宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第106話 次期当主就任式

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「皆さま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 壇上で俺の斜め前に立った父上は声高に宣言する。

「先日はお集まりいただいたにも関わらず、ゼロード・フォルスの一件で多大なるご迷惑をおかけ致しました。この場で改めてお詫び申し上げます」

 親睦会の時もその後も手紙でゼロードの一件については他の貴族達に謝罪していることは父上から聞いている。それに対して、ほとんどの貴族はむしろこちらを気遣うような声や返信をくれたこともだ。
 それでもこの場でもう一度頭を下げるのは筋を通すためだろう。父上とほとんど同じタイミングで、俺も頭を下げた。

 しばらくして頭を上げた父上は、気合を入れるように大きく息を吐いて、そして吸う。

「さて早速本題を。本日はフォルス家の次期当主を正式に発表する場となります。
 次期当主はこちらにいるノヴァ・フォルスとなりました」

 父上に手で指し示された俺は一歩前に出て、軽くだけど頭を下げる。
 会場はざわつくものの、思った以上に騒がしくはならなかった。頭を上げて目線だけを動かしてみれば、会場の人は難しそうな顔をして俺達を見ている。笑顔を浮かべている人はいない。
 いや、満面の笑みを浮かべているシアはいるけど。

「本来、ゼロードの一件がなければ親睦会の時にノヴァの次期当主就任を発表する筈でした。
 それが遅れてしまったこと、重ねてお詫び申し上げます」

 父上の言葉に会場のざわつきが大きくなる。
 それもそうだろう。父上の言うことをちょっと考えてみれば、ゼロードの一件があったから次期当主が俺になったのではなくて、一件がなくても俺だった、ということが分かるからだ。

「元来、フォルス家の当主とは力を持つ者がなるもの。そういう決まりです。
 ノヴァは三男でありながら、力のみならず人としての器も相応しいと判断し、次期当主に指名しました」

『覇気』という言葉はあえて出さずに、力という言葉で表現したのは父上なりの思いやりだろうか。
 けどそれを聞き逃す貴族達じゃない。すっと、手が上がった。

「何か?」

 父上が声をかけると、おずおずとその貴族は口を開いた。

「進行を妨げて申し訳ない……ただその……記憶が正しければノヴァ殿は覇気が使えなかったような気がするのですが……」

 当然の質問だろう。それを読んでいたのか、父上はしっかりと頷いた。

「確かにおっしゃる通りです。彼は覇気は使えない。けれど覇気だけが力ではない。
 覇気を使えるものが当主になるのではなく、力ある者が当主になる、それがフォルス家の決まりです」

「…………」

 父上の言葉に、質問を投げかけた貴族はどこか納得しない様子。周りの貴族も訝しむような表情を浮かべている。けれどそんな会場に鈴を転がしたような声が響いた。

「なるほど、素晴らしい考えです」

 それは独り言のような、小さな呟きだった。誰かに語り掛けたわけでもないのに、シアの言葉は全員の耳にすっと入ってきた。質問をした貴族も、他の貴族もチラリとシアを一瞥して、すぐに視線を父上に戻していた。

「……皆様の不安もごもっともでしょう。ですがこのノヴァの力が他の候補者よりも優れていたのは私がこの目で確認しました。そこは安心して頂きたい」

 父上の言葉を聞いて、再び会場がざわつき始める。

「覇気じゃない力?」

「そんなものがあるのか? だがあの言い方だと、覇気を越える力のように思えるが……」

「レティシア様が力を貸しているとかではないか? アークゲートの魔法ならば覇気にも対抗できるであろう」

「だが、それは……いや……」

「けれどノヴァ殿が一族でもっとも強いのならば、上に立つ資格としては十分すぎるか」

「そもそも今回は発表式で、次期当主の指名は我らが口出しをすることでもないしな」

 各々好き勝手に呟いたり、小声で会話を試みる貴族達。そんな彼らを父上はあえて好きにさせているように思えた。

 彼らが話をしたり呟くにつれて、俺に向く視線の数が少しずつ増える。見定めようとしている視線、訝しむような視線、不安そうな視線。どれもあまり良くないもので、期待というものは無さそうに思えた。
 それも当然か。急に三男の俺が次期当主になったら、どうなっているんだって思うだろうし、今のタイミングでのシアの発言は、人によっては彼女が何かしたのかと思うだろう。

 もちろんシアが絡んでいるのは間違いないし、俺一人の力だなんて口が裂けても言えないから事実なんだけど。

 ある程度好きに話させたところで、父上は大きな声で発表を続けた。

「今回は顔見せですが、これから当主としての業務をノヴァへと引き継いでいく予定です。
 至らないところはあるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 そこまで話してから、父上に「ノヴァ」と声をかけられる。俺も大きく息を吸った。

「ただいまご紹介にあずかりました、ノヴァ・フォルスです。
 まだまだ若輩ですが、しっかりとフォルス家を率いて、やがては最高のフォルス家としてみせます。よろしくお願いします」

 就任の挨拶は簡素にまとめたけど、どうしても入れたい文言があった。それが最高のフォルス家って言葉だ。シアがアークゲート家の歴代で最高の当主って言われているから、それに負けないくらいっていう気持ちだけど。

 深く頭を下げても、ほんの少しの間だけ沈黙が会場を支配した。流石に今日ぽっと出の俺が歓迎される筈もない。

 けどそう思ったときに聞こえたのは、拍手だった。やや軽く、けれど高い拍手の音を聞いて、きっとシアが拍手をしてくれているのだと分かった。それだけで嬉しい気持ちになった瞬間。

 もう一つ、重々しい拍手の音が響いた。シアだけじゃなくて、もう一人俺を拍手してくれている人がいる。その拍手は伝播し、斜め前の父上からも拍手が聞こえたかと思えば、会場の拍手の音は次第に大きくなっていった。

 顔を上げてみれば、その場にいる多くの貴族が拍手をしている。全員表情は固いのは仕方がない事だろう。これからの関わりの中で見極めてもらえればと思う。

 ――あ

 会場に視線を渡らせているところで、ある人物が目に入った。確か前回の親睦会で見送りの時にじっと俺を見ていた黒髪の男性だ。その隣には白髪交じりの男性もいるから、間違いない。
 彼はじっと俺を見つつも、無表情ながら負の感情は読み取れないし、拍手はしっかりと力が籠っていた。きっと彼が、シアに続いて拍手をしてくれたんだと確信した。

 あんまりじっと見るのもどうかと思って、視線を外す。この後も特に何もなく、通例として儀礼剣を父上から受け取ることで発表式は終わる。

 俺と父上は壇上を降りて裏に引っ込み、これで貴族達とは別れることになる。
 けど終わった後も、あの黒髪の男性の事がどこか頭に残っていた。
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