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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第219話 ユティは姉として妹を守る
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私は、どうしてもあの子達を守りたかった。
アークゲート家の直系、その次女として生まれたときから私は争いの中で生きるのが宿命付けられていました。誰がもっともお母様の後継に相応しいかを決める争いです。
けれど私は、この家に不釣り合いなくらいに姉妹思いで……どうしてもその争いに前向きになれませんでした。
『ユティ……もしあなたがもっと周りを切り捨てられれば……もしもメリッサのような苛烈さが少しでもあれば、もっと楽だったのかもしれませんね』
いつか、ノーク先生は私にそう語りました。その時は何のことか分かりませんでしたが、今ならなんとなく分かります。けれどそれが分かってもなお、私は姉妹を強く大切に思ってしまうのです。
本当はメリッサお姉様とも仲良くしたかったけど、それは叶いませんでした。いえ、彼女に関してはもう叶わないことを早い段階から感じて諦めていたのかもしれません。しかし、レティシアとオーラ、あの二人だけは……あの子達だけは別です。
姉として、あの二人を……あの子達を守りたい。今の私が強く思うのは、ただそれだけです。
レティシアに手を差し伸べられなかった。オーラに会うことすら出来なかった。それらは全て過去の私の後悔。
けれど今は違います。レティシアが……あの子が当主になることで私の世界を変えてくれたからこそ、その世界にオーラが太陽のような明るさで私達を照らしてくれるからこそ。
私は、あの子達を守りたい。
屋敷の入り口の扉を開けて、外へ出ながら私は呟きます。
「……システィ」
「はい」
同じことを考えていたのか、システィがどこからともなく現れ、合流してくれました。彼女を一瞥し、私は頷きます。
「この出産は当主様の力が人生でもっとも弱まる瞬間……もし私が当主様の敵なら、この好機を逃すはずはありません。敷地内を回ります」
「かしこまりました。ですが当主様に敵対する勢力など……」
システィが恐る恐るといった形で声を出す。それに関しては私も同意だ。けれど。
「言いたいことは分かります。ですがこれは、私の我儘です。あらゆる脅威に対応しておきたいというあの子の仕事っぷりから学んだことでもあります」
情報部隊から怪しい動きの報告は一切上がっていません。敵対勢力はおろか、敵対する可能性のある勢力すらです。ですが、私はどこか嫌な予感を感じていました。目を瞑ればあの子とノヴァさんが笑い合っているのが見えるのに、それが火に包まれて消える光景が、どうしても消えません。
だから当初は当主様の出産が終わるまでノヴァさんと廊下で待つ予定でしたが、こうして外へ出てきました。
屋敷の外は少し肌寒いものの、天気は良く、昼なので太陽の光が照らしています。
「かしこまりました……どこから回りますか?」
事前に何の打ち合わせもしていなかったものの、システィは私の言葉を受け入れてくれました。それに内心で感謝を告げて、私は屋敷の方を見ます。
「そうですね……こちらでしょうか?」
正確には屋敷の向こうにそびえる忌々しい建物、塔を見て私はそう答え、システィと共に足を進めました。
×××
第六感が、こちらで正しいという事を教えてくれます。その証拠に塔へ近づけば近づくほどに、嫌な予感は大きくなっていきます。どうしてここまで嫌な予感が止まらないのか……それすらも分からないほどに。
屋敷の入り口を出て裏側へ回り込んだ私達は雑木林を進み、塔へと近づきました。このままあと少し歩けば塔に着くくらいまで進んできたところ。オーラが塔を出てからというもの、あの塔に配置される人員は居なくなりました。
だから塔に近いこの場所にも人の姿なんてあるわけがないのに、私とシスティは立ち止まりました。
「……珍しい組み合わせですね」
目の前に立ちはだかる三人の人影。それらに話しかける。
「ライラック・フォルスにカイラス・フォルス……これはどういうことですかティアラ叔母様? 本邸に今日来訪するという連絡は来ていなかったと思いますが」
目の前で私を邪魔そうに睨みつけるティアラ叔母様……いえ、ティアラに対して私はそう言い放ちました。尋ねるような文言ですが、私も私でティアラを睨みつけています。
このタイミングで表からではなく裏から、しかも当主様やノヴァさんとあまり深いかかわりのないライラックとカイラスを連れてくる。この状況が、彼女が何をしようとしているのかの証明になっています。
「そこをどけユースティティア。私にはやらねばならないことがある」
「……申し訳ありませんがティアラ叔母様は現在、本邸への出入りを許可されていません」
「あの邪神が出産するからだろう?」
「…………」
どうして出産の事を、やはりティアラは当主様を害するつもりでここに来たのか、といった色々な考えが頭を巡りますが、私の中に一つの大きな火が灯ります。
この女、あの子の事を邪神と言いましたか?
「……ティアラ・アークゲート。当主様に逆らうものとして、粛清します」
私の言葉に、隣に並ぶシスティが短剣を取り出し構えます。それに倣ってか、ライラックとカイラスも剣の柄に手をかけました。
「貴様らごときが、姉上から直接指導を受け続けた私に敵うものか。しかもこの場にはフォルス家の覇気の使い手が二人もいる。……もう一度言うぞユースティティア、そこをどけ。賢い姪を失いたくはない。何よりも姉上が悲しむ」
確かにティアラは強敵です。裏方専門の私とシスティでは二人掛かりでギリギリでしょう。今のアークゲート家において、ティアラは当主様を除けば一番強い、と言っても過言ではありません。加えてその隣にはフォルス家で一二を争う覇気使いのライラックとカイラス。ゼロードの時よりも明らかに戦力は向こうの方が上。
「……あの人が悲しむわけがないでしょう。人の事を道具としか見ていなかったんですから。近くに居てそんなことも分からなかったんですね。いえ、目が今も曇っている、ということでしょうか」
「……オーロラも生意気になったものだが、お前もだとはな。メリッサにおびえ、逃げていた頃とは大違いだ。やはり邪神はろくなことをしない」
「口を閉じて頂けますか? 邪神邪神と、私の妹の事をそんな風に言わないで欲しいのですが?」
「お前こそ目が曇ったか? あれの力と生き様を見て、邪神以外のどの言葉が思いつくと言うのか」
鼻で笑うティアラに対して私の胸の奥で怒りの炎が燻ります。今すぐにでもその口を物理的に閉じさせてやろうかと思ったとき。
カイラスが剣の柄に手をかけたままでこちらへと歩き出してきました。
「……!?」
咄嗟に手のひらをカイラスに向けます。システィも同じように身構えました。しかしカイラスは無表情で無防備に歩いてくるだけ。
「カイ……ラス……?」
その向こうに立つライラックも唖然として声を上げていますし、先ほどまでは余裕そうだったティアラも笑顔を崩しています。つまりこれは、向こうにとっても予想外の出来事?
私達に近づいたカイラスは深く息を吐き、空を見上げ。
「私は……これよりこちら側に……ノヴァ側につく」
声高に宣言し、剣を抜き放って振り返りました。その切っ先が、ティアラ達に向けられます。
「何を……言っているのだ……カイラス!!」
叫ぶライラック、唖然とするティアラ。それは私達も同じでしょう。まさかこの場で、カイラス・フォルスが寝返るなんて思ってもいませんでした。
「な、なぜ……ですか……?」
声をかければ、カイラスは少しだけ振り向き、横顔だけで答えてくれました。
「ノヴァの剣に、私が進むべき明日を見たからだ」
初めて表情の変化を見せたカイラスは、私の方を見て不敵に微笑みました。兄弟だからでしょうか、その笑みはどこかノヴァさんに似ているようにも感じられます。
「……なるほど、ではライラックをお願いします」
「心得た」
まだ完全に信じたわけではありませんが、私の中の感覚は信じてもいいと告げています。警戒をしつつも、力を借りるのなら問題はないと判断。私は隣に立つシスティと頷き合い、ティアラに厳しい視線を向けます。
戦力的にはこれで完全に不利からやや不利になった程度。しかしすることは変わりません。
あの子達を守る為に尽力する。それこそが私の生きる意味なのですから。
私達とティアラ達の間に、強い風が吹き抜けました。
アークゲート家の直系、その次女として生まれたときから私は争いの中で生きるのが宿命付けられていました。誰がもっともお母様の後継に相応しいかを決める争いです。
けれど私は、この家に不釣り合いなくらいに姉妹思いで……どうしてもその争いに前向きになれませんでした。
『ユティ……もしあなたがもっと周りを切り捨てられれば……もしもメリッサのような苛烈さが少しでもあれば、もっと楽だったのかもしれませんね』
いつか、ノーク先生は私にそう語りました。その時は何のことか分かりませんでしたが、今ならなんとなく分かります。けれどそれが分かってもなお、私は姉妹を強く大切に思ってしまうのです。
本当はメリッサお姉様とも仲良くしたかったけど、それは叶いませんでした。いえ、彼女に関してはもう叶わないことを早い段階から感じて諦めていたのかもしれません。しかし、レティシアとオーラ、あの二人だけは……あの子達だけは別です。
姉として、あの二人を……あの子達を守りたい。今の私が強く思うのは、ただそれだけです。
レティシアに手を差し伸べられなかった。オーラに会うことすら出来なかった。それらは全て過去の私の後悔。
けれど今は違います。レティシアが……あの子が当主になることで私の世界を変えてくれたからこそ、その世界にオーラが太陽のような明るさで私達を照らしてくれるからこそ。
私は、あの子達を守りたい。
屋敷の入り口の扉を開けて、外へ出ながら私は呟きます。
「……システィ」
「はい」
同じことを考えていたのか、システィがどこからともなく現れ、合流してくれました。彼女を一瞥し、私は頷きます。
「この出産は当主様の力が人生でもっとも弱まる瞬間……もし私が当主様の敵なら、この好機を逃すはずはありません。敷地内を回ります」
「かしこまりました。ですが当主様に敵対する勢力など……」
システィが恐る恐るといった形で声を出す。それに関しては私も同意だ。けれど。
「言いたいことは分かります。ですがこれは、私の我儘です。あらゆる脅威に対応しておきたいというあの子の仕事っぷりから学んだことでもあります」
情報部隊から怪しい動きの報告は一切上がっていません。敵対勢力はおろか、敵対する可能性のある勢力すらです。ですが、私はどこか嫌な予感を感じていました。目を瞑ればあの子とノヴァさんが笑い合っているのが見えるのに、それが火に包まれて消える光景が、どうしても消えません。
だから当初は当主様の出産が終わるまでノヴァさんと廊下で待つ予定でしたが、こうして外へ出てきました。
屋敷の外は少し肌寒いものの、天気は良く、昼なので太陽の光が照らしています。
「かしこまりました……どこから回りますか?」
事前に何の打ち合わせもしていなかったものの、システィは私の言葉を受け入れてくれました。それに内心で感謝を告げて、私は屋敷の方を見ます。
「そうですね……こちらでしょうか?」
正確には屋敷の向こうにそびえる忌々しい建物、塔を見て私はそう答え、システィと共に足を進めました。
×××
第六感が、こちらで正しいという事を教えてくれます。その証拠に塔へ近づけば近づくほどに、嫌な予感は大きくなっていきます。どうしてここまで嫌な予感が止まらないのか……それすらも分からないほどに。
屋敷の入り口を出て裏側へ回り込んだ私達は雑木林を進み、塔へと近づきました。このままあと少し歩けば塔に着くくらいまで進んできたところ。オーラが塔を出てからというもの、あの塔に配置される人員は居なくなりました。
だから塔に近いこの場所にも人の姿なんてあるわけがないのに、私とシスティは立ち止まりました。
「……珍しい組み合わせですね」
目の前に立ちはだかる三人の人影。それらに話しかける。
「ライラック・フォルスにカイラス・フォルス……これはどういうことですかティアラ叔母様? 本邸に今日来訪するという連絡は来ていなかったと思いますが」
目の前で私を邪魔そうに睨みつけるティアラ叔母様……いえ、ティアラに対して私はそう言い放ちました。尋ねるような文言ですが、私も私でティアラを睨みつけています。
このタイミングで表からではなく裏から、しかも当主様やノヴァさんとあまり深いかかわりのないライラックとカイラスを連れてくる。この状況が、彼女が何をしようとしているのかの証明になっています。
「そこをどけユースティティア。私にはやらねばならないことがある」
「……申し訳ありませんがティアラ叔母様は現在、本邸への出入りを許可されていません」
「あの邪神が出産するからだろう?」
「…………」
どうして出産の事を、やはりティアラは当主様を害するつもりでここに来たのか、といった色々な考えが頭を巡りますが、私の中に一つの大きな火が灯ります。
この女、あの子の事を邪神と言いましたか?
「……ティアラ・アークゲート。当主様に逆らうものとして、粛清します」
私の言葉に、隣に並ぶシスティが短剣を取り出し構えます。それに倣ってか、ライラックとカイラスも剣の柄に手をかけました。
「貴様らごときが、姉上から直接指導を受け続けた私に敵うものか。しかもこの場にはフォルス家の覇気の使い手が二人もいる。……もう一度言うぞユースティティア、そこをどけ。賢い姪を失いたくはない。何よりも姉上が悲しむ」
確かにティアラは強敵です。裏方専門の私とシスティでは二人掛かりでギリギリでしょう。今のアークゲート家において、ティアラは当主様を除けば一番強い、と言っても過言ではありません。加えてその隣にはフォルス家で一二を争う覇気使いのライラックとカイラス。ゼロードの時よりも明らかに戦力は向こうの方が上。
「……あの人が悲しむわけがないでしょう。人の事を道具としか見ていなかったんですから。近くに居てそんなことも分からなかったんですね。いえ、目が今も曇っている、ということでしょうか」
「……オーロラも生意気になったものだが、お前もだとはな。メリッサにおびえ、逃げていた頃とは大違いだ。やはり邪神はろくなことをしない」
「口を閉じて頂けますか? 邪神邪神と、私の妹の事をそんな風に言わないで欲しいのですが?」
「お前こそ目が曇ったか? あれの力と生き様を見て、邪神以外のどの言葉が思いつくと言うのか」
鼻で笑うティアラに対して私の胸の奥で怒りの炎が燻ります。今すぐにでもその口を物理的に閉じさせてやろうかと思ったとき。
カイラスが剣の柄に手をかけたままでこちらへと歩き出してきました。
「……!?」
咄嗟に手のひらをカイラスに向けます。システィも同じように身構えました。しかしカイラスは無表情で無防備に歩いてくるだけ。
「カイ……ラス……?」
その向こうに立つライラックも唖然として声を上げていますし、先ほどまでは余裕そうだったティアラも笑顔を崩しています。つまりこれは、向こうにとっても予想外の出来事?
私達に近づいたカイラスは深く息を吐き、空を見上げ。
「私は……これよりこちら側に……ノヴァ側につく」
声高に宣言し、剣を抜き放って振り返りました。その切っ先が、ティアラ達に向けられます。
「何を……言っているのだ……カイラス!!」
叫ぶライラック、唖然とするティアラ。それは私達も同じでしょう。まさかこの場で、カイラス・フォルスが寝返るなんて思ってもいませんでした。
「な、なぜ……ですか……?」
声をかければ、カイラスは少しだけ振り向き、横顔だけで答えてくれました。
「ノヴァの剣に、私が進むべき明日を見たからだ」
初めて表情の変化を見せたカイラスは、私の方を見て不敵に微笑みました。兄弟だからでしょうか、その笑みはどこかノヴァさんに似ているようにも感じられます。
「……なるほど、ではライラックをお願いします」
「心得た」
まだ完全に信じたわけではありませんが、私の中の感覚は信じてもいいと告げています。警戒をしつつも、力を借りるのなら問題はないと判断。私は隣に立つシスティと頷き合い、ティアラに厳しい視線を向けます。
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