宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第181話 カイラスに薬を渡す

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 薬の完成から数日後、俺はユティさんと共にカイラスの兄上の屋敷を訪れていた。完成した薬を配ることが目的で、アークゲート家はシアが、フォルス家は俺が配ることになっている。
 既にライラックの叔父上には彼から伝えられた必要数を渡し終えていて、残るはカイラスの兄上だけになっていた。

 以前カイラスの兄上の屋敷には行ったことがあるのでゲートの機器を使って向かうと、執事の人が出迎えてくれて、応接間に通された。
 ユティさんと隣同士で座って待っていると、扉が開く。カイラスの兄上が来たと思い視線を向けるも、立っていたのは予想外の人物だった。

「……ローズさん?」

 カイラスの兄上ではなく、その妻であり俺の義理の姉でもあるローズさんが立っていた。彼女は俺を見た後に隣に座るユティさんを見てぎょっとした顔をする。

「お、お久しぶりです当主様……ほ、本日はどのような用件で?」

 フォルス家の当主になって挨拶するまではろくに目が合うこともなかったローズさんだけど、当主になった後はいつもこんな調子だ。別に元々仲が良いわけでもないし苦手な部類だったから、そこまで気にしてもいないんだけど。

「フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を無くす薬が完成したので、それをカイラスの兄上に届けに来ました」

「……そうでしたか。……そちらの方は?」

「ご挨拶が遅れました。初めまして、私はユースティティア・アークゲートです」

「アーク……ゲート……」

 アークゲートの名を聞いて少しだけ顔を青くするローズさん。しかしすぐに平静を取り戻して、作り笑いを浮かべた。

「そ、それはそれはわざわざありがとうございます。ゆっくりなさってくださいね……」

 そう言ってローズさんは応接間を出ていってしまった。何をしに来たんだろうか、という感じで、隣に座るユティさんと顔を見合わせたけど、彼女には首を横に振られてしまった。

 しばらく応接間で待つ。すると再度扉が開き、入ってきたのはカイラスの兄上だった。

「すまないノヴァ、少し仕事が溜まっていてな。……? そちらの方は?」

「お久しぶりです兄上。こちらはユースティティア・アークゲートさん。今回はとある実験? でついてきてもらいました」

「アークゲート?」

 反発の件があることでカイラスの兄上とユティさんの面識はなかったようだ。シアは結婚の挨拶で実家に行った時に顔合わせしていたし、オーロラちゃんのことは親睦会で目にしたはずだけど、そういえばユティさんと顔を合わせる機会はなかった筈。

 そしてカイラスの兄上はアークゲートという言葉を聞いて驚いている。テーブルを挟んで向かい合うような形でも反発が起きないからだろう。

「ユティさんには既に薬を服用してもらいました。事前に手紙でお伝えしましたが、片方が服用しているだけでも効果は実感できます」

「なるほど……」

 今回ユティさんを連れてきたのはナタさんからの要望だ。フォルスで服薬し、アークゲートで服薬していない人を合わせた場合にどうなるかはギリアムさんとシアで問題ないという結論が出ている。
 なので後はそれを逆にした場合にどうなるかを見てきて欲しいという事だった。俺の屋敷の時みたいに機器を使って精密に調べなくていいのかと聞いてみたものの、問題ないのは予想がついているから、確認だけで良い、と言われた。

 現に今、カイラスの兄上の体調が悪くなっているような様子はない。やはりナタさんの見立て通り、問題は無さそうだ。

 そのことを確認し、俺はフォルス家用の瓶を取り出してカイラスの兄上に差し出した。事前に瓶程度のサイズだという事は手紙で共有しているけど、意外にも小さくて驚いているらしい。確かギリアムさんも少し驚いていた事を思い出した。

「ふむ……では頂こう」

 瓶を手に取り、カイラスの兄上は蓋を外す。少しだけ躊躇った様子を見せたものの、既にギリアムさんやライラックの叔父上が飲んだことは伝えてあるために不安もそこまでなかったのだろう。
 一思いに、瓶の中身を流し込んだ。

 空の瓶をテーブルの上において、カイラスの兄上は一息つく。

「これで後は数時間待っていれば良い、という話だったか?」

「はい、ただ覇気を使うようなことは避けて頂けると」

「了解した。……ユースティティア様、今回はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」

 カイラスの兄上は不意にユティさんの方を向いて頭を下げた。突然の事にユティさんも驚いたようで、少しだけ戸惑いながら返事をする。

「い、いえ……」

 アークゲート家とフォルス家は長らく宿敵同士の関係だった。反発がなくなったとしてもお礼を言われることが意外だったのだろう。
 カイラスの兄上の意外な反応に驚きながらも、彼をじっと見ていてあることを思い出し、もう一本の瓶を取り出してテーブルへと置いた。怪訝そうな顔でそれを見るカイラスの兄上に対して説明をする。

「将来ローズさんとの間に子供が出来た場合、子供に飲ませる用の薬も渡しておきます。無くしたり、一本では足りない場合には連絡してください。……一応理論上は母親が飲むことで胎児にも薬の影響を与えられるそうですが、流石に未検証ですし、ローズさんはアークゲート家ではないので生まれてから飲んでもらう、で良いと思われます」

 というよりも、そんなレアケースが起こるのは俺とシアの関係だけな気がするけれど。ちなみに当の本人であるシアは仮に胎児に薬の影響が現れなくても魔力に命じて子供には一切の害が出ないように守ると言っていた。
 間違いなく彼女にしか出来ないであろうことを言われたものの、逆に頼もしく感じてしまったくらいだ。

「……そう……だな」

 カイラスの兄上は、どこか難しい顔をして薬を受け取る。その表情を見て、思わず聞き返してしまった。

「兄上?」

「……いや、なんでもない」

 何かあるのかと思いつつも、カイラスの兄上が話してくれないなら無理に聞くことは出来ない。

「今日はありがとうノヴァ、ユースティティア様。一応もてなしも出来るが、どうする?」

 尋ねられ、俺は考える。ゲートの機器を使えば帰るのは一瞬だし、わざわざカイラスの兄上の世話になることもないだろう。ローズさんの事は苦手だし。
 そう考えて、俺は首を横に振った。

「いえ、本日は薬を届けに来ただけですので今日は帰ります。ありがとうございます」

 俺がそう答えればユティさんも当然それにならう。カイラスの兄上は頷いて、椅子から立ち上がった。

「そうか」

 短く呟いたカイラスの兄上。彼の表情からは、相変わらず感情が読み取れなかった。
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