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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第198話 明確な拒絶
しおりを挟むカイラスの兄上に二つの家を一つにする事を話した数日後、俺はとある屋敷に足を運んでいた。以前カイラスの兄上の屋敷を訪れた時も緊張していたが、今日の緊張はその比ではない。
なにせ、今日訪問したのはライラックの伯父上の屋敷なのだから。
屋敷に勤める執事さんに案内され、俺はライラックの伯父上が待つという執務室へ。扉を開けるように言われたのでそれに従えば、中ではライラックの伯父上が立ったままで待っていた。彼は俺が入ってきたことで体の向きを変え、向き合う形になる。
「よく来た、ノヴァ。それで話とはなんだ?」
事前に伝えたいことがあるという旨は手紙で伝えてあるから、そのことを催促される。少しだけ緊張するけれど、もうライラックの伯父上以外には共有したことだ。覚悟を決めて、俺は口を開いた。
「お伝えしたいことがあります」
「ほう?」
「私は今、フォルス家とアークゲート家を一つにしようと考えています。両家を合併させ、新しく一つの家を作るつもりです」
「…………」
俺の言葉に対して、ライラックの伯父上はまず目を見開いた。そんなことを言われるとは思っていなかったようだ。
けれどすぐに、表情を怒りへと切り替えた。
「フォルス家とアークゲート家を……一つに? ふざけているのか……?」
「いえ、俺は本気です」
「ならなおの事悪い! アークゲートと一つになる!? フォルスではなく新たな家になる!? 貴様は何を言っているのか分かっているのか!?」
予想通り、激しい怒りの感情を見せるライラックの伯父上。けれど俺も一歩も引くつもりはなかった。
「長年宿敵の関係であったフォルス家とアークゲート家をなんとかできるのは、今しかないんです!」
「何のために一つになる必要がある!? そもそも我々とアークゲート家には元々は呪いが――」
そこまで話して、ライラックの伯父上は何かに気づいたようだった。ハッとした表情を見せた後に、悔しそうな顔を俺に見せる。
「そのための薬か……? なんだ貴様……フォルスを、アークゲートに売ったのか?」
「違います、伯父上――」
「違うものか! あの薬はアークゲートの当主が発案者だろう! くそっ、こんなことになると分かっていれば薬を飲まなかったものを……なにか嫌な予感がしていたんだ!」
吐き捨てるように叫ぶライラックの伯父上を見て、俺はマズイと思っていた。そう簡単に受け入れてくれないとは思っていたが、予想よりも強く反発されている。しかもシアがこの案を考えて、アークゲート家がフォルス家を乗っ取ると、そう勘違いしている。
「伯父上、聞いてください! 俺もシアも、フォルス家を売るつもりも買うつもりもありません。俺達はただ、両家の確執を本当の意味で無くしたいだけなんです!」
「余計なお世話だ! そもそもフォルスとアークゲートは相容れぬ! 貴様はアークゲートに近いかもしれないが、私やカイラスは前から何も変わっていない!」
「だからこそ、これからの関わりの中で――」
「そもそも、なぜ一つにする必要がある!? 今まで通りフォルスとアークゲートで分かれていても特に問題はないだろう!」
「子供の事を、考えました!」
声量が次第に大きくなるライラックの伯父上に負けないように、より大きな声で叫んだ。俺が大きな声を出すのが予想外だったのか、言葉を止めるライラックの伯父上。
俺は彼の目を見て、静かに自分の気持ちを語った。
「近い将来生まれるであろう子供の事を考えたときに、俺に何が出来るのか。その答えの一つが、両家を一つにすることです。子に一族を残すときに、フォルスとアークゲートという宿敵の関係同士だった二つの家があるよりも、一つの家の方が良いと、そう思ったんです」
「…………」
俺の言葉にライラックの伯父上は答えなかった。けれどそれは俺の言葉を受け入れている様子じゃない。伯父上は自分の両手の拳を強く握りしめていて、奥歯を強く噛んでいるようだった。
「俺はっ……一切認めんっ……」
「伯父上!」
一人称が変わるくらいの強い怒りを、ライラックの伯父上から感じた。
「勝手にしろっ! 俺はこの件に関しては一切関与しない!」
もう取り付く島もないような状態の伯父上。それを悟って、俺は懐からユティさんが作成してくれた書類を取り出し、テーブルに置いた。
「今回の件に関する詳細な書類です。良ければ目を――」
「くどいっ! 帰れ!」
「……分かりました。失礼しました」
これ以上話しても埒が明かないと思い、俺は頭を下げて部屋を後にしようとする。扉に手をかけたときに、背後から声が聞こえた。
「出来損ないが……」
ドアノブを握る手に力が入る。久しぶりに聞いた言葉だった。
それを気にしないように扉を開き、外へ出る。後ろ手に扉を閉めてしばらくすると、執務室の中で物が倒される音がした。
「結局……相容れないか」
なんとなく分かっていたことを小さく呟く。
これまでのフォルス家を守りたいライラックの伯父上と、将来のために両家を一つにしたい俺。護りたい人と変えたい人で意見が食い違うのは当然だ。だから多少は口論になることを予期してはいた。
けれどまさかここまでこじれるとは、思っても居なかった。
執務室の扉から離れて、俺は一人廊下を歩き始める。その中で、俺はさっきのライラックの伯父上の事を考えていた。
伯父上の言いたいことは全てではないにせよ、分かる。でもそれらを加味しても、俺は両家を一つにしたい。例え伯父上に、兄上に反対されたとしてもそれが最善だと信じているし、何よりも将来の俺達のために、生まれるであろう子供のために、そうしたい。
気持ちを切り替えて、俺は次を考える。カイラスの兄上、ライラックの伯父上には共有した。アークゲート側ではユティさんとオーロラちゃんには共有済みだ。けれどもう一人、いやもう一つの場所でこの意見を共有したい。
「国王陛下の所にも、行かなきゃな」
残った最後の一人を考える。これまでならそこまで不安には思わなかった相手。けれど今は、その姿を思い浮かべるとほんの少しだけ、なぜか知らないけれど不安を感じた。
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