宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第214話 カイラスはやり遂げ、ライラックは未来を確信する

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 今日、私は実家の……いや、ノヴァの屋敷を訪れていた。

「それにしてもカイラス様がこの屋敷を訪れてくださるのは本当に久しぶりの事ですね」

 馬車を降りてから案内をしてくれているローエンにそう言われ、ああ、と軽く返す。屋敷を訪れるのは年単位ぶりではないだろうか。何か用事があるときはノヴァがゲートの機器を使用して私の屋敷へと足を運んでいたというのも理由だ。

「……はぁ、本当最悪」

 そんなことを思い返していた私のすぐ後ろには不貞腐れたような表情のローズが居る。彼女はこの屋敷に来るのが嫌だと最初は言ったものの、私が頼み込んで同行してもらった。

「……ローズ、あまり心の内を態度に出さないでくれ」

「無理よ……嫌って言ったでしょ……っていうかなんで最近はどこ行くにも一緒なのよ……」

 心底不満そうにローズは言うけれど、監視されている以上、一緒に行動した方が良い。とはいえ監視されていると知らせれば彼女が態度に出すのは必然。だから黙っているわけだが、それはそれで彼女の態度が悪化する一方だ。

「こちら、奥方様にご用意した部屋となります。中にメイドが控えていますので、なにか御用があればなんなりと仰せ付けください」

「……ありがとうございます」

 気に入らない相手の夫の屋敷だから好き勝手するかと思ったが、ローエンへの返事は丁寧だった。不貞腐れてはいるが、強く自我を出そうとは考えていないようだ。流石のローズでもこの屋敷の中では傲慢不遜な態度は取らないだろう。

 ローズと部屋の前で別れ、私はローエンと共にフォルス家当主の執務室へ。
 ノックをしてから声を聞き、扉を開けて中に入る。ノヴァは当主の執務机ではなく、長椅子の方に腰かけていた。

「お久しぶりですカイラスの兄上……急に用事があるという事で驚きました。ですがよかったのですか? 私の方から兄上の屋敷に向かうことも出来ましたが」

「いや大丈夫だ。それにお前はフォルス家の当主。たまには相手に訪れさせることも必要だ」

 そう言った私は執務室を見渡す。父上の代でも入ったことがあるが、その時からは当然家具の配置や家具そのものが大きく変わっていた。

 ノヴァの向かいの長椅子に腰かけると、テーブルに私用のお茶が入れられていることに気付く。それに口をつけることもなく、私は口を開いた。

「ところで、奥方様は元気か? そろそろ出産だろう?」

 尋ねると、ノヴァは笑顔を浮かべる。

「ええ、もうすぐだそうです。今の所シアにもお腹の子にも全く問題なく、順調に産まれてくれそうですね」

「順調……か」

 小さく聞こえないくらいの声で呟く。

「レティシア様の事だから問題ないとは思うが、気を付けるに越したことはない。……まあ、私も経験があるわけではないので偉そうなことは言えないがな」

「いえ、兄上の言う通りだと思いますし、お心遣いに感謝します。シアにもしものことがあってはいけないので、そのつもりです」

「心配するだけ無駄だったか」

 小さく笑い、意識を切り替える。軽く世間話は交わしたので、もう良いだろうと思い、私は本題を口にした。

「なあノヴァ、早速になるのだが良ければ剣を交えないか? もちろん木刀で模擬戦だ。お前は多くの者と剣を合わせたと思うが、フォルス家の者と剣を交えたのは久しく昔の事だろう? 今回訪れたのは、お前と剣を合わせたかったからだ」

 個人的にはゼロードの兄上はもうフォルス家ではないと考えているが、その部分は無視した。ノヴァは目を見開いて驚いた後、嬉しそうに頷いた。

「良いのですか? ……ならば遠慮なく。私も昔からカイラスの兄上と剣を合わせたいとは思っていましたから」

「……そうだな」

 ノヴァは剣に生きる男だ。彼にとって剣を合わせるという行為は仲が良い悪いに関わらない。だから断ることはないと思っていたが、予想通りに事が運んだ。

 後は……ノヴァの剣を見極めるだけだ。

「すぐ行いますか?」

「ああ、そうしよう」

 少しだけ心の中で緊張を感じつつ、私は最後の確認をするためにノヴァと共に中庭へと向かった。



 ×××



「ライラック様、お待ちしておりました。旦那様が応接間でお待ちです。案内いたします」

「ああ、頼む」

 カイラスの屋敷を訪れた俺は、彼の屋敷の執事に案内されて応接間へ向かう。

『役割を終えた』

 そんな旨の手紙を受け取った数日後のことだった。どうやらカイラスは早速動いてくれたらしい。その行動に意欲を感じて、少しだけ口角が上がった。

 執事に応接間まで案内され、扉をノック、そして中に入れば、カイラスは立って待っていた。
 服の中からエリザベートから受け取った機器を取り出し、確認をする。彼女の魔法が作用していることを確認して、口を開いた。

「カイラス……どうだった?」

 振り返ったカイラスはチラリと俺の手の中の機器に目を向けた。

「まず我々にとって一番脅威になると思われていたゼロードの兄上を倒したときの力ですが、やはり自分の力ではないようです。レティシア・アークゲートの力であり、なおかつ今は再現できないと本人の口から直接聞きました」

「ふむ……概ね得ていた情報通りか」

 あの時の力だけが不安だったが、悪魔の力であることは変わりない。悪魔が出産で動けなければ、出来損ないが力を発動する可能性はないだろう。つまりエリザベートの計画の不安材料は、これで完全に消えたことになる。

「それで? あの出来損ないの剣の腕は?」

「大したことありません。剣術の腕そのものはかなり高いですが、覇気を発動した我らの足元にも及ばないと思います。レティシア・アークゲートの力が無ければ正面から叩き潰せるでしょう」

「……くくっ、当たり前か」

 分かりきっていた言葉だが、笑みがこぼれてしまう。あの出来損ないは覇気を継承できなかったから出来損ないなのだ。それがたまたま悪魔の力を受けられたからあの地位まで上り詰めただけの事。

 悪魔の力が無ければ、出来損ないなど恐るるに足らない。

 そもそも悪魔が居なければトラヴィスは次期当主にゼロードを、仮にゼロードが居なくてもカイラスを据えていた筈だ。あの出来損ないが選ばれることは絶対になかった筈。こうなるのは必然だ。

「……感謝する。では私はエリザベートにこのことを報告する。あとは決行の日を待つだけだ」

「かしこまりました」

 まっすぐに俺を見返すカイラスの視線から強い意思を感じ、頷いて返す。成功は確定している。求め続けた夢が現実になるのも時間の問題だと、そう確信した。

「時間が解決するが、下手を打つなよカイラス。最後まで油断するな。我らのフォルスを守る為に」

「心得ております、ずっと昔から」

 大丈夫だ。カイラスは最後まできっと油断しない。出来損ないや悪魔に尻尾は掴ませないだろう。これは俺も気を引き締めないとな。そう思い、改めて心の中で兜の緒を締めた。
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