宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
182 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第182話 甘く蕩ける二人だけの時間

しおりを挟む
 薬が完成して数日経ったある日の夜のこと、俺はシアと一緒に共同の寝室でゆったりと過ごしていた。本を開いて少しは読んだものの、そこまで物語の世界にのめり込んでいるわけじゃない。シアもそれは同じようで、どちらかというとこの静かな空間を楽しんでいるようだった。

「それにしても、ようやく一段落した形ですね」

 本を区切りが良いところまで読み終えたのか、あるいは読むことを止めたのかは分からないけれど、シアは本を膝の上に置いた。
 彼女の言う通り、薬の完成を聞いてからギリアムさんやユティさんに協力してもらって効力を確認し、ライラックの伯父上やカイラスの兄上に届けるという一連の流れを思い返すと、やや忙しい日々だったなと思う。

 今ではフォルス家で覇気を使える人は全員薬を服用したし、アークゲート家もシアを始めとして全員が飲んだらしい。今のところは二つの力の反発も、覇気や魔法が使えなくなったという報告も受けていないので、成功したと言っていいだろう。

「本当にそうだね。何かあったらどうしようと思って緊張していたけど、無事に終わってなによりだよ。……シア?」

 そう返事をすると、不意にシアが立ち上がった。彼女はテーブルの脇を通り抜けて俺の元へ。そして俺の隣に腰かけた。

「一歩一歩ですが、進みつつあります。ノヴァさんの次の目的である北と南の確執の解消も、薬が完成したことで時間の問題になりました」

 隣に座るシアは微笑んで俺を見る。当然だけどシアには俺がこの後にやりたいことを共有している。国王陛下やレイさんに伝えたことや、親睦会でのことも当然彼女は知っている。

「一歩一歩か……確かにそうだけど、今回の薬の完成は凄く大きな一歩だよ。シアのお陰だね」

「私は……いえ、ノヴァさんに喜んでもらえて嬉しいです」

 少しだけ考えて答えるシア。きっといつもの癖で大したことはしていない、と言おうと思ったんだろうけど、流石に今回は大したことだと思い返したみたいだ。
 それに気づいて温かな目で見ていると、シアは本をテーブルの上に置く。視線は俺から離さずに、穏やかな表情のままで。

 体がゆっくりと傾いて小さな頭を俺の肩に優しく乗せた。

「始まりはあの雪降る日、王都での路地裏でした。そこでノヴァさんに出会い、それからしばらくしてあなたがフォルス家の人だという事を知りました。私はアークゲート家、ノヴァさんはフォルス家。……二家は宿敵の関係でしたが、それで諦める気には全くなれませんでした。またノヴァさんに出会うには宿敵という関係をそもそも変えないといけない、そう考えました」

 シアの静かな言葉が心に響く。他の貴族ならともかく、フォルス家出身の俺とアークゲート家出身のシアがこうして結ばれているのは本来なら考えられないことだ。しかも俺もシアも共に三男、三女の関係性で。
 今は当たり前のようになっている俺とシアの関係だけど、その背後には幼き日のシアの決意や頑張りがあったことを俺はよく知っている。

 彼女は俺と再会し、そして結ばれるためにあらゆるものを変えた。

 それがどれだけ嬉しい事なのか、言葉では言い表すことは出来ない。

「アークゲート家の当主になって、ノヴァさんとやっと結ばれて、そしてノヴァさんも晴れてフォルス家の当主になって……でもやっぱりその先を考えたんです。ノヴァさんと、私と、ユティやオーラを始めとする多くの人が周りに居る未来を。
 そしてそれらを考えた時、まだ見ぬ小さな存在も……私達の間に生まれる思いの結晶もきっとそこに居るだろう。居てくれるだろうと、思いました」

 それはきっと、俺が最近考え始めた未来。それをシアはずっと前から考えてくれていて、その未来を実現しようとしてくれて、そして夢見た光景を愛してくれていたんだろう。

 右腕を動かし、もたれかかるシアの頭を撫でる。なんとなくそうしたい気分だった。
 撫でられる感触に気づき、シアは頭を動かして俺を見上げる形になる。最愛の人と至近距離で見つめ合う。

「本当に一段落着いたんだなって、そう思います。あぁ、やりきったんだなって……」

「シア……」

 笑みを浮かべるシアの表情には達成感があって、そしてすごく幸せそうで、愛しいという気持ちがどんどん溢れてくる。
 彼女はやりきったといった。俺と結ばれて、穏やかで幸せな未来がもう間近に迫る今を、やりきったと言ってくれた。救国の英雄にして、歴代で最高のアークゲート家の当主であるシアならほかにもいくらでも達成感を得られる大きな事はあるだろう。

 けれど彼女が一番達成感を感じ、そして幸せを感じてくれているのが今の瞬間だという事が、何よりもうれしかった。

「ノヴァさん……」

 小さく呟いたシアは俺の肩から頭を離し、そっと俺の持つ本に触れる。もう読んでないそれを優しく取り上げて、そしてシア自身が置いた本の上に重ねた。

「もう夜も遅く、寝る時間ですね」

「……そうだね」

 先ほどまで本に触れていた手の甲に、シアの小さな手が重ねられる。熱を帯びた彼女の手はするりと動いて俺の手のひらと彼女の手のひらが重なり、握られる。
 椅子を立ちあがったシアに導かれるように俺も立ち上がる。シアとの視線はさっきからずっと絡み合ったままだ。

 シアに手を引かれて、俺はすぐそばのベッドへ。視界にはとろんとした目をして、顔には赤みがかかったシアがずっと映っている。果てしなく男を、いや俺という存在を魅了するその表情を、誰にも見せたくないと強く思ってしまう。

 けどきっと、同じように俺も真っ赤な顔をしているんだろうな、なんてことを思って。

 ベッドに、シアが腰を下ろした。
 手は繋がれたままで、ベッドへと腰かけたシア。見下ろすような角度になれば必然的にシアは俺を上目遣いで見るようになり、心臓の鼓動がますます速くなる。目を逸らすことなんて、出来る筈がない。

「ふふっ、えいっ」

 不意に腕を引っ張られ、俺は体勢を崩す。シアが腕を引っ張ると同時にベッドに上半身を倒したからだ。彼女にぶつかると思い、慌てて空いている手で体を支える。
 左手はシアの頭のすぐ横のシーツについて、俺も倒れ込むような姿勢。至近距離で見つめ合うシアが、いたずらに微笑んだ。

「ノヴァさん、明日はお休みですよ?」

「そ、そう……だね……」

 少しだけシアは上半身を起こし、右手を掴んでいた手が離れ、シアの両腕が俺の首を抱え込むような体勢。見つめ合っていた彼女は俺に抱き着くような形になり、重力とシア自身の重みでベッドに引きずり込まれるような形になる。耳元でささやかれる声に頭がくらくらした。

 求められているという事は明白で、その誘惑に抗う事なんて出来る筈もないし、しようとも思わなかった。

「ノヴァさん」

「っ……」

 耳元でささやかれる度に幻覚を見る。たった一本の糸が彼女の声に呼応して震える姿を見る。

「以前話した子供が出来ない魔法……もう使用を止めましたよ?」

「あ……」

 震える。全身が彼女の熱を感じ、心臓が周りに聞こえそうなくらいの音を立て、全身の体温が上がるのを感じる。あまり物事を深く考えられる段階はとっくに通り過ぎ、くすぐったいとか、温かいとかという事しか考えられない。けどその中で、何故かはわからないけどあることには気づけた。

 ぴったりと密着しているシアの心臓の鼓動と、俺の心臓の鼓動が、同じような間隔であることに。

「妻にはして頂きました。なので……次は……母に」

「っ」

 頭の中で見えていた幻想の糸が、ぷつりと切れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...