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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第162話 身分に、北か南かに、関わらず
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ある日、俺はフォルスの兵の試験会場に足を運んでいた。横にはギリアムさんの姿があり、俺達の視線の先には最終試験に臨む試験者達の姿もある。
全員が全員、いくつかの試験を越えてきた剣の腕に覚えのある若者たち……といっても俺も若者ではあるんだけど。
そんな人たちが木刀を打ち合うのを見て、俺は満足して頷いた。中には筋が相当良い人や、長い間剣に向き合ってきたことがよくわかる人もいる。今回は中々に豊作なようだ。
「実質的に今回が旦那様の初の大型募集という事ですが、どうですかな?」
「そうですね。前回よりも粒ぞろいな気がします」
ギリアムさんの言葉に返す。
フォルス家はいつでも兵を募集してはいるけど、年に一度のタイミングで大型の募集を行う。前回は当主になったばかりでバタバタしていたこともあって、まだ父上の代という感じだった。
けど今回はそれから約一年という月日が経っていて、当主も完全に俺に交代。ギリアムさんの言うように、俺の代になって初めての大型募集と言っていいだろう。
ギリアムさんはじっと最終試験を受ける若者の姿を見て、感慨深く頷いた。
「今あそこで木刀を振るっているのはあまり身分の高くない者ですな。試験官に関しても旦那様が大きく変更したために、あの場に残れた……もしも先代当主様の場合、身分によりどこかで落とされていたかもしれませんな」
「……やっぱり、そういったこともありますよね」
フォルス家の私兵は身分を問わない。けれど貴族の兵になるという事は栄誉だ。だから身分により応募者を落とす試験官も俺が入れ替えを行う前には居たのだろう。
それに、身分差を気にしてそもそも応募をしない人だって居たかもしれない。自分の実力を誰かに見てもらうこともなく日陰に閉じこもらざるを得ないのは、辛く苦しいことだと俺は思う。
「そう考えると、旦那様が新たに『実力を重視して登用する』と応募用紙に大きく目立つように記載したのは効果が大きいかもしれませんね。応募者も多いように思えます」
「上手くいったようで、安心しています」
たった一文を大きな文字で追記して応募者が増えるなら、大成功だろう。試験官は大変そうだけど、いずれも今抱えている兵の中から観察眼に優れているであろう人物を抜擢している。逸材を見落とすことはないと、俺は信じている。
チラリと、ギリアムさんは少しだけ離れたところで木刀を振るう別の若者を見た。
「それに最も大きいのは王都のみならず北側からも応募者が来ている事でしょう。王都はともかく、北から来るなど前回までは考えられませんでしたからな」
「北側でも剣を学べる機会はあると思うけど、わざわざ南側のフォルス家まで応募してきてくれたのは、嬉しく思います」
「これまで北側からの応募者は一人も居なかった筈です。けれど今回少しですが増えたのは、間違いなく旦那様の影響でしょう。奥様が北側出身どころか北側の大貴族アークゲート家出身。これは北側の剣の研鑽者にとってもフォルス家を気にするきっかけになりますからな」
ギリアムさんの言葉に頷く。
数こそ少ないけど、今回の応募者の中には北側出身の人もいた。南側のフォルス家まで来るのは相当遠いのに、それでもわざわざ馬車に乗ってここまで来てくれているのは嬉しいことだ。
「北と南は、思っている以上に隔たりがあるんです。まるで一つの国の中に二つの国がある……とまでは言いませんが、南は南で北を、北は北で南に対してちょっと思うところがある」
「そうですなぁ。南のフォルスと北のアークゲートを筆頭に、二つの地域の間には見えないかつ薄いものの、確かに壁がある。それは今までの歴史でもそうでしょう」
ギリアムさんに頷き返して、俺は続ける。
「はい。ですがこうして見ていると、フォルス家の兵の募集に北側の若者が来てくれている。本当に一つずつ……少しずつですけど、見えない壁が消えていっているような、そんな気がするんです」
「それなら、その一つのきっかけになれているのは喜ばしい事なのかもしれませんな」
「……そうですね」
ギリアムさんと並んで、俺は最終試験の様子を見守る。
正確には身分の低い若者と、その奥に居る北側出身の若者を。
いつの日か、誰もなんの心の制限もなく、あらゆる身分、あらゆる地域、あるいはあらゆる国からフォルス家の兵の募集に応じて人が集まる日が来るかもしれない。
もしも来たなら、それはそれで人々にとって喜ばしい変化だろう。
そしてその時には、きっと南と北の見えない壁は、無くなっているはずだ。
木刀のぶつかり合う音が消えて、二人の若者が試験官に頭を下げる。
身分の低い若者と北側出身の若者、二人は合格したという報告を、後にローエンさんから聞いた。
彼らを含む合格者と交流のために俺が木刀を交えるという新しい試みを導入したのも、この後すぐだった。
全員が全員、いくつかの試験を越えてきた剣の腕に覚えのある若者たち……といっても俺も若者ではあるんだけど。
そんな人たちが木刀を打ち合うのを見て、俺は満足して頷いた。中には筋が相当良い人や、長い間剣に向き合ってきたことがよくわかる人もいる。今回は中々に豊作なようだ。
「実質的に今回が旦那様の初の大型募集という事ですが、どうですかな?」
「そうですね。前回よりも粒ぞろいな気がします」
ギリアムさんの言葉に返す。
フォルス家はいつでも兵を募集してはいるけど、年に一度のタイミングで大型の募集を行う。前回は当主になったばかりでバタバタしていたこともあって、まだ父上の代という感じだった。
けど今回はそれから約一年という月日が経っていて、当主も完全に俺に交代。ギリアムさんの言うように、俺の代になって初めての大型募集と言っていいだろう。
ギリアムさんはじっと最終試験を受ける若者の姿を見て、感慨深く頷いた。
「今あそこで木刀を振るっているのはあまり身分の高くない者ですな。試験官に関しても旦那様が大きく変更したために、あの場に残れた……もしも先代当主様の場合、身分によりどこかで落とされていたかもしれませんな」
「……やっぱり、そういったこともありますよね」
フォルス家の私兵は身分を問わない。けれど貴族の兵になるという事は栄誉だ。だから身分により応募者を落とす試験官も俺が入れ替えを行う前には居たのだろう。
それに、身分差を気にしてそもそも応募をしない人だって居たかもしれない。自分の実力を誰かに見てもらうこともなく日陰に閉じこもらざるを得ないのは、辛く苦しいことだと俺は思う。
「そう考えると、旦那様が新たに『実力を重視して登用する』と応募用紙に大きく目立つように記載したのは効果が大きいかもしれませんね。応募者も多いように思えます」
「上手くいったようで、安心しています」
たった一文を大きな文字で追記して応募者が増えるなら、大成功だろう。試験官は大変そうだけど、いずれも今抱えている兵の中から観察眼に優れているであろう人物を抜擢している。逸材を見落とすことはないと、俺は信じている。
チラリと、ギリアムさんは少しだけ離れたところで木刀を振るう別の若者を見た。
「それに最も大きいのは王都のみならず北側からも応募者が来ている事でしょう。王都はともかく、北から来るなど前回までは考えられませんでしたからな」
「北側でも剣を学べる機会はあると思うけど、わざわざ南側のフォルス家まで応募してきてくれたのは、嬉しく思います」
「これまで北側からの応募者は一人も居なかった筈です。けれど今回少しですが増えたのは、間違いなく旦那様の影響でしょう。奥様が北側出身どころか北側の大貴族アークゲート家出身。これは北側の剣の研鑽者にとってもフォルス家を気にするきっかけになりますからな」
ギリアムさんの言葉に頷く。
数こそ少ないけど、今回の応募者の中には北側出身の人もいた。南側のフォルス家まで来るのは相当遠いのに、それでもわざわざ馬車に乗ってここまで来てくれているのは嬉しいことだ。
「北と南は、思っている以上に隔たりがあるんです。まるで一つの国の中に二つの国がある……とまでは言いませんが、南は南で北を、北は北で南に対してちょっと思うところがある」
「そうですなぁ。南のフォルスと北のアークゲートを筆頭に、二つの地域の間には見えないかつ薄いものの、確かに壁がある。それは今までの歴史でもそうでしょう」
ギリアムさんに頷き返して、俺は続ける。
「はい。ですがこうして見ていると、フォルス家の兵の募集に北側の若者が来てくれている。本当に一つずつ……少しずつですけど、見えない壁が消えていっているような、そんな気がするんです」
「それなら、その一つのきっかけになれているのは喜ばしい事なのかもしれませんな」
「……そうですね」
ギリアムさんと並んで、俺は最終試験の様子を見守る。
正確には身分の低い若者と、その奥に居る北側出身の若者を。
いつの日か、誰もなんの心の制限もなく、あらゆる身分、あらゆる地域、あるいはあらゆる国からフォルス家の兵の募集に応じて人が集まる日が来るかもしれない。
もしも来たなら、それはそれで人々にとって喜ばしい変化だろう。
そしてその時には、きっと南と北の見えない壁は、無くなっているはずだ。
木刀のぶつかり合う音が消えて、二人の若者が試験官に頭を下げる。
身分の低い若者と北側出身の若者、二人は合格したという報告を、後にローエンさんから聞いた。
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