませんね。

「何があろうとあなたはもう詰みです。私達の手で引き渡し、フォルス家とアークゲート家の当主の命を狙った罪で極刑でしょう」

「……っ!」

 冷静に返せば、男は何も言わずに睨み返してきます。
 この期に及んでも自分の立場がまだ分かっていない、真の愚か者。

 ――あぁ、本当にくだらない

「それに、仮に奇跡が起きて次があったとして、あなたに何が出来ますか?
 当主様に惨敗したあなたが、ノヴァさんに敗北したあなたが……次は勝てるとでも?
 その程度で何かが変えられるとでも?」

 ――こんな男に、あの人は苦しめられてきたのか

 怒りを愚か者に抱き、右手を彼に向け

「お前には何もできない。自分の無力と過去を悔やんで、死んでいきなさい」

 告別の言葉と共に、意識を刈り取る魔法を発射。衝撃に白目を向いた愚か者は顔面から地面に落ちました。今この瞬間をもって、ゼロード・フォルスという男が終わったのは明白でした。

「……本当に、ノヴァさんと兄弟だとは信じられませんね」

 穏やかな笑みを浮かべてくれた義理の弟を思い出し、二人のあまりの違いにため息を吐きました。システィは手慣れた動きで愚か者の頭に袋を被せ、担ぎます。本当、どこにそんな力があるのやら。

「ユースティティア様、お疲れさまでした。加えてご助力、心より感謝します」

「いえ、流石に今回は私達で協力して正解でした。人格は救いようがないほど酷いものでしたが、覇気は一級品でしたね」

 この状態でもそれなりに苦戦はしたのに、剣を持った状態の愚か者をノヴァさんは倒したとか。細かいところは聞く時間がありませんでしたが、どんな感じだったのか近いうちにオーラにでも話してもらいましょうか。

 ですがその前に。

「システィ・アークゲート」

「はっ!」

 私はこの機会にシスティに聞いておくことにした。

「あなたはノヴァさんについてどう思っていますか?」

「…………」

 システィは至極真面目な表情で、かつまっすぐに私を見つめ返しました。すぐに返答しないので、考えているのでしょう。

「……『当主様に相応しいお方』と考えます。私の忠誠はユースティティア様に、さらにはあなた様が忠誠を捧げる当主様にのみ注がれています。当主様が選んだ……いえ、共に歩まれたいと思われたお方であれば、これ以上はない素晴らしい方でしょう」

「……はぁ」

 自分で聞いておいてなのですが、頭を抱えました。私も当主様には忠誠を捧げてはいますが、システィのは度を越えています。まあ、私が姉であり、当主をあの子と思う気持ちがないのなら同じように思っていたかもしれませんが。

 ただ、この答えがアークゲート家に属する執行者であり、私や当主様に忠誠を捧げるシスティとしての言葉なのは明白。それも重要ですが、彼女自身の考えも聞きましょう。

「では、システィとしてはどうですか?」

 なぜ同じような形で二回聞かなくてはならないのかと思いましたが、システィは私の意図を読み取ってくれたようで、大きく頷きます。

「はい、正直に申し上げて『悪くはない』です。お会いしたことは一度ですがとても礼儀正しい方ですし、集めた情報からは好感が持てます。当主様は勿論、オーロラ様にも好かれていますし、ユースティティア様の本の整理を手伝ってくださりますから」

「……私の事は言わないでください」

 思わぬところから心にぐさりと突き刺さったので、ちょっと視線を外させてもらいました。別にやましいことがあるわけではないです。本当ですよ?

「まあ、よく分かりました。どちらの場合でもシスティはノヴァさんを好意的に見ているという事ですね」

「いえ、悪くはないと言いました」

「…………」

 たまに思うのですが、教育を間違えたでしょうか。昔は人懐っこい妹のような人物だったのに、かなりの堅物になってしまいました。いったい誰に似たのやら……。

「しかし」とシスティは不意に声を上げます。

「全員が全員、私と同じようなことを思っているわけではないでしょう。私の母上はともかく、ティアラ叔母様やアイギス様、レイン様は……いえ、後者二人は分かりませんが」

「それはどちらかというとノヴァさんではなくて当主様を良く思わない人たちだとは思いますが」

「同じことでしょう。あくまで私視点ですが、外部から見れば当主様も旦那様も一括りとして見られるかと」

「……そうですね」

 頭に三人の姿が順々に過ぎります。
 母を支え続けた叔母と、今はもう亡き栄光の側にいた叔母の二人の娘の姿。

「……いつまでも長居は無用でしょう。行きましょう」

「はっ!」

 私の不自然な話の切り上げにもシスティは訝しむ顔一つせずに返答してくれます。
 私達はそれ以上一族の話をすることもなく、夜の闇へと消えていきました。
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