宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第161話 呪いを打ち消す、薬

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 翌日の夕方、早めに仕事を終えた俺は執務室に迎えに来たシアと一緒にゲートに入り、王都の研究所へと来ていた。

「……あれ? ナタさん居ないね」

 ゲートを繋いでくれた先はナタさんに最初に会った部屋だったけど、そこは無人だった。後ろを振り向いてみたけど、ゲートが消えた向こう側にも人影はない。

「きっと別棟にある研究室に居るんだと思います。薬の研究開発はそちらで行っているみたいなので。事前に伺うことは伝えてあるので、向かいましょうか」

 シアの言葉に頷くと、彼女は部屋の出口へと向かう。その後ろ姿を追いかけて少し歩く。

 別棟に行き、階段を降り、扉を開ければ、部屋の中にナタさんと見知った人物が居た。

「……ユティさん?」

 ここで会うのは初めての人物を見て、俺は声をあげる。ユティさんは俺に気づき、小さく微笑んで頭を下げた。隣に立つシアが口を開く。

「私が呼んだんです。説明をするのに適していると思いまして」

「なるほど……」

 俺が訪れるという事で、シアはユティさんにも声をかけてくれていたらしい。部屋には彼女達以外にも数名の白衣を着た研究者達が作業していた。

「ノヴァさん久しぶり、今日はフォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を無くす薬の進行具合を見に来た、でいいんでしょ?」

「お久しぶりですナタさん。はい、そうなんですけど、そんなこと出来るんですか?」

 フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発は一部では呪いとまで言われるほどだ。
 昨日シアに聞いたときから思っていたけど、それを無くすなんてこと、本当にできるのか半信半疑だった。

 ナタさんはいつものように表情にあまり変化がないまま小さく頷く。ユティさんもそこまで大きく表情が変化するわけではないので、二人並んでいると少しだけ威圧感がある。

「すぐには無理だけど、ある程度見えてきてはいる。分かりやすく説明するなら、フォルスの覇気とアークゲートの魔力、それらをほんの少しだけずらすような薬を作れれば、覇気も魔力もそのままに反発を無くすことが出来る」

「覇気と魔力を……ずらす……?」

 言葉だけを聞くと、確かにそこまで難しい事のようには思えない。けど実際にはかなり難しい事なんだろう。ナタさんはすぐには無理だと言ったけど、言い方から考えるにまだ時間はかかりそうな印象がある。

 そんな事を思っていると、ユティさんが声を挙げた。

「フォルス家の覇気とアークゲート家の魔力が反発するのは知っていると思いますが、どんな部分で反発しているのか、その詳細は分かりませんでした。ですが当主様の協力で、少なくともアークゲートの魔力の観点では、どのように反発しているのかの仕組みが正確に判明しています」

「……す、すごいねシア」

 今まで誰も分からなかったところを解明したということを教えられて、俺はシアに声をかける。彼女は穏やかな微笑みを浮かべたままで答えた。

「いえ、ちょっと体内の魔力に強く念じてみたら、なんとなく分かったといいますか」

「えぇ……」

 そんなので分かるのかと思ったけど、シアだからこそなんだろう。現にユティさんは苦笑いを浮かべているし。
 そんなユティさんは少し待った後で、説明の続きをしてくれる。

「フォルスの覇気についてもいくつか情報を得ていまして、そこから反発部分を割り出している段階です。念のために覇気に作用する薬とアークゲートの魔力に作用する薬を開発し、それらで反発を無くせればと考えています」

「フォルスの覇気の情報もなんだ」

 アークゲートの魔力はシアのお陰というのは分かったけど、フォルスの覇気の情報まで手に入れているとは思わなかった。まあ、シアやユティさんならフォルス家の覇気の情報を持っていてもなんか不思議じゃないというか、そりゃあ持っているよね、というか……。

 いずれにせよ色々な人の協力によって、新しい薬が出来ようとしている。それはフォルス家とアークゲート家にしか意味をなさないものだろうけど、呪いとまで呼ばれるものが無くなるのなら、それはそれで良いことだ。

 そんな風に思っていると、ナタさんが口を開いた。

「一応は永続的に効果を発揮させるために薬で考えているけど、無理なら身に着けることが前提の機器としての実装も第二案として存在する」

「すごい……そこまで考えられているんですね」

「ちなみに最終手段はノヴァさんが生まれたアークゲートの赤子の元に待機して、魔力に命じて反発を無くす方法です」

「ええ……なにそれ……」

 ナタさんの第二案に感心していると、シアから最終案を言われた。なにそれって思ったけど、聞いてみると俺のアークゲートの魔力への干渉? とかいうのは相手が幼ければ幼いほど効果が大きいんだとか。

 なるほど、だからオーロラちゃんや小さい頃に会ったシアの魔法は力に変えられるけど、ユティさんを初めとする大人の魔法は無理なのかと、納得した。
 確かにそれなら最終手段としては俺の力が使えるかもしれないってことか。

 そんなときユティさんは苦笑いを浮かべたままで、俺に告げた。

「ただ、ノヴァさんの負担も大きくなりますし、いつかは亡くなってしまいます。第一案の薬や第二案の機器の方がずっと行えるという点で望ましいのは言うまでもないですね」

 確かにそれはそうだ。俺のこの力もシア曰く俺だけのもらしく、次いつ現れるか分からないらしいし。

「なら第一案や第二案を実現するために、俺に何か協力できることはありますか? 俺は覇気を使えませんが、ギリアムさんやカイラスの兄上に覇気の情報の提供を依頼することとかは出来ますが……」

 俺も協力を言い出してみたけど、ユティさんは首を横に振った。

「覇気に関する情報はある程度揃っていますし、実はノヴァさんの情報もあるんです。ノヴァさんが当主様の魔力に干渉した件も、この薬の完成に大きく役立っているんですよ」

「そうだったんですね」

 実験と評してシアやオーロラちゃん、ユティさんと色々なことをした記憶はある。あの時に色々と情報を得ていたってことだろう。俺から取れるなら、いくらでも取っていってくれって感じだ。

「ちなみにゼロードと最後に戦ったときのノヴァさんの覚醒?時の情報だけはないのですが、それがなくても薬には影響がないと思うので大丈夫です。ただあっても良いので、もし出来るようになったら教えてくださいね」

「はい、分かりました」

 そうは言ったものの、あの時は夢中になっていて、なんで出来たのか今でも分からない。あれから月日がだいぶ経つけど、未だに同じことをできる気は全く起きなかった。

 俺は隣に立つシアの方を見て、声をかける。

「ありがとうシア。フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発について、考えてくれて」

「どういたしまして……と言いたいところですが、これに関しては主導して進めてくれたナターシャやユティ、それにこの研究所の多くの研究者の方々の協力があってこそです。私は色々な情報や資金を提供しただけですよ」

「……そうだね。ありがとうございますナタさん、ユティさん……それに皆さんも!」

 大きな声でお礼を告げると、その場にいるほとんどの研究者の人達が頭を下げてくれた。
 俺はナタさんとユティさんの方を向いて、口を開く。

「ユティさん、ナタさん、もしも手伝えることがあれば俺にも言ってください。色々な面で、俺も協力したいですから」

 本心を伝えれば、二人は頷いてくれた。

「分かりました。もしもノヴァさんの力が借りたい時があれば、必ず」

「助かる」

 シアやユティさん、そしてナタさんがやってくれている反発を無くす薬の開発、これが完成するように、祈るとしよう。
 ふと、隣に立つシアが俺の顔を覗き込んで声をかけてくる。

「時間はかかるかもしれませんが、これが完成すれば私達の子供はフォルスの覇気とアークゲートの魔力に苦しむことは無くなります。……これでノヴァさんの不安を、少しは解消できましたか?」

 本当に、彼女にはいつも驚かされる。そう心の中で思って、俺は笑顔を浮かべた。

「うん、ありがとう。色々なことを考えてくれて、それに準備までしてくれて、ありがとう」

「いえ……それに私も……自分に子が出来たら、その子には健康に、そして伸び伸びと成長して欲しいですからね」

「うん……それは本当に、心からそう思うよ」

 シアの言葉と優しげな雰囲気に、俺は思う。
 彼女は以前、自分が母と似ているのではないかと悩んでいたことがあった。けど今の彼女を見ていると、やっぱりそんなことはないと、そう強く思える。

 きっとシアは自分の子供に深すぎる愛情を注ぐ母親になるって、思うから。
 彼女の母親とは違う、素晴らしい母親に。

 隣に立つ女性がまだ見ぬ赤子を抱いて慈愛に満ちた笑顔を向ける姿を、俺はうっすらとだけど幻視した。
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