宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
131 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第131話 気楽に話し合える貴族当主

しおりを挟む
 俺がフォルス家の当主になってから、それなりに月日が流れた。時間がかかったけど、南側への貴族への挨拶は全員分が終わったし、特に大きな問題もなかった。 
 まあしいて言うなら最後の方に挨拶に行った貴族の人がちょっと落ち込んでいたり、やや不満そうではあったけど、こればっかりは仕方ないということで許してほしい。 
  
 ラプラスさんなんかは、優先順位に基づいた訪問だから気にしなくていいって言ってくれたけど、最後の方はフォルス家当主としての仕事がちょっと忙しい時期とも重なって遅くなったりしたから完全に俺の実力不足だろう。 
 ローエンさんを初めとする人に支えられてようやく一人前だと強く思ったよ。 
  
 そしてそんな日常の中のある日の事。俺は自分の執務室の机ではなく、長椅子に座ってアランさんと対面していた。 
 どの貴族よりも早くサイモン家を訪れた日以来、俺とアランさんは仲良くしている。今では俺の屋敷にアランさんが話をしに来ることも珍しくなくなったくらいだ。 
 時間が空いているときには俺がサイモン家に足を運ぶことだってあった。といっても、こっちは本当にたまにだったけど。 
  
「本当……これまでが暇すぎたことも相まって、人に助けられてばかりだよ。まだまだだなって思うことも多いね」 
  
 苦笑いしてそう話すと、目の前で同じように長椅子に座っているアランさんは首を横に振った。 
  
「そのようなことは……それに多くの人がノヴァさんの助けになるのも、ノヴァさんの人徳あっての事だと思います。私も当主として見習わないといけないと思っているくらいです」 
  
「いや、アランさんなら俺よりももっと上手く出来ると思うよ」 
  
 正直に告げると、アランさんは「ご謙遜を」と言ってコーヒーを口に運ぶ。 
 そう、アランさんはつい最近サイモン家の次期当主から当主になった。彼の父でもあり前当主のルートヴィヒさんいわく。 
  
『近いうちに譲るつもりでしたが、ノヴァ殿がアランをお目にかけて頂き、決心しました』 
  
 とのこと。今では隠居しているらしい。アランさんはこれまでのサイモン家の負債を全部押し付けていったと文句を言っていたけど、それでも隠居先でゆっくりしていて欲しい、とも言っていた。 
 個人的にはとても早い当主交代だなって思ったけど、本人たちが納得しているならいいんじゃないだろうか。 
  
 そんな事を思っていると、アランさんはチラリと俺を見た。 
  
「そういえば南側の貴族への挨拶は全てなされたとか。いかがでしたか?」 
  
「おおむね順調だったよ。影響力の大きな貴族から挨拶したけど、いずれも好意的に受け入れてはくれたし」 
  
 反発があるかと思ったけど、貴族たちの間でも影響力が大きい貴族達は意外と友好的だった。むしろ困ったことがあったら何でも相談してくれと言われることだってあったくらいだ。 
 まあ、その原因が何であるかも、当然分かっている。 
  
「ノヴァさんと奥様の関係を見る限り、南側がこれから先栄えるのは確定しているも同じ。であれば、その先頭に立つノヴァさんに良い顔をしたい、という貴族たちの気持ちも分かります」 
  
 同じことを思っているアランさんが同意してくれる。本当、シアの影響力はどこにでもあって、ここでも彼女に助けられていることを実感する。 
 もしも俺の妻がシアでなければ、貴族達への挨拶はここまで上手くはいかなかっただろう。 
  
「それに実際に会ったことでノヴァさんの人柄に触れたというのもあると思います。 
 重ねて感謝を。我がサイモン家に最初に訪問して頂き、ありがとうございます」 
  
「やめてよアランさん、俺はただ思った通りに行動しただけだって」 
  
 南側ではやや下位に位置していたサイモン家。けど俺とアランさんの仲が良くなるや否や、他の貴族達からの見る目が変わったらしい。アランさんも他の貴族の当主と会うことはあるらしいけど、下手に出られることも多くて困惑するとか。 
  
 ちなみにサイモン家だけど、ルートヴィヒさんから引き継いだ負債があるものの、アランさんはかなり優秀な当主らしく、その負債を減らしていっているらしい。 
 彼から話を聞く限り、向こう一年以内にはある程度立て直しが出来る見通しだとか。 
  
 アランさんのことを凄いなと思ってそのことを伝えると、ノヴァさんのお陰ですと返されたり、いやいやそんなことはないよ、と言ったり……みたいな謙遜の往来が行われたけど、結局お互いに小さく笑ったのも記憶に残っている。 
  
 ターニャに出してもらったコーヒーを飲んでいると、アランさんが口を開いた。 
  
「最近はお忙しそうですが、奥様の実家には顔を出しているのですか?」 
  
 カップをソーサーにおいて、答えた。 
  
「それが、なかなか行けていないんだよね。今度用事で王都に行くから、そのついでに行こうかな、とは思っているよ」 
  
 ナタさんに近いうちに協力して欲しいことがあるから、研究所に顔を出してほしいと言われていた。その予定は数日後に入れてある。何に協力すればいいのか詳しくは聞いていないけど、彼女には色々と借りがある。相当な無理難題じゃなければ、喜んで手を貸そうと考えている。 
  
 けれどアランさんは、首を傾げた。 
  
「王都を経由してのノーザンプションですか? 二ヶ所寄るとなるとやや遠い……ああ、そうでしたね。ノヴァさんにはゲートの魔法がありましたか」 
  
「そうそう」 
  
 アランさんにはゲートの機器について共有しているからそのことに思い至ったみたい。頷いて返した。 
 するとアランさんは手を重ねて、何かを考えるようなそぶりをする。しばらくして、ゆっくりと口を開いた。 
  
「その……奥様とはいかがですか?」 
  
「え? シアのこと?」 
  
 ちょっと驚いたけど、別に隠すことでもないので正直に話そうと口を開いた。 
  
「いつも通り順調だよ。お互いに仕事が忙しかったりするし、シアが帰ってくるのも遅かったりするけど、夜は夜で時間を取っているし、休日は予定を合わせてゆっくりしたりするしね。日々を頑張れるのは本当にシアのお陰だよ」 
  
 つい饒舌になってしまったけど、アランさんは小さく頷いた。 
  
「お互いがお互いを支えるのみならず、力になってくれる、というのは素晴らしい関係ですね……すみません、このようなことを聞いてしまって」 
  
「いや、別にいいけど……」 
  
 ただ、なぜ急にとは思った。だから首を傾げていると、そんな心の声が届いたのかアランさんは困った雰囲気を出した。 
  
「すみません、自分の周りに貴族の夫婦という関係の方がノヴァさんしかいなくて、それで気になったと言いますか……結婚した男女がどのようなものなのか、よく知らないので聞いてしまいました」 
  
「……ルートヴィヒさ――」 
  
 父と母の関係が参考になるのではないか? そんなことを言いかけて口を噤んだ。アランさんの母親に会ったことはなかった。もしも俺と同じで幼い頃に死別している場合、彼を傷つけるかもしれない。そう思ったけど、遅かったようだった。 
  
「父と母の関係はきっと違うと言いますか……いえ、それ以外の人の話を聞きたかったんです。 
 私もサイモン家の当主として、いつまでも未婚というわけにはいきませんからね」 
  
 最後は無理やり話を変えるような感じだった。俺にも色々あるように、きっとアランさんにも何か重い過去があるのではないか。そんなことを、ふと思った。 
 少し暗くなる雰囲気。それを何とかしようと思ったとき、一人の女性の顔が頭を過ぎった。 
  
「アランさんは、ワイルダー家を知ってる?」 
  
「? はい、もちろん。魔法の便箋を手掛けたナターシャ様の実家ですよね。以前その便箋についてお礼を伝えたので。ワイルダー家を訪問したことはありませんが……」 
  
 律義な性格のアランさんは既にナタさんと交流があったらしい。それなら話は早い。 
  
「ナタさんにはお姉さんがいて、セシリアさんって言うんだ。その……俺の兄であったゼロードの元婚約者でね……彼女には兄がとても悪い事をしたと思ってる。 
 ゼロードの一件で変な噂もあるみたいだけど、セシリアさんは本当に良い人なんだ。ナタさんとの関わりの中でもし会うことがあったら仲良くしてくれると嬉しい」 
  
 セシリアさんの父親であるハインズさんとは、セシリアさんに良い人を紹介する約束をしている。ただ俺の一存だけで二人をくっつけるようなことはしたくなかったから、遠回しにセシリアさんの事を話してみた。俺とシアの経験から、こういったことはお互いの気持ちが大切だと思う。 
  
 だからアランさんとセシリアさんが結ばれるとしたらそれは嬉しいことだけど、それは二人が思い合ったらの話だ。 
 だけど、このくらいの仄めかしならいいだろう。 
  
 アランさんはじっと俺を見ていたものの、ゆっくりと口を開く。 
  
「ナターシャ様の姉君には会ったことがありませんが、噂については耳にしたことがあります。自分は噂ではなくその人に実際に会って決めるようにしています。ノヴァさんがおっしゃる通りの方ならば、ナターシャ様と同じように仲良くしたい、と思っています」 
  
 アランさんは誠実に答えてくれた。彼の言う通り、アランさんは実際に会ってその人を評価するタイプなのは間違いない。俺もそうして評価してくれたみたいだし。 
 彼が噂に踊らされるような人でなくて嬉しく思う。まあここ最近濃い付き合いをしてきたからこそ、彼がそんな人じゃないのは分かってたんだけど。 
  
 二人が仲良くなってもし結ばれれば、セシリアさんはゼロードのことを忘れられるだろうか。ふと、そんな事を思う。そしてアランさんを見て、心の中で頷いた。 
  
 もし、本当にもしだけど、アランさんなら、セシリアさんを悲しませるようなことはしないだろうと思った。 
 そうなれば良いな、なんていう俺の勝手な願望。それを抱きながら、俺は再度コーヒーを口にした。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...