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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第133話 あの日の力に関する考察
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ギリアムさんがフォルス家の剣術指南役に復帰した後(というよりも、別に外した覚えもないんだけど……)、俺達は中庭に備えられた長椅子に座っていた。
木刀での打ち合いが終わるや否や、すぐにターニャが飲み水を持ってきてくれたので疲れが少しは取れた。本当に気の利く、俺にはもったいないくらいの専属侍女だと思う。
「……私はあの別邸でゼロードの大馬鹿者が覇気を使用したとき、その強さに驚きました。あの時のやつの覇気は、先代の当主様に勝るとも劣らないほどでした」
不意にギリアムさんが口を開く。遠くを、いや空を見上げるようにして話す彼の脳裏には、あの日のゼロードの姿が映っているんだろう。
しかし、と言って彼は俺の方を見る。
「その後すぐに、旦那様はゼロードの覇気すら越える力を見せた。結果としてたった一撃で、私が目を見張る程の力を覚醒させたゼロードを沈める程に。
あれがアークゲート家の当主様の力、ということなのですか?」
「…………」
正直、答えに困った。けど黙っているのも違うと思って口を開く。
「はい、あの時の金色の光がシアの力ですね。俺はシアの力とは相性が良くて、彼女の力を他の人よりも受けられるみたいなんです」
「なんと……強化魔法が効きやすい、ということですか……確かにそういった例は聞いたことがあるような……」
ギリアムさんは少し違うように解釈したみたいだけど、まあそれでいいか、と思った。
シアが言うには強化魔法じゃなくてアークゲート家特有の魔力が俺との親和性が高い、みたいな話だったけど。
実際、ついこの間はシアとオーロラちゃんが一緒に来て、オーロラちゃんが俺に微弱な魔法を放った。
といっても手を握って本当に弱い魔法を放っただけだ。ちなみにオーロラちゃんは放つ瞬間に可哀そうなくらいに緊張していて、思わず手を握って大丈夫だよ、と言ったくらいだった。
結果、オーロラちゃんの魔法でも俺の力になることが分かった。とはいえシアの物とは違ってその力は半分程度になっていたから、オーロラちゃんはシアとの差を実感してうな垂れていたけど。
でもあれはオーロラちゃんがというよりも、受け手である俺の問題のように思えた。
というのも、シアの魔力は俺の中にあっても全く違和感がない一方で、オーロラちゃんのは少しだけ違和感があったからだ。
なんというか、シアの魔力は力を借りているっていう気にならない。まるで自分の力のように思えてしまう。実際は俺の力じゃないし変な勘違いになりそうだから、シアの力だって心に言い聞かせてはいるんだけど。
ちなみにそのことを二人に話すとオーロラちゃんの方はさらに落ち込んでしまっていた。シアとの差じゃない、ということを仄めかそうとしたんだけど、失敗しちゃったみたいだ。
とはいえ少しした後にはケロッとした表情をしていたから、そこまで気にしてはいないみたいだったけど。
そんなつい最近の事を回想していると、ギリアムさんは深く息を吐いた。
「あの時の旦那様は、私が今まで見てきた誰よりも強かった。少なくとも歴代のフォルス家の誰もが相手にならないでしょう。アークゲート家の当主の恐ろしさを垣間見ましたな。下手したら他国でも及ぶ人はいないかもしれません」
「いや、シアは凄く強いけど、別に恐ろしくはないよ」
「それは旦那様に対してだけでは……」
最近あまり聞かなくなったターニャの口癖を久しぶりにギリアムさんから聞いて、俺は苦笑いする。
シアの事をあまりよく知らない人は彼女の事を恐ろしい、とか怖いとか言うけど、本当の彼女はとても優しい。最近だとソニアちゃんの事を気にかけているし、三姉妹の仲も良好らしいし、ターニャもそういったことを言わなくなった。
けど付き合いが短いギリアムさんはそのことがまだ分からないみたいで苦笑いしていた。その内彼も気づいてくれると良いな、と思う。
「ですがあの力は奥様が近くに居ないと発動できないという事……それならばそこは注意しておくべきかもしれません。害そうとする人がいるのは、当主の宿命ですからな」
「……今までの当主や、父上もですか?」
「先代の当主は上手くやっていましたが、それでも内心で良からぬことを考えている人物はいたでしょう。歴代の当主では命が脅かされた場面もあったと、言伝でありますが聞いています」
「……こればっかりは避けられないんだろうね」
特に俺とシアはどっちも当主という立場。むしろ俺よりもシアの方がそういった心配がある。彼女なら大丈夫だって多くの人は言うけど、それでも俺は心配だ。
まあ、彼女を脅かすことが出来る人なんてそもそも思いつかない、って言ったらそれまでなんだけど。
「……シアの……力……」
ポツリと零して考える。ゼロードを別邸で負かしたあの日、シアが言うには、シアが俺に力を与えるのではなく、俺がシアの力を奪うような形だったって言っていた。
体内にある膨大な魔力が消失する感覚があったって言っていたから間違いないんだろう。
なんか、勝手に使ってごめん、って謝ったけど、シアは許してくれた。なぜか顔を背けていたけど、実はちょっと気にして……いや、もしそうならやんわり伝えてくれるだろうから、それはないか。
で、話を戻すけどあの時の力、俺はあまりよく覚えていない。結構ギリギリだったし、特に最後の瞬間は集中しすぎていたから。あの時の力はシアに力を貰った時以上に力を出せていた気がする、ってことくらいしか記憶にない。
そしてあの時の再現を、俺はできない。
シアが言うには、あの時は俺がシアの魔力を持っていったけど、俺とシアの間に魔力の流れはなかったみたいだ。話をシアとオーロラちゃんから聞いたユティさんが言うには、魔力の受け渡しではなくて、そもそも俺がシアの魔力そのものに介入して、そこから魔力を使用した、みたいな感じらしい。
『例えるなら魔力を与えるのではなく、当主様の魔力がノヴァさんと当主様で共有されていた形です。どちらもその魔力を自由に使えることが出来る、といった形で。おそらくそれなら距離に関係なく、つまり同じ場所にいなくても、ノヴァさんは当主様の魔力を使える可能性があります』
そのことを聞いて俺はあの時と同じように力が使えるか、と試してみたけど、何度やっても無理だった。アークゲート家でオーロラちゃんやユティさんにも見てもらったけど、いずれも失敗に終わっている。
『……その時の状況から考えて、ノヴァさんの中での制限が一時的に外れて使えたという事かもしれませんね。怒りというのは、分かりやすい例の一つかと』
ユティさんは自信満々にそう言ってくれた。難しいことは分からないけど、あのユティさんがあそこまで言い張るってことは、そういう事なんだろうなって思った。
土壇場で出た奇跡の力、って感じか。ロマンチックだなと思うと同時に、そもそもそういう機会がない方が良いんだよなぁ、という気持ちにもなる。
「ところで旦那様、誰か剣の腕が立つ者を知りませんか? 最近は誰かを教える機会が減りましてな。頻繁に旦那様とこうして打ち合うわけにも行きませんし、腕が鈍ってしまいます……」
ギリアムさんがふと発したのは、ちょっとした悩みだった。
聞いてみると、昔は兄上達を教えていたし、今もたまに子供達に剣を教えるけど、ちょっと物足りないみたいだ。
うーん、と思い悩むけど、答えはすぐには出てこない。俺の回りでも剣を扱う人は、そこまで多くないからだ。
結局、その日は答えが出ることなく、ギリアムさんは去っていった。
ちなみに後日、この事をアランさんに話した結果、彼は興味が湧いたみたいで、俺はアランさんとギリアムさんの関係の橋渡しの役割をした。
ギリアムさんに直接話すとアランさんと剣を合わせられるという事で喜んでいたけど、サイモン家の当主という事を知るや否や、考えていたのとちょっと違う、という表情をしていた。
今まで見たことのないような表情だったので、小さく笑ってしまった。
木刀での打ち合いが終わるや否や、すぐにターニャが飲み水を持ってきてくれたので疲れが少しは取れた。本当に気の利く、俺にはもったいないくらいの専属侍女だと思う。
「……私はあの別邸でゼロードの大馬鹿者が覇気を使用したとき、その強さに驚きました。あの時のやつの覇気は、先代の当主様に勝るとも劣らないほどでした」
不意にギリアムさんが口を開く。遠くを、いや空を見上げるようにして話す彼の脳裏には、あの日のゼロードの姿が映っているんだろう。
しかし、と言って彼は俺の方を見る。
「その後すぐに、旦那様はゼロードの覇気すら越える力を見せた。結果としてたった一撃で、私が目を見張る程の力を覚醒させたゼロードを沈める程に。
あれがアークゲート家の当主様の力、ということなのですか?」
「…………」
正直、答えに困った。けど黙っているのも違うと思って口を開く。
「はい、あの時の金色の光がシアの力ですね。俺はシアの力とは相性が良くて、彼女の力を他の人よりも受けられるみたいなんです」
「なんと……強化魔法が効きやすい、ということですか……確かにそういった例は聞いたことがあるような……」
ギリアムさんは少し違うように解釈したみたいだけど、まあそれでいいか、と思った。
シアが言うには強化魔法じゃなくてアークゲート家特有の魔力が俺との親和性が高い、みたいな話だったけど。
実際、ついこの間はシアとオーロラちゃんが一緒に来て、オーロラちゃんが俺に微弱な魔法を放った。
といっても手を握って本当に弱い魔法を放っただけだ。ちなみにオーロラちゃんは放つ瞬間に可哀そうなくらいに緊張していて、思わず手を握って大丈夫だよ、と言ったくらいだった。
結果、オーロラちゃんの魔法でも俺の力になることが分かった。とはいえシアの物とは違ってその力は半分程度になっていたから、オーロラちゃんはシアとの差を実感してうな垂れていたけど。
でもあれはオーロラちゃんがというよりも、受け手である俺の問題のように思えた。
というのも、シアの魔力は俺の中にあっても全く違和感がない一方で、オーロラちゃんのは少しだけ違和感があったからだ。
なんというか、シアの魔力は力を借りているっていう気にならない。まるで自分の力のように思えてしまう。実際は俺の力じゃないし変な勘違いになりそうだから、シアの力だって心に言い聞かせてはいるんだけど。
ちなみにそのことを二人に話すとオーロラちゃんの方はさらに落ち込んでしまっていた。シアとの差じゃない、ということを仄めかそうとしたんだけど、失敗しちゃったみたいだ。
とはいえ少しした後にはケロッとした表情をしていたから、そこまで気にしてはいないみたいだったけど。
そんなつい最近の事を回想していると、ギリアムさんは深く息を吐いた。
「あの時の旦那様は、私が今まで見てきた誰よりも強かった。少なくとも歴代のフォルス家の誰もが相手にならないでしょう。アークゲート家の当主の恐ろしさを垣間見ましたな。下手したら他国でも及ぶ人はいないかもしれません」
「いや、シアは凄く強いけど、別に恐ろしくはないよ」
「それは旦那様に対してだけでは……」
最近あまり聞かなくなったターニャの口癖を久しぶりにギリアムさんから聞いて、俺は苦笑いする。
シアの事をあまりよく知らない人は彼女の事を恐ろしい、とか怖いとか言うけど、本当の彼女はとても優しい。最近だとソニアちゃんの事を気にかけているし、三姉妹の仲も良好らしいし、ターニャもそういったことを言わなくなった。
けど付き合いが短いギリアムさんはそのことがまだ分からないみたいで苦笑いしていた。その内彼も気づいてくれると良いな、と思う。
「ですがあの力は奥様が近くに居ないと発動できないという事……それならばそこは注意しておくべきかもしれません。害そうとする人がいるのは、当主の宿命ですからな」
「……今までの当主や、父上もですか?」
「先代の当主は上手くやっていましたが、それでも内心で良からぬことを考えている人物はいたでしょう。歴代の当主では命が脅かされた場面もあったと、言伝でありますが聞いています」
「……こればっかりは避けられないんだろうね」
特に俺とシアはどっちも当主という立場。むしろ俺よりもシアの方がそういった心配がある。彼女なら大丈夫だって多くの人は言うけど、それでも俺は心配だ。
まあ、彼女を脅かすことが出来る人なんてそもそも思いつかない、って言ったらそれまでなんだけど。
「……シアの……力……」
ポツリと零して考える。ゼロードを別邸で負かしたあの日、シアが言うには、シアが俺に力を与えるのではなく、俺がシアの力を奪うような形だったって言っていた。
体内にある膨大な魔力が消失する感覚があったって言っていたから間違いないんだろう。
なんか、勝手に使ってごめん、って謝ったけど、シアは許してくれた。なぜか顔を背けていたけど、実はちょっと気にして……いや、もしそうならやんわり伝えてくれるだろうから、それはないか。
で、話を戻すけどあの時の力、俺はあまりよく覚えていない。結構ギリギリだったし、特に最後の瞬間は集中しすぎていたから。あの時の力はシアに力を貰った時以上に力を出せていた気がする、ってことくらいしか記憶にない。
そしてあの時の再現を、俺はできない。
シアが言うには、あの時は俺がシアの魔力を持っていったけど、俺とシアの間に魔力の流れはなかったみたいだ。話をシアとオーロラちゃんから聞いたユティさんが言うには、魔力の受け渡しではなくて、そもそも俺がシアの魔力そのものに介入して、そこから魔力を使用した、みたいな感じらしい。
『例えるなら魔力を与えるのではなく、当主様の魔力がノヴァさんと当主様で共有されていた形です。どちらもその魔力を自由に使えることが出来る、といった形で。おそらくそれなら距離に関係なく、つまり同じ場所にいなくても、ノヴァさんは当主様の魔力を使える可能性があります』
そのことを聞いて俺はあの時と同じように力が使えるか、と試してみたけど、何度やっても無理だった。アークゲート家でオーロラちゃんやユティさんにも見てもらったけど、いずれも失敗に終わっている。
『……その時の状況から考えて、ノヴァさんの中での制限が一時的に外れて使えたという事かもしれませんね。怒りというのは、分かりやすい例の一つかと』
ユティさんは自信満々にそう言ってくれた。難しいことは分からないけど、あのユティさんがあそこまで言い張るってことは、そういう事なんだろうなって思った。
土壇場で出た奇跡の力、って感じか。ロマンチックだなと思うと同時に、そもそもそういう機会がない方が良いんだよなぁ、という気持ちにもなる。
「ところで旦那様、誰か剣の腕が立つ者を知りませんか? 最近は誰かを教える機会が減りましてな。頻繁に旦那様とこうして打ち合うわけにも行きませんし、腕が鈍ってしまいます……」
ギリアムさんがふと発したのは、ちょっとした悩みだった。
聞いてみると、昔は兄上達を教えていたし、今もたまに子供達に剣を教えるけど、ちょっと物足りないみたいだ。
うーん、と思い悩むけど、答えはすぐには出てこない。俺の回りでも剣を扱う人は、そこまで多くないからだ。
結局、その日は答えが出ることなく、ギリアムさんは去っていった。
ちなみに後日、この事をアランさんに話した結果、彼は興味が湧いたみたいで、俺はアランさんとギリアムさんの関係の橋渡しの役割をした。
ギリアムさんに直接話すとアランさんと剣を合わせられるという事で喜んでいたけど、サイモン家の当主という事を知るや否や、考えていたのとちょっと違う、という表情をしていた。
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